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独立

 生と死というものがある。生まれるモノ在らば、死ぬモノ在り。生と死は表裏一体だという。もっとも、ここではそんな哲学的なことを言いたいわけではないが。
 ハードゥスにも、他の世界同様に生と死が存在する。ハードゥス生まれの存在というのは人に限らず、植物に魔物にと様々だ。
 そういったモノ達は、やがて時が来て死んでいく。寿命は種族や個体によって変わるが、永遠の命を持つモノはそう多くはない。
 では、死した後はそのモノはどうなるかだが、その存在を構築していた情報がその世界に吸収されて、その世界に還っていく。その後、その情報に使用されていたリソースを新たな存在に割り当てるか、はたまた別の何かに回すか、もしくは余剰分として確保しておくかはその世界の管理者次第となっている。
 そういうわけで、管理者間で住民を交換する場合は、その存在を構築している情報量がほぼ同数の者が選ばれていた。世界の力というのは共通の規格なので何処でも同じように扱える。
 住民の交換ではなく、相手の世界に波紋を起こすために派遣される場合は、その存在の死後は回収した力を元の管理者に返すか、派遣する際に同量の力を代金として払っておくかされていたが、前者の場合は返済されないなど幾度もトラブルに発展していたので、今はよほど相手が信頼できない限りは後者でしか行われていない。
 さて、それらとは異なり他の世界から人なりを攫っていくという案件も存在する。それは相手のキャパシティーの一部を奪う行為となるので、当然ほとんどが争いにまで発展していた。
 最近はその拉致の仕方も種類が豊富で、また巧妙になっていっている。なので、管理者達を取りまとめている者達は防犯とルール作りに奔走しているようだ。
 そういった様々な案件が存在する死だが、これは言ってしまえば、その存在を構築していた力を世界へと還元しているだけである。
 では、様々な世界から様々なモノが流れ着いているハードゥスではどうなっているかだが、れいは還元された力を返すことなくそのままハードゥスの余剰分として取り込んでいる。
 これは棄てられたモノを拾ったようなものなので、それで問題はない。むしろ返す方が色々と面倒が起きるだろう。
 それがハードゥスの内包している力が過剰すぎる要因の一つでもある。それにれいの力も合わさって、本体のれいとその管理世界を除けば、ハードゥスの管理者であるれいに敵はいない。
「………………」
 そんなれいに、少し前に本体から一つの提案がなされた。それは簡単に言えば独立しないかという提案。
 正直言って、ハードゥスの管理者であるれいの力は大きすぎるのだ。
 本体自体も力があり余っているので、ハードゥスのれいの力を本体が持て余していた。身もふたもなく話を纏めれば、ハードゥスのれいは力が多すぎて迷惑なので独立してくださいという話。
 その話について思案したれいは、このまま分身体でいることのメリットとデメリットを頭に浮かべる。まずメリットだが、何か困った時は救援を頼める。これに関しては、独立後は盟友という扱いにして相互補助を提案されていた。
 他には、力の分配……ハードゥスのれいに関してはこれはデメリットか。逆に力を引き取ってくれるというのがメリットだが、今はむしろ断られているので関係ない。
 情報の共有については、同様の情報網の構築はハードゥスのれいにも出来るので、競合しないようにと引き続き情報庫へアクセス出来るように知識へのアクセス権をくれるということらしいので問題ない。
 それから他にはと考えたところで、おおよそそんなところだろうと考える。
 次にデメリットだが、これはやはり生殺与奪の権利を本体に握られているということだろう。独立するとは、そこから抜けるということなのだから。
 他には自由の有無だろうか。分身体は本体に従属しているので、本体の方針に従っている。今まで本体は分身体の自由にさせていて、そこまで細かな方針は決めていなかったが、それが今後も続くという保証はない。独立するとその柵から抜け出せる。
 そういったことを頭に浮かべていくと、どうも独立した方がいい気がしてくる。というよりも、独立することのデメリットを事前に本体が潰しているので、メリットしかない。本体的にはハードゥスのれいの独立はよほど切実な問題なのだろう。
 そういうわけでハードゥスのれいは、本体から独立することを決める。だからといって何か変わるわけではないが、それはハードゥスのれいにとっては大きな変化を感じさせる出来事だった。

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