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口より先に……

ルースだけじゃない、親方の死後、数名の獣人がこのギルドを頼って入ってきた。 
 一人はゲイルといって、以前他のギルドのほうが待遇がいいからって逃げた獅子族のやつだ。そいつが言うには、他の傭兵ギルドも解体させられたか縮小を余儀なくさせられたとかで、居場所がなくなってまたここに戻ってきたそうだ。  
 しかしこいつは俺のとこで以前逃げ出した前科がある、確か前にも話したっけか、獅子族のやつ。
 よくもまあ平気な顔して戻ってこれたもんだな、と俺はへらへらしながら帰ってきたそいつの顔を殴り飛ばしてやった。 でもひたすら頼み込むので俺は勝手にしろと言って許してやった。だけど、今度逃げたら容赦しねえぞと釘を差しておいたけどな。  

 その他にも何人か加わってきたんだが、正直戦いに適した人材には見えない。おおかた職探しがてら入ってきたんだろう。名前すらもう忘れた。

 馬車から降りた時、ふと天井から、トンと小さく蹴るような音が聞こえた。 
 音もなく俺たちの目の前に着地してきたのは、見慣れた姿……ジールだ!
「お久しぶり、元気にしてた?」
「うっわー! お久しぶりですジールさん!」
  真っ先に答えてきたのは俺じゃなく、ルースの方だった。しかもいきなりジャンプしてジールに抱きついてきやがったし。いったい何なんだこいつは。  
 ジールが言うには、仕事が終わって帰路につく途中、俺たちの馬車を発見したらしい。でもって屋根に飛び移ってずっと揺られてきたそうだ。全然分からなかったな。
 だけどなんで、俺たちが馬車に乗ってるってわかったんだ……? でもそんなことはどうでもいい、ジールには話したいことが山ほどある。 
 親方が死んだこと、戦争が終わりつつあること、そしてあの時の言葉の意味を。

「うん。聞いたよ、おやっさん、ここんとこだいぶ身体弱ってたしね……」 親方のことを話すと、ジールは寂しそうな顔で遠くを見つめていた。
「以前いたサーカス団が火事でダメになっちゃった時にね、そこの団長がおやっさんと旧知の仲らしくて、それ経由でとあるギルドの人があたしを買ってくれたんだ」 
 ジールはあまり自分のことを話したことがなかった。サーカス団に拾われてナイフ投げの腕を磨いたことくらいしか俺は知らなかったし。
「ルースとは結構古い仲なんだ、彼、毒薬のプロフェッショナルでしょ、だから任務で一緒に組んだりとかけっこうあるしね」
 小さなルースを抱え上げ、ジールは明るく話し始めた。俺と同じくらいの身長のジールに、ひざ丈くらいまでの背丈しかないルース。なんていうか、こうやってみるとまるで親子みたいだ。
 そうだな、湿っぽい話はまた今度にでもするか。

「ルースってこういう毛の色でしょ、だから自分でやる暗殺の仕事とかはそこそこだけど、薬を相手に売って間接的に殺した数を加えると、たぶんラッシュと同じくらい殺してるよ」
「いやだなあジールさん、僕の功績なんてラッシュさんほどじゃないですから」  
 ……ほんとに仲いいなこの二人。
「ついたあだ名が《純白の堕天使》だからね、ラッシュもあんまり彼を怒らせないほうがいいよ」  
 純白はわかるがなにが堕天使なんだ。つーか堕天使ってどういう意味だと俺は悩んだ。難しい言葉を出されるのは苦手なんだよな。
「戦場での二つ名が数多くあるラッシュさんと違って、僕は一つだけですし、まだまだですよ」 ルースは照れくさそうに頭をポリポリかいている、だが俺にそんなに二つ名ってあっただろうか。俺は思い切って二人に聞いてみた。
「赤毛のラッシュに白鼻のラッシュでしょ、いや、鼻白だったかな」 「戦鬼と共食い、血煙とも言われてましたよ、それとケモノ臭いラッシュって」 「あー、クサいのは仲間内で言われてたんじゃなかったかな、ラッシュは風呂嫌いだからね、今日も相変わらず汗クサいし」 ジールが鼻をつまんで手をパタパタさせてきた、オーバーなんだよ全く。
「そうそう、確かに。ラッシュさん結構ニオいますもんね。ここまでクサいとジールさんにも嫌われちゃいま……」 
 俺は我慢できずにルースの頭を一発殴りつけた。これでこいつも黙るだろう。 
「な、殴るってことは全部認めたってことに……ラッシュさ……ん」  頭を押さえてうずくまるルースをよそに、俺たちは目的地である戦場の跡地へと足を進めた。

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