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そしてまた戦場へ

「まず最初に言っておく、今回の仕事……カネは出ない」
一発目からキツい事言いやがる。まあいい、こっちにはラザトにも話してない金がたんまりあるしな。

「おそらく、お前はそれでもいいって答えるだろうな。だから俺もこれに関してはなにも言わん」

そうこなくっちゃ。俺にとっても久々の仕事だ。腕がなるぜ。

要するに今回のマシューネ軍派兵でリオネングも財政が結構カツカツなんだそうだ。これで生きて帰れたらいつか報奨金は渡すとはいってるが……期待しないほうがいいな。

「おまけに同行してくれる連中もほとんどいない。これも言わねえでも分かるな」
終戦宣言以降散々やってきた掃討の仕事。でもって敵さんは……それも言わねえでも分かるだろ。

「今回の相手はもはやオコニドじゃない……。そうだな、あえて名前をつけるとしたら、人の姿をした獣。『人獣』って奴らだ」
俺たちが獣人で奴らが人獣……ちょっと頭の中がややこしくなってきたけど、つまりはいつものバケモノってこった。そうだ、奴らはもう人間でもなんでもない。ためらう必要なんかない。

この前の襲撃があったところとは正反対。西の城門からずっと馬で下っていったところに大きな森がある。鬱蒼と茂った木々で昼間でも薄暗い……まさに奴らにとっては過ごしやすい場所。
マシューネ軍はそこを通る際、人獣の待ち伏せを食らって……生き残った数人が虫の息でここまでたどり着いたワケだ。
「第一陣って何人くらいいたんだ?」
「100人だ。第二陣も同数でトータル200人のマシューネ軍がここに来てくれる予定だったんだが……これも全滅させられちまうと、マシューネとリオネングの同盟関係にも亀裂が生じてしまう。だから俺らだけで、二陣が来る前に人獣を全員刈り取って置かなければいけねえってことだ」

国の未来もかかってるってわけだな……となるとなおさら気合い入れて挑まねえとな。

でもって、支度を終え次第すぐに城門の前に集まれという急ぎっぷり。そりゃそうか、マシューネが来る前に森の中をキレイにしておかなきゃいけないワケだし。
…………
……

チビどもも眠った深夜、俺はまだ血の匂いがうっすらと残る愛用の革鎧に腕を通した。

「いつものお前の事だから大丈夫とは思う……が、相方には気をつけるんだぞ」
ラザトもいつもと同様の飲んだくれモードに戻っていた。いざとなったらこの家は守っておけとは忠告してはいるが……期待できそうにもないな。
「相方? なんだそりゃ?」
「もう少し待てばわかる……それとお前、馬には乗れたか?」
俺はいいやと答えた。前にも話したとおり、基本的に目的地までは馬車で行くのが普通だったから、馬そのものには乗ったことがなかったし。

「……そりゃちょっとヤベえな」とラザトは言うものの。もしかして最悪のパターン!?
「輸送用の馬車が全部出払っちまってるって話だ。馬は貸してくれるらしいが、乗れねえと……な」

おいおい待てよ、するってえとぶっつけ本番で馬に乗っていけってことか!?
ラザトも半ば呆れ顔で「そーゆーこった。落馬しないように頑張れ」ってそっけない激励ひとつ。

心をちょっとでも落ち着かせるために愛用の大斧を磨いていると、程なくして玄関の向こうから蹄の音が聞こえてきた。

ラザトに簡単に別れを告げていざ……と外に出たときだった。

相方って、こいつのことだったのか……と、一瞬にして俺の頭の中は真っ白になってしまった。
「お前か……用意はできてるだろうな」

……あの大女が馬の上から、俺のことを見下すかのように言い放った。

さすがにもう仕事のキャンセルはできないだろうな……

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