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マルデ攻城戦 4

案の定、夕方に俺らがマルデに到着した時には、バリスタによる広範囲での被害の話でにぎわっていた。
いま俺たちが拠点としている場所は、アレの射程距離からはかなり離れているとはいえ、あんなものを見せられた日には……とか、今朝の攻撃で千人以上が死んだとか。
「捕虜の死体をひと固まりにして投げ込むときもあるって話だぞ、なんともえげつないやり方だな」
そんな与太話を背中で聞きながら、俺はだれが作ったのか分からない薄くて味のしないスープと、石のように硬いパンをせっせと腹に流し込んだ。
クソマズくっても息を止めて我慢して食わなきゃ、相手より先に自分の方が倒れちまうしな。
そして、とにかく寝れるうちに寝とくことも。
すきま風の吹く小屋に、誰が使ったか分からない泥まみれの寝具。それが今日の宿泊場所だ。でも文句なんて言う気はしない。野宿するより何千倍もましだからだ。
あ、でも昨日同様ラザトは全然眠れなかったみたいだけど。

………………
…………
……
血と、たくさんの死体を焼いている焦げ臭い朝の空気。それが目覚まし代わりだ。
朝めしとして取っておいたパンを黙々と頬張りながら、俺は準備を整えた。
寝床のシーツを引きはがし、それをグルグルと左腕に巻き付け、同様に外でくすねた荒縄でそいつをがっしり固定する。
同様に脛と腹にも巻き付けて……終わり!
「鎧代わりだ。これでも結構頑丈なんだぜ」
相変わらずバカにした目でラザトが聞いてきた。「どっかから鉄の脛あてでも取って来いよ、貧乏くさい装備だな」って。だから俺なりの答えで返す。
そう、俺はずっと現地調達のこういう装備で戦ってきたんだし。いざというときは包帯としても使える。便利だろ? って。
ガシャガシャうるさい鉄の胸当てと腕鎧。ラザトの装備って初めて見た。人間っていうのはこんなの着けていないと一撃でぶった切られちゃうくらい柔らかな身体してるんだな。

濃い霧の中で打ち合わせが始まった。
とは言っても俺が聞いてもさっぱりなんで、ラザトが聞いてきてくれているんだけど。
やっぱり……というか、俺たちは最初に先陣突っ切る仕事らしい。まあそんなことは最初っから分かっていたことだけど。
でも聞いたところによると、あちらさんも援軍が到着したとかで、戦力としても人数としても完全にこっちが負けている。
俺たち傭兵組は、最初っからかなり不利な状況でのスタートとなるわけだ。
「そーなると思ってたぜ。だから死を覚悟しろと兄ィは言ってたんだな」
「でもそれくらい不利な方のが面白くない?」
そうだ、ワクワクが治まらないんだ。楽しいんだ。
俺はいつだってそうだった。だって……
俺の居場所はここなんだから。

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