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角無し羊 その2

「早くどっかに隠れたほうがいい! そこにいると飛ばされちまうぞ!」
しかしその声もすぐにかき消されてしまうほどの砂嵐が視界を覆い始めた。目も開けていられないほどに。
だが彼女は違っていた。何かを探していた。
じっと目をこらしたその中に潜む、無数の人影の存在を。
あるものは岩陰に隠れ、そしてあるものは地面に埋もれて。
おおよそ人間には捕捉すら難しいであろうその違和感が、彼女は見分けることができた。
太く長い、彼女の巨躯すら超える槍を小脇に構え、ゆっくりと歩き始める。まるで自身から罠にかかりにでも行くように。
積もった砂地に蹄の爪先がじりじりと沈んでゆく。
と同時に、前方の岩を上から一匹の小さな影が飛びかかってきた。
だが彼女は最初からそれを見越していたかのように、その「人獣」の細い首を掴み、太い指でごきりと握りつぶした。
二匹目の骸をポイと投げ捨てると、間髪を入れずにおびただしい数の人獣が彼女に向かって襲いかかってきた。その手には錆びて刃の欠けた剣や、いくつもの木切れをより合わせた槍と粗末なものばかり。おそらくは戦場で拾い集めてきたものだろう。
彼女のもつ豪槍はそんな人獣たちを武器ごと難なく叩き斬ってしまい、瞬く間に骸の山を築いていった。
「すげえ……」吹き付ける砂塵で真っ赤に充血した目をこすりながら、男はつぶやいた。
襲いかかってくる人獣を、まるで埃を払うかの如く、いとも簡単に葬り去る彼女の背中をじっと見つめながら。
「あんな奴がマシューネにいたのか……」
よく見ると、彼女の短くカールした髪の左右には、耳の他に、石を削ったかのような髪飾りらしきものか見てとれた。
「あれは……!」
目を凝らすと、それは何かが折れた痕跡にも見える。
「ツノ……⁉︎ まさか、あの獣人は……」
男は必死に思い出していた。かつてマシューネで名を馳せた、伝説の女獣人がいた事を。

「もしや……『シィレの角無し羊』⁉︎」

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