父ちゃん
「よく切れる斧だな。かなり腕のいい職人がこさえた物と見たが……」ゲイルが俺の大斧の第一号の犠牲者の切れ口を見て、感心している。
そうだ、今まで戦場でいろいろな武器を使ってきたが、こいつの切れ味は正直予想以上だった。
重さでぶん殴る斧じゃない、斬るための、剣のように鋭い大斧なんだ。どんな名の知れた鍛冶屋が作ってくれたのかは知ったこっちゃねえ。こいつにはキラキラの宝石1個分の価値が、価値が……
って、ま さ か⁉︎
俺の背中に冷や汗が走った。
そうだ、きっとこいつだ!
盗賊共はこいつを狙ってきたんだ! 俺のこの斧を!
だとしたら、奴らが「見つけた」って言ってたのもうなづける。そんだけ値打ちが付いちまってるってことか……この大斧に。
となると、あの時行った武器屋のオヤジが、こいつの価値とか、誰が持っているのかを言いふらしでもしたのか!
冗談じゃねえ! 俺はあのオヤジにまんまとハメられたってことじゃねえか。許せねえ。帰ったらすぐにあのオヤジを捕まえて叩き斬ってやる!
……いや、殺したら意味ねーか。二.三十発殴ってシメておくとするか、それとも……
なんていろいろ考えてた時、草むらからジールが姿を現した、手にはチビを抱いて。
「ほーらよしよし、泣き止んだねいい子いい子。もうすぐお父ちゃんと代わりますからね~」
あいつ、子供の扱い手慣れてるな。ちょっと感心した。しかし……
「はいラッシュ、あんたの子供でしょ、パス」
「いや、俺の子供じゃねーし」
「どこから拾ってきたのかは分からないけどさ、でもこの子あんたのでしょ? ラッシュお父ちゃん」
「だ! か! ら! 俺は父ちゃんじゃねえって!」
その言葉に、またチビはつんざくような声で泣き始めた。
「おーこわっ、お父ちゃん短気だし声はデカいしで最低ですよね~」
ルースがジールの足元でけらけら笑いながら言ってきた。
「お前ら…」
殴りたい気持ちをぐっと抑えながら、俺たちは結局収穫ゼロのまま帰路についた。
だが、この人間ともつかない盗賊の存在が、俺たちの運命……いや、この戦争の勝敗を左右する事になろうとは、まだ全然わかってはいなかった。