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【突然の攻撃】

【突然の攻撃】





「きゃっ!」





 石の素材でできた家が揺れ、ガリーナが悲鳴をあげた時ーーサクラは、ガリーナの体を守るように抱きしめていた。



 一度の振動だけでなく、二度、三度と振動が繰り返し、家を襲う。



(これは···地震!?いや惑星トナパには地震が起こらないはずーーゼノヴィアシステムで管理されているはずなのにっ)



 かつて地球人はどんな惑星でも住めるようにしようと、惑星の気候を管理するためのゼノヴィアシステムを作り出した。ゼノヴィアシステムに管理され、地震や津波などの自然災害はどんな惑星でも起こるはずがない。



『ノルシュトレーム家の皆サン、直ちに投降しなサイ!家の周りは包囲していまスヨ!』



 家の中に響いてきたのは、楽しげな若い女性の声だった。



『投降しなければ、家を壊しまス!速やかに投降しなサイ!』



(さっきの振動は···砲撃か?こんな住宅地で?)



 家を揺らす衝撃の正体が、わからない。住宅地でも1番端っこの、ジャングル近くという立地ではあるが、砲撃なんてされたら近隣の住民に迷惑がかかるだろう。



「ガリちゃん!アクマの信仰なんてしてないよね!?宇宙連合に宣戦布告なんて、馬鹿なこと···っ!」

「する訳ないでしょ!?」



 ユキが叫ぶと、ガリーナは荒い声で怒鳴った。この家にいる誰よりも、当事者である彼女が動揺しているのだろう。



「じゃあどうして···っ!」

「落ち着きなさい!2人とも!」



 サクラが、ガリーナ以上に声を大きくして怒鳴る。



「家を出るわよ、みんな···っ。いそいで!」

「待ってよ!相手もわかんないし···そんな無条件降伏みたいな···っ」

「ここに押しとどまっても殺されるだけよ!」



 ユキは躊躇していた。レイフはユキの気持ちもよくわったが、サクラの言ったことも確かにわかった。



 地震のような衝撃は未だに家を揺らし続けている。強固な素材でできた家でも、ずっと攻撃され続けたらどうなるかわからない。



「お母さんがいるから、大丈夫!お母さんがいるから···っ」



 サクラはガリーナの肩を抱きながら、外に出ようとする。

 サクラに、何ができるのか。機械人形であるサクラだが、戦闘用の機械人形ではない。



 レイフはーーー自然とサクラよりも前に抜きんでた。 



「オレから出る!母さんからじゃ、あぶねぇだろ!」

「あっ···待って!レイフ!」



 レイフは手を上げ、家から外に飛び出した。サクラの静止を聞かず、飛び出た時ーーー家の扉の前で、レイフはぴたりと止まることになる。



「レイフ・ノルシュトレームから出てキタっ」



 投降しろと言っていた女性の声だ。

 家の扉の前には、銃を持った軍人たちが整列した。黒い軍服を着た軍人たちがら円を描くように陣形を取り、銃口をレイフに向ける。



 銃口を向けられる体験などしたことがないレイフは、思わず固唾を呑み込んだ。



 やばいーーーレイフは本能的に悟り、尻尾を逆立てた。



 もちろん、先程の映像が嘘だとは思っていない。しかし、ついさっきから驚くことばかりで、レイフの頭は全く追いついていない。 



 非現実的なことがありすぎて、これは悪夢なのではないかともぼんやり考えてしまう。



「レイフ!」



 すぐ後ろで、コナツが怒鳴った。

 彼女も目の前のことに、かなり驚いていた。自分の背中を叩いたのはサクラなのだろう。銃を向けられ動けることができず、レイフは後ろにいる誰が自分のことを家に引き戻そうとしたのかさえわからない。



(これは···やばい!!)



「レイフ・ノルシュトレーム、ガリーナ・ノルシュトレーム、ユキ・ノルシュトレーム···あレ?家長のイリス・ノルシュトレームがいなイ。家族を置いて逃げタ?」



 不思議な発音で喋る女性は、不思議そうに首を傾げる。彼女ともう一人だけは、銃口を向ける陣形の真ん中に立ち、自分達の様子を眺めていた。



 褐色の肌に、透明な青色の髪の女性だ。透明な髪は長く、スライムのように透明だ。彼女の髪は生き物のように、うにょうにょと蠢く。丸い顔つきを強調するように、彼女はにたにたと笑い、動揺する自分たちを見つめていた。彼女も黒い軍服を着ており、軍人であることがわかる。



「お父さん、どうしタノ?どこにいル?」



 イリス・ノルシュトレームは父親の名前である。彼女は自分たち子供に尋ねる。



「···裏口か?父親も軍人だ、気をつけろ。お前たち、裏口に行け」



 もう一人の、陣形の中にいる青年が言った。彼の姿を見て、レイフは驚いていた。



「お前···っ!!」



 彼は、レイフがペスジェーナから助けた青年だった。彼は深緑のフードを被り、紫色の瞳を冷たくレイフに向ける。



「あレ?フィト、知り合イ?」



 女性は、青年のことを、フィトと呼んだ。彼は無表情である。

 5人の軍人たちが家の裏側にまわっていく。残った軍人たちは、自分たちに銃を向けながらも、隊列を崩さない。



「あなた達···アシスよねぇ?」



 サクラが叫ぶ。彼らにガリーナの姿を見せないように、彼女が前に出る。



「そうヨ。バーン私設軍のアシス。私はシャワナ・ブヨヤ。こっちはフィト・リベーラ。セプティミア・バーン様のご命令で、ノルシュトレーム家は全員捕獲しまス」



 女性はシャワナ、青年はフィトというらしい。



 私設軍、アシス。英雄シオンも在籍していたエリート軍隊の名前で、彼等が強い軍人たちだとわかる。



「···シオンとの約束は、どうしたのよ」



 サクラが言った言葉に、シャワナとフィトは何も顔色を変えなかった。



「シオンとの約束があるでしょう?なに、今更無効にするわけ?あいつの約束と違うわ」

「···何を、訳がわからないことを···」

「は?あんた達、ルイス・バーンの私設軍でしょう?まさか、知らないわけ?」



 シャワナとフィトは、何も言わない。サクラは毅然とした態度を崩さず、顔を顰めた。



「不可侵条約を結んでるのよ!あんた達···今回の件、ルイスやあんた達の総長のジェームズ・バルメイドに何も聞かずにきてるわけぇ!?」

「か、母さん···」

「冗談じゃないわよっ!こっちは普通に生活してただけなんだから!あたしをアシスに連れていきなさいっ!ルイスとジェームズと話すわよ!ガリーナを捕獲するとか、馬鹿げた話は後よっ!!」



 サクラは怒っていた。ガリーナを庇いながらも、誰よりも前に出ていく。シャワナに詰め寄ろうとしたのだろう。



 その光景は、瞬間的だった。



 サクラの頭と、何かがぶつかったのだ。



 遅れて、機械が壊れる音がレイフの耳に届く。



 サクラの身体が、ばたりと地面に倒れた。



「お、かあ···さん?」



 ガリーナが不思議そうに、か細い声を出した。子供達3人とも、目の前の光景が信じられなかったのだ。





 母の頭が破壊されただなんて、子供にとっては全く信じられないことであった。





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