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暗雲

帰り道の途中でチビを連れたフィンと合流し、他愛ない話をしながらどっかで飯でも食うかって思っていた時だった。
何やら表通りに異様な人だかりがしているのが見えた。
大道芸でも来たのか? いや……それにしちゃ歓声とか聞こえてこないし。遠くにいても耳だけはいいからな。いやに静かすぎる。
俺たちが駆けつける間に、リオネングの兵も何人か走っていくのが見えた。何かあったのか? いや分からんと。こいつらにも分からないって何なんだ一体⁉

「……なんなんだ、いったい」その光景を見たとき、思わず声が出ちまった。
血まみれの、虫の息の男が三人。いや五人ばかしいるんだが、残り二人はすでにこと切れている状態だ。見かねたのか、通行人が白いシーツをかぶせている。
しかしこいつら、ここらじゃ見たことのない形状の鎧を着てる……やじ馬の足元を潜り抜けてみてきたフィンが言うには「あれもしかしたらマシューネの人かも」だと。
「お前、血は怖くないのか?」俺の方はといえば、チビにそれを見させないように手で目を隠しながら覗く状態だ。見づらいったらありゃしねえ。
「そこまで怖くない、もっと小さいころに親父に連れられていろんな戦場を見てきたし」
そっか、こいつの親父はギルド長だったしな。だとしたら当然かとも思えるし。
「なに見てるの?」
「お前にはちょっと見せられねえヤツだ」そう、チビには俺らと同じ道歩ませたくないしな。

そういやマシューネって、たしかうちの王子様とかルースたちがこの前行った国だったっけか。しばらくの間あちらの軍の人たちを借りたいとかなんとかって。
そうこうしているうちに、今度は黒い馬にまたがった全身鎧に身を固めたやつが……っておい!
「あいつ、この前うちで暴れたヤツじゃ……」ああ、と俺もつい呆気にとられてそれしか答えられなかった。
兜をかぶっていなかったから分かった。真っ白なきついカールのかかった短髪に対照的な黒い肌。そして誰でもにらみつけているかのような三白眼……マティエだ!
あいつは野次馬な俺を一瞥することもなく、マシューネらしき兵の介抱をしていた。
「しっかりしろ、なにに襲われたんだ!」と周りのリオネング兵が聞くものの、相手は口から血の泡をごぼごぼと吹き出すばかりで一向にしゃべれない……こいつも長くないだろうな。
あとから来た兵たちがマシューネの連中を運び出し、瞬く間に通りは何事もないかのように、またいつもの活気に戻っていた。

……おびただしい地面の血だまりを残して。

「なんだったんだろ、あれ……」
「夜盗の襲撃で設けたんじゃねえのか?」なんて至る所で噂が出たり消えたり。
いや、夜盗なんてそんなちんけなもんじゃねえ。第一マシューネの兵隊だろ? ここへ来るからに普通の兵なんて寄こしては来ないはずだ。
そんな連中をここまで、半死半生にまでさせるくらいの夜盗なんてもうここら辺にはいないはずだ。俺も依頼された仕事がてら何度もそんな危険な連中は片づけてきたんだし。
だとしたら……いや、まさかな……
「ラッシュ、腹減ったよ、近くのパン屋行こうぜ」
でも、やっぱり迫る空腹には勝つことができなかった。

だけどわかる、近いうちに大きな依頼かなにかが来そうな匂いが。以前城の武器庫が襲撃されたって噂があった時も……そうだ、翌朝には騎士団の連中が俺のトコに直に仕事を申しつけに来たしな。
「おとうたん、おなかすいた」
「ん、そうだな……メシ食うか。お前は何食べたい?」
ちょっと悩んだ後、チビはおっきなサンドイッチ食べたいと大きく手を広げて言ってきた。
そうだな。じゃあフィンと一緒にそこのパン屋で買ってくか。


その夜、俺の予想はすぐに当たった。
久しぶりのギルド会合ってことでずっと出かけてたラザトが、柄にもないほどの厳しい顔つきをして帰ってきたからだ。
「マシューネからの派兵第一陣がヤツらに襲撃を受けたとの連絡がきた……。お前の頭の中なんて後回しだ。でかい仕事が来たぞ」

そうこなくっちゃな!

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