また逢おう
「お前、あの時そばにいたんじゃなかったか?」
「俺……が!?」
その時だった。また鼻面の傷跡に、一瞬斬りつけられたような鋭い痛みが走った。
薄い鋭利な切っ先が走り抜けたかのような、そんな痛みだった。
「大丈夫ラッシュ? なんか具合悪そうな顔してるけど」
トガリが隣で心配そうな顔をしている。しかしいったい何なんだこれ。教会に行ったときといいこれといい、俺の身体になにが起きてるんだ?
「きれいさっぱり忘れちまったのか……ハァ。こりゃ重症だな。せっかく思い出話でいっぱいやろうかと思ってたのによ」
すかさずトガリが、俺は酒は全然ダメだとフォロー入れてくれたはいいが、ラザトの話、なにか心の奥に引っかかるものがある。
とはいえこういうときはいくら悩んだって無駄だ。俺はすぐに話題を元に戻した。
「それはまあいいとして、ラザト……親方。これ読めるか?」
端からみたら嫌がられるほどでかいげっぷを一発。悪い、あとで吐く。
「ああ……こりゃナヴァルヴァーデって書いてある。オコニドの言葉で、また逢おうって意味だ」
ラザトは続けた。この言葉は友人とか仲のいい奴に対して使うんだそうだ。
……え、仲のいい奴?
さっきトガリから聞いたように、チビを送ってくれた人物は人間で、しかも鎧着た奴で。俺の記憶の中にそれが該当するのはいない。
だとしたらこの手紙の主は一体……?
「下んトコに手紙の主の名前書いてあるな、これもオコニド文字だ」
「え……誰だ、そいつ!?」
「ゲイルって書かれてるな。お前の友達か?」
「「ゲイルぅ!?」」
トガリと二人して声を上げた。そういやここ数ヶ月あまりあいつの姿見てなかったし。だからまた故郷にでも帰ったのかな、なんて話してたんだ。
だけど、よりによってなぜあいつが……しかも、あいつ人間じゃないぞ、俺たちと同じ獣人なんだぜ?
ワケが分からねえ。チビに今一度聞いてみたいところなんだが、あいつは部屋にこもったっきりだし……
そう、まだこのときの俺には知る由もなかった。
この二つの事件がすべて、俺の今後の生きる道に深く関わってくるだなんて……