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祭りだ祭りだ!

 大音立てて閉じられた扉の方を見ると、妖しく嗤うメアラ先生が。一部の伯爵家令息は彼女が誰であるか知っている、又は気付いたようで青い顔をしているが、殆どの令息達は他家格の教諭の詳細など知らない。

「おやおや、これは男爵位にある者達を導く教諭殿ではないですか。何の御用ですか」

「教諭、である以上、学院内、の、施設、の、どこ、に居ても……おかしくは、ない、でしょう?」

 不規則にぶちぶちと言葉を切るメアラに、陰険イケメンは鬱陶しそうに顔をしかめる。そしてメアラを知るもの達は震えている!! あれはやばいレベルで切れてる、と。

「ふむ。であるならば、この乱暴令嬢……いや、令嬢等と呼べるような代物ではないな。この乱暴女のやったことを、伯爵家クラスを代表して、正式に抗議する!」

 決まったとばかりにドヤ顔でメアラに喧嘩をふっかけた馬鹿……あ、ちがった、陰険イケメン。……長ったらしいねん、陰険メンでイケメンと読もう。

「そう、なの。で、そこに、転がっ、てる彼女、は……何を、した、の?」

 区切る度に首を傾げ、コキン、コキン、と音が鳴り出した! 陰険メンは流石に気味悪そうに引きつるも、フローラを踏みつけた。フローラの仲間たちは喪女が踏まれた瞬間憤りをあらわにした! その様子を満足気に眺めながら陰険メンは叫んだ。

「ここに転がっている伯爵家令息達はこいつに暴行された! 身分を弁えない愚か者には裁きを!」

「「「「「裁きを!!」」」」」

 周りの『無事』な令息達も陰険メンに乗っかった! メアラ先生の笑みは深まった! 知る者達は恐怖で底冷えした!

「フロー、ラさん? 駄目じゃ、なぁい……」

(へっ!? 私ぃ!?)

 陰険メンはメアラの言葉にニィっと笑みを浮かべる。これでこいつも終わったな、と。

「私の獲物、へっちゃったでしょおぉぉおおお!」

「……は?」

 次の瞬間、陰険メンの顔面は縦横無尽に赤い線が走る! 思わず言いたくなる! 『シャオッ!』 と!

「……ぎぃいいいいやあああぁああぐぼっ!! ……ゥギァゲェ」

 メアラは切り裂かれた顔面を抑えて仰け反る陰険メンに腹パン! 次いで後ろに回り込み髪の毛を引っ掴む!

「そこの這いつくばってるのはともかく」

(酷っ!?)

「うちのカワイイ弟を甚振ってくれたお礼は、してしてしてしてしてしてあげなくちゃ……ネェ??」

 この瞬間令息達は悟った。何かヤバイものを敵に回した、と。更にその中でも一部の危機回避能力の高いものは逃げ出そうとした! すると、

 ッパアアアン!

 いきなり何人かが修練場中央へと弾かれていった! 何が起こったのかと周りを見渡すと、陰険メンの頭を鷲掴みにしたメアラが出入り口に立っていた。しばらくの思考停止の後、令息達は察する! どうやら逃げようとした奴等は、アレに弾き飛ばされたのだと。

 バリバリバリ!

「「「イッギャアアアアア!!」」」

「逃げようとするなんて悪い子達ねぇ。お仕置きは3倍増し位でいいかしら、ネェ? どう思う、み・な・さ・ん?」

「ご、ごんなごどじで……」

「……あん?」

「ごんなごどじでだだでずむどぎょっっ!」

 目が覚めたのか、鷲掴みにされていた陰険メンがメアラに講義しようとすると、勢い良く顔面から地面に叩きつけられた!
 もう止めたげてぇ! フローラの、仲間の、精神HPは0よぉ! ……目がキラキラしてる一人を除いて。
 陰険メンはまぁどうでも良いが。

「だぁれも、にがぁす、わぁけ、なぁい……じゃないのおおおおお!」

「「「「「ギャアアアアアアアアアア!!」」」」」


 ………
 ……
 …


 ガラッ

 どれ位の時が経ったか分からないが、修練場の扉が開かれた。入ってきたのは男爵家女子寮寮監オランジェ女史と、別格貴族の一角ゴルドマン伯爵家の令嬢、アメリアだった。

「まぁ、凄い光景ですわねぇ」

「……ハァ。頭が痛い。おい、メアラ、殺してなかろうな?」

「……フヒッ。やだなぁ、オランジェ先生。心配症なんだからぁ。私のモットーは生かさず殺さず生かさず生かさず、そして……殺さず? ですよぉ?」

 以前師弟関係にあった二人は、この殺伐とした場の中、極めて普通通りの……いや、片方は若干猟奇的な会話を交わす。

「お前の言葉にはどこにも安心できる要素がないな」

 あちこち血の飛び散った跡や焼け焦げた跡のできた修練場で、オランジェは一人一人、息があるのを確かめていく。3人目で恍惚の表情を浮かべる男子を引き当てた時には、流石にぎょっとしていた、南無。
 一方アメリアは、入口付近で固まって震えている一団に近づく。あ、一人はピンピンしてるけどな!

「大丈夫……では無いですわね」

「遅いですよアメリア様……もっと精神的にダメージ受ける前に来てほしかったです」

「あら、マリオ。これでも急いでやってきたのですよ? 私にも色々やることや準備、手回しなんかが必要なんですから」

 話の流れからすると、マリオの主家はゴルドマン家のようだ。

「あめ……り……?」

 アメリアの名前を聞いて、今だ頭部を鷲掴みに引きずられていた陰険メンの目に光が戻る。

「……誰ですの?」

「だれ……誰だとぉ! 君の! 君の婚約者だろうがぁ!」

「はい? 何を仰ってるの? おりませんわよ、そんな方」

「……!!」

「気持ち悪く付き纏う方はいらっしゃいましたけど……あら? 貴方、その方にどことなく似てますわねぇ」

「な……!」

「あ、フローラ様! 大丈夫ですの?」

「あ、はい。大した怪我は……」

 てか、フローラまでいるじゃん。何時の間に……。

(あの処刑が行われてる現場でじっとしてられるかぁ! 必死に這ってきたのよ!)

 土壇場で這い寄るフローラ……さ○こかな?

(むっきー!)

「そうですの。大したことがなくて良かったですわ、本当に」

「何が良かっただ! ふざけるな! そいつはもう終わりなんだよ!」

「はい? どういうことですの?」

「そいつは何人もの伯爵家令息に手を上げた! これだけの目があるんだ! 言い逃れはできん! それに何時まで掴んでいるんだお前ぇ! お前はただではすまさんじょばばばあああっ……あっ……ぁぁ……!!」

 バリバリバリバリバリバリバリバリ!!

「メアラ様、流石にそれはやり過ぎですわよ? 死んでしまっては元も子もありませんわ」

「大丈夫ですわアメリア様。多分? 傷に染みてるだけで、死ぬほどの電撃ではありませんから」

 陰険メンがビクンビクン跳ねて白い煙が出てるんだが……ほんとに大丈夫なのか?

(個人的にはやっちゃえーって思わなくもないけど、死んじゃうのも何か違うわよねぇ)
「先生!」

 ピタッ

「……なぁに、かしらぁ、フローラ、さん?」

(ひぃいいぃ! こっち見んな!)
「しし、死んでしまってはもう……『楽しめ』ません!」

「「「「「!?」」」」」

 喪女のとんでも鬼畜ひとでなし発言で、場が凍りつく!!

(仕方ないじゃん!? 他にどうやって言い含めりゃ良いのさ!)

「……うふっ、あは、あはあはははははあ!! そうね、そうだわ、そうだわよねぇ!? うふふ、フローラさんありがとう。危うく楽しみを減らしちゃうところでしたわ」

「あはっ、あ、あははは、はぁ……」

 フローラは歓喜の涙を流す!

(諦観の涙だぼけぇ!)

「……え、ええっと、他の方々はどうですの? 大丈夫ですの?」

 アメリアは空気を読んだ! さすが正統派のご令嬢!
 マリオの側には傷だらけのバモンが壁に持たれるよう座らされている。ベティはフローラのゲス発言まではワクワクしていた! 安定だ!

(ゲスは無くねぇ? あのアホの命救ったのよ?)

 メイリアはミランダの胸に顔を埋めるようにして、ミランダに抱きしめられている! 何と言う……これぞ友情! そして! それなりにボリュームがあるので男子には羨ましく映るだろう光景だ! 当のミランダはと言うと! ……すっごい泣きそうな顔してる。……これで発情するやつはちょっと校舎裏まで来い。

(校舎裏ってどこさ)

 え? 嘘でしょフローラさん。そっちも行ける口なの?

(いーけーまーせーんー。ドノーマルよ!)

「ミランダさん、でしたっけ? 頑張りましたのね。怖かったでしょう? 偉いですわ」

「あ、アメリア、様、ふっ……ぐ、ぅぅぅぅぅうう!」

「あらあら、綺麗なお顔が台無しですわよ。ほらコレを使って?」

「あり、ありぁぉうっ、ごじゃいまっすぅぅ……」

 まだメイリアを抱きしめ続けるミランダが零す涙を、アメリアが優しく拭き取っていく。アメリアの優しさでミランダやメイリアの緊張がほぐれていく。ええ子や。

(どうかこのまま、どうかこのままで!)

 さすがフローラさんだ。歌みたいなセリフをゲスく使えるなんて!

(私は私がカワイイの!)

 戦争の後のような血塗れの修練場にあって、アメリアを中心として優しい時間が過ぎる中、

「ぐっ……あっ……ごご……は……?」

 ……面倒くさい男が目を覚ましてしまったようだ。

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