瞬殺
5人程度ならすぐ蹴散らすまでだ。
気配を隠して挟み撃ちとか役割分担とかルースとゲイルは話していたが、そんな小難しいモン俺には一切必要ない。
やるときはいつも正面からだと俺は決めている。戦場ではいつも俺はそうやって戦ってきた、あっという間に済ませてやる……なんだったら100人でも構わねえ、今はそんな気分だ。
……ふと、さっきまでむず痒かった気分がウソのように消えて、代わりに全身に熱い血が駆け巡ってくる感覚が久々に蘇ってきた。
そうだ、この感覚! 俺の前に立ちはだかる奴らは全て斬り殺してやるだけだ。
俺は背負った大斧の止め具を外し手にとった。ズッシリと、だが心地よい重さが両腕にかかってくる。
こいつを使うのは初めてだな……なんて今更ながら思った。
そうそう、泣き止まないチビは茂みに隠した。それを遠目でみていたジールの顔、すごい驚いてたな。
「なにこの子⁉︎」って声が聞こえそうなくらい、あいつも同じ猫獣人のゲイル同様目をまん丸くして。
つーか、なにと言いたいのは俺も一種だ。
馬車の前では人間が3人、早朝にトガリが焼いてくれたパンも入っている俺らの荷物を全部ぶちまけて、何かを相談してた。こいつら山分けでもする気か。
さて……と。俺は上体を低くして相手に向かってダッシュ。まず手前にいる一人目に向けて、下から上へと大きく斧を振り上げる。
相手は俺に驚く間もなく宙に舞っていった、身体が脇腹から斜め半分に分かれて。
そして斧を持ち替え、すぐさま隣にいる二人目を、横一文字に一気に斬る!
一瞬「見つけた!」「奴か⁉︎」って言葉がどっかから聞こえた気がしたが、そんなことは知るか。まったく警戒もしていないお前らが悪いんだ、死んでから反省してろ。
そして三人目。慌てて腰に下げた剣を抜こうとするが、もう遅い。
俺は正面からタックルした後、仰向けにひっくり返ったその首元にすとんと刃を落とした。
すると今度は上から奇声が。
ナイフを構えた四人目が、馬車の屋根から俺の所へと飛びかかろうとしていた……のだが、突如、そいつは力無く地面にどしゃりと落ちた。
絶命していたそいつの背中には、ナイフが3本、きれいに深く刺さっている、ジールがやってくれたのか。まったく、いらん世話しやがって。
さて、残りの一人は……
「うわっ、もう4人済ませちゃったんですか、早っ!」
いつの間にか俺の頭の上から消えていたルースが、後ろから遅れてやってきた。
さっきまでの険しい表情はいつの間にやら消えている。
「さすが! 疾風のラッシュの異名はダテじゃないですね」
おい、さっきとまた名前が変わってねえか?
そんな上機嫌のルースに残りの奴はどうしたかと聞くと「それならもう大丈夫です。私とゲイルさんで挟み撃ちにして仕留めましたから」と、あっさり答えやがった。
早ぇなこの二人も。いや、ジールもか。
「これで全員だな」と、ルースに続きゲイルが最後の一人を、俺の目の前に放り投げてきた。
これで5人…いや、ガグに化けてた奴も含めて6人か。全員ぶっ殺して終了となったわけだ。
一応調べてみはしたが、めぼしいものは何も持ってない。要は掃除しようにも収穫ゼロ。だから俺たちを狩ろうって魂胆だったのか。まあ相手が悪すぎだったけどな。
……しかし、よくよく見るとこいつら、なんか変だ。
最初は人間の盗賊連中かと思ってたが……いや、人間のようで人間に見えない。
やや青緑色がかった肌に細長い枯れ枝のような手足。そして……
「……これ」死体を調べていたルースが言葉に詰まった。
いわゆる白目が真っ黄色なんだ。ギラギラと光を反射していて、まるで月みたいな怪しげな輝き。
「人間……なのか、これ」同じくゲイルも言葉に詰まっていた。
「気持ち悪いですけど、これは研究するに値しますね」と言ってルースは、比較的綺麗な怪物の身体ージールが仕留めた奴ーをザックに詰めていた。なにするんだこいつ?
しかし奴らが言ってた「見つけた」って、一体何のことだったんだか。誰か賞金首でもいたっけか?