閑話:バレンタイン小話
これは乙女ゲーム「花咲く乙女達の協奏曲」の主役であるフローレンシアに転生した喪女さんが、転生する前、美作可憐であった頃の話。
2月14日、それは喪女さんにとっては何の関係もないイベントの日であった。それ所か、この喪女、日付さえ曖昧に憶えていた位である。
「こんばんはー、りっくん呼んだー?」
「おう、可憐。どうよこの装いは」
「おー、なんかキラキラしてんねぇ? 何かイベント?」
その恋人達の甘い甘い日、美作可憐は幼馴染で美容師であるりっくんこと森ノ宮陸景に、用があるから美容院に来るように呼び出されたのだ。
「んー? このチョコレート色の装いは……あー! バレンタインかぁ! そういや2月だもんねぇ。縁がないからすっかり忘れてたよー」
「お前はそういう奴だから気にしてねえよ」
「あー、何時もチョコの事忘れてて御免ねー」
「良いっての。別にチョコが好きってわけでもねえし」
「まったまたー」
りっくんは割と甘い物好き、可憐はそう記憶していた。
「あー……これってチョコアロマ?」
「そうだ。良いだろ?」
「うんうん、甘い香りがまた良いよねぇ」
「で、これだ」
「ふぉおお!? これ作ったの!?」
可憐に差し出されたのはおそらくりっくんが作ったであろう、生チョコトリュフであった。
「じゃ、失礼して一つ……(パクっ)むー! いやー! 口の中で解けるぅ♪」
「気に入ったか?」
「うんうん! いやぁ、家事全般得意なりっくんはきっと良いお婿さんになるよ!」
「そ、そうか? うん、そうか」
「そうだよー」
りっくんはきっと思ったはず。これ、今日ならイケるんじゃね? と。
「でな、可憐。今日は……」
「分かってる分かってる」
「……え? マジでか?」
「うんうん。デモンストレーションなんでしょ? 明日が本番なのよね!」
「……は?」
「お店のイベントか、本命さんが居るのかは知らないけど、成功間違い無しだよ! 生チョコトリュフごちそうさま! その味だったら狙ってる女の子もイチコロだよ! じゃ、また呼んでねー!」
「え、あ? ちょ……」
「さーゲームの続きだー! 待ってろよー、逆ハーコンプ、してやんぜー!」
「……えぇ?」
ここからは俺の予想でしか無いが、恐らくこの日はバレンタイン当日である。残念の化身喪女さんが、前日かその前かは知らないが、日付を勘違いしていたのであろう。そしてきっとりっくんはこう言ったはず。
「イチコロじゃねえじゃん……」
って。
………
……
…
「なぁんて事もあったんですよねぇ」
「……え? それ、本当なのフローラ」
「ほんとほんと。乙女様もそういうイベントって好きよね?」
「え、ええ、まぁ。そうだけど……」
時は現実に戻り、バレンタインの風習とその思い出を乙女様に語って聞かせている所であった。勿論ナビも居るぞ。
<居るよー>
「何言ってんのかしらこの二人は。でね、乙女様。りっくんも抜けてるんだよ? デモンストレーションのつもりで呼んでくれたんだろうけど、後で気付いたらその日、バレンタイン当日だったんだよね! あれじゃ本命の子逃しちゃったんじゃないかなぁ?」
「ええ……きっと、そう、ね」
実際そうだしな。
「だよね!? 乙女様もそう思うよねー」
<え? この子、本気?>
本気本気。
「りっくん、かわいそうね……」
「そうよねー。日付間違えちゃうなんてねー」
神かな? 喪女の。
「いきなり貶めるなんて相変わらず酷いノーコンだな」
「フローラ? いえ、美作可憐ちゃん」
<かーれーんー>
喪女さんや。
「え? 皆してどうしたの?」
酷いのはお前だ「酷いのはあんたよ」<あんた最悪>
「えええ!? 何で皆してぇ……!?」