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模倣

 第れもいない静寂の街並みの中をユウトとセブル、ラトムは駆け抜ける。頬に触れる早朝の空気はまだ冷たかったが起床からまだいくらも経たないユウトの眠気を吹き飛ばした。

 瞬く間に過ぎ去っていく建物を抜けユウト達は広場に出る。そこは大工房の玄関口。ユウトが荷馬車で最初に通った広場だった。

 誰もいない寒々しい広場に一人の人影をユウトは見つける。それはガラルドだった。いつもの防具を身に着け剣を携えながら身体を何やら動かしている。距離を詰めながらガラルドの動きを見てユウトはそれがユウト自身が行っていた準備体操であることがわかった。

 丁寧に身体を動かしていたガラルドは近づいてくるユウト達に気づいて動きを止め、向き直る。セブルは距離を取ってスピードを落とし始めガラルドから数歩の所で止まった。

「おはようガラルド。少しこの先のことについて話しをしたいんだけど」
「日課がある。終わるまで待て」

 ガラルドの言葉には感情の起伏は見られない。

「わかった。オレも付き合っていいかな?」
「好きにしろ」

 ユウトの返事を聞いたガラルドはすぐに準備体操に戻り、身体を動かし始める。セブルから離れたユウトもマントをセブルに預け準備体操を始めた。

 ガラルドは準備体操を終えると持っていた剣を抜き一人素振りを始める。ユウトもそれに習い持っていた魔剣を構えガラルドを視界で捉えながらその動きを模倣した。

 魔女の森から帰ってきて数日間、ユウトは戦闘用魔術具のテストを行っている。それは主に予定された性能をその魔術武具が発揮できるかということを確かめる作業だった。

 ユウトはその機会に様々な種類の武器を扱う経験を得る。片手剣、両手剣、短槍、長槍、盾と様々。そしてどの魔術具にも開発チームがありチームメンバーの中にはその武器種に秀でた武人が参加していた。そしてユウトは武器の取り扱い方について最低限の扱い方の説明を受ける。その際、ユウトの身体はどの武器においても要点を素早く掴むことができ、各武人たちを驚かせてた。

 手間取ることなくそれぞれの武器の特性を掴める理由について、ユウトはガラルドから最初に教わった剣の扱い方にあるのではないかと分析する。ガラルドの持つ武術はどの流派にも属さない自己流とユウトは聞いているが、ゴブリンを殺す、という一点にのみ磨き深めた結果か様々な武器種においても対応可能になったのかもしれないと。

 そしてもう一つ、ユウトの中には鮮明に残るイメージがある。この世界で覚醒して初めて見た命のやり取り。ガラルドの振るった眼前の無駄のない一振りがユウトの記憶の中でお手本として確かに刻み込まれていた。その感覚をもう一度確認したいとユウトは今、目の前で行われる一連の演武に集中して真似ようとする。この先、何があっても対応できる技術の一つとしてガラルドが一人、自身のために練り上げた柔軟な武術のシステムを取り込みたい、より強くなるための手段になるという確信を持っていた。

 広がる石畳の広場に朝日が差し込み、同期して演武を行う二人を照らして影が延びる。大工房も目を覚ましだし、次第に様々な音が響きだした。

 ガラルドは最後の一振りに突きを放ちその切っ先がぴたり制止して構えを解く。剣は鞘に戻された。

「魔導柵周辺を見回る。話しはそこで聞く」

 そう言うとガラルドは広場の出口に向けて歩きだす。ユウトも剣を鞘に戻すがその息はガラルドに比べて早くなっていた。

「わかった」

 ユウトはガラルドに返答し元の姿に戻ったセブルとマントを身に着ける。すでに開いたガラルドとの距離を埋めるように走り出した。

 ガラルドは広場を縦断し街道に入るとそびえたつ二本の石柱までやってくる。その石柱の根元には数人の武装した集団がたむろしていた。

「おはようございます!」

 一人がガラルドに気づくと少し緊張した面持ちで元気よく挨拶をする。それをきっかけに次々とガラルドへ気づき声が掛けられた。

「ああ」

 ガラルドは歩みを止めることもなく平坦に返事を返して片手を上げる。その集団の前を通り過ぎ石柱から進行方向を街道から直角に変えて一定間隔に刺された魔導柵に沿って歩みを続けた。

 その様子を見ながら深々とフードを被ったユウトはガラルドの後ろをついていく。集団の数人は物珍しい層にユウトを見たが声を掛けてくる者はいなかった。

 ガラルドは歩きながらも柵の周辺の草を分けて何かを確認しながら進み続ける。どことなく声を掛けるなという声なき意思を感じ取れるがユウトは意を決して声を掛けた。

「なぁガラルド。オレはジヴァから人であるという証明をしてもらえるらしい」
「・・・そうか」

 間があき、聞こえたのかユウトが心配になってきたタイミングでガラルドから返答がある。聞こえていることはわかった。

「それで、オレは今後どうなるだろうか。出来れば世話になったギルドの役に経ちたいと思っているんだけど」

 ガラルドは作業を続けながらしばらく答えない。するとガラルドは直立して立ち止まりユウトへ真正面に向き合った。

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