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屍の王

 アンデッドという存在が居る。一度死んで何らかの方法で生き返った存在を指し、生きる屍と呼ばれている。もっとも、生き返ったと言っても本当に生き返ったわけではなく、仮初の命を宿した不自然な存在だ。
 そういう意味では、不死性を持つ存在もアンデッドに属するとされる場合もあるが、今はそれは関係ない。
 さて、ハードゥスにおいてこのアンデッドという存在が出現するのは地下迷宮内だけで、迷宮大陸でも外には出ていない。だが、別の世界ではそのアンデッドと呼ばれている存在が外に居る世界も存在する。
 今回ハードゥスに、そのアンデッドと呼ばれる存在が流れ着いてきた。それも単独で。つまりはハードゥスまで流れ着いて来られるぐらいに存在の容量が大きい存在というわけで、流れ着いたのは当然ながらアンデッドでも上位の存在だった。
「………………上位の個体は知性を有するとされていますが」
 判断に迷ったネメシスとエイビスは、それをれいに報告した後に判断を仰いだ。一般的にアンデッドは生者の敵とされているので、そのまま外の世界にでも放出して消滅させるのが最善な気もしたが、その判断は与えられている権限としては微妙なところなので、念のため判断を仰ぎに来たというわけ。
 それを受けて、れいはどうするかと悩む。基本的にれいの方針は来るもの拒まずなので、このまま消滅させるという考えはない。
 かといって、扱いが面倒な存在をそのまま放出するわけにもいかなかった。漂着させて襲ってくれば処分は楽だが、それは確実性に欠ける。
 とはいえ、対策としてはドラゴンと同じ方法でもいいだろう。ハードゥスにおいて法にして理はれいなので、アンデッドだろうと強制的に制限を設けることも可能。最善は大人しく言うこと聞いてくれることではあるが。
 後は活用法だが、これもドラゴンと同じで人へ危機感を与える役割でもいいかもしれない。それであれば、一定数は仲間を増やすことを許可してもいい。
「………………その前に、このアンデッドはどんなアンデッドか調べるところからですね」
 そう言うとれいは、顕現する前の情報段階のアンデッドを調べ、何処の世界の出身なのか、どういう生態をしてどんな能力を有しているのか、どんな性格でどんな経歴か等々を即座に調べ上げてしまう。
「………………なるほど。出身世界では屍の王と呼ばれていたかなり高位の存在のようですね。死体があれば好きに眷属を作製出来るようですが、必ずしも眷属が必要というわけではない。特殊性が高いようですが、それを除いた純粋な能力は同格の中では弱い方ですか。永きを生きたせいで屍の王として存在しているのに飽きたところに大規模な討伐が行われ、これ幸いと眷属を戦わせて眷属を消費させる。そして、ある程度眷属を減らしたところで討伐隊を返り討ちにして、残った眷属と共に新たな地を目指して自ら外の世界に出たと」
 ネメシスとエイビスにも教えておこうと、れいはまるで説明書を読んだ感想のようなことを口にする。
 とりあえずそれでも伝わったようで、それ確認したれいは続きを口にした。
「………………ふむ。しかし、外の世界はそれほど甘い世界ではないので、屍の王以外はここに辿り着く前に消滅したようですね。一部は助からないならと屍の王が取り込んで屍の王の保護に役立てたようですし。屍の王の性格はあまり動的ではないようで、どちらかと言えば静的で知的。ただ、何も対策せずに外の世界に出るぐらいには頭が悪く、それと同時に、管理者を無視して外の世界に出られるぐらいには力があると………………まぁ、これぐらいでしたらここの管理補佐なら問題なく制圧出来る程度ですね」
 その後は眷属作製以外の能力の話をしてから、れいは屍の王を数値で管理している大陸に配置することにした。あそこはあそこで特殊な大陸なので、屍の王とは案外相性がいいかもしれない。
 後は大陸の何処に配置するかだ。直ぐに見つかっても困るが、長いこと見つからないのも困る。適度に危機感を与えたいところなので、その辺りはしっかりと考えなければならないだろう。
 れいはネメシスとエイビスの意見も聞きながら配置場所を決めると、早速自ら屍の王を配置することにした。
 ネメシスとエイビスに解散を伝えて単身で数値で管理している大陸に移動したれいは、現地で直接配置予定地を視察する。それで問題なさそうだと判断したれいは、屍の王を漂着させた。
 程度の差はあれ、漂着した直後は誰でも意識の混濁や記憶が不鮮明なので、れいは屍の王のそれが収まるのを少し待つ。
 数秒と掛からないでそれが終わると、れいは現状の説明と注意事項を屍の王に話していく。内容は普段人に行う説明よりも詳しく、注意事項も細部まで丁寧に説明された。
 それを黙って聞いた屍の王は、直ぐに了承した。まだれいは大して力を放出していないのだが、屍の王ぐらいの存在になれば、勝てるかどうか、逆らってもいいのかどうかぐらいは何となく解るらしい。ドラゴンも同じだったので、そういうモノかとれいは興味を失くした。
 手間が省けていいので、後は一度ちゃんと現状や注意事項を屍の王が理解しているのか確認してから、れいはその場を後にすることにした。

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