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6話







歌舞伎町の彼の店、ガイアに行くことになった日の当日。



オシャレして、出かける準備中。

電話がかかってきた。



元カレのヤスシだった。

どこから番号をゲットしたのかと思ったけど、ユイから聞き出したのかな。

切ろうかとも思ったけど、聞いてやることにした。




「よりを戻したい」と言われた。


「お前のこと愛してるって気づいた」とも。



もう、別れてから数年も立っているのに・・・・・・




彼もコロナ禍で一人で過ごすことが多くなり、色々考えたそうだ。



今は付き合っている人もいないらしい。



そう言われたって・・・・・・



でも私の気持ちは揺れ動いた。


彼、いい人だったから。




私は回答を保留にして電話を切った。

またかけるかはわからない。


心に笑顔の素敵なあの人のことがあったから。




歌舞伎町はコロナの影響だろうか、人通りはまばらだった。

コロナ前はごった返すほど人がいたのだろうか?



そのお店はすぐ見つかった。


大きな看板に「ガイア」の青い文字。

金色のドア。

ドアの下には赤い絨毯。

まるでアカデミー賞の会場のようだ。


ドアを押して・・・・・・





意を決して、足を踏み入れる。


頑張れ、私! これも人生修行!





ホームページやZOOMで見たのと同じ豪華な光景。

そこにいたのはマスクをした店長さんと

楓さんだった。

黒いマスクをしていたけど、目をみてわかった。


胸が高鳴った。


また緊張してきた!



「いらっしゃいませ、カナさん」と店長。


「来てくれてありがとう」と楓さん。



彼に促されるまま、席へ。


ここ、超広い。


黒い高級そうな革張りの椅子が並び、仄暗い照明が良い雰囲気。


他にも数名のマスクをつけた女性がホストと親しげに話をしている。


中には、6人ほどのホストに囲まれている女の人もいる。すごい!



シャンパンコールされ中の人も! 




私たち2人は端っこの席に座った。


目の前には、高級感溢れる、大理石でできたテーブル。


彼がそばに座ると、私の中のホストクラブのイメージ=怖いところ、という考えは吹き飛んだ。


彼の人懐っこい、爽やかな笑顔。


私が求めていたモノ。


「そのドレス、似合ってるよ」と、楓さんは私の着ている黒いドレスを褒めてくれた」


実はミカコと渋谷まで行って買ったもの。


褒められて、すごく嬉しかった!

「ありがとう!」

「何、飲む?」


チューハイを頼んだ。

二人で、同じ飲み物を、間近で飲む。

おしゃべりをする。

名刺ももらった。 最初のZOOMで見せてくれたモノ。 家宝にしよう。

連絡先は書かれてなかった。


残念。


話している間、小まめに氷を変えてくれた。


本当に私と話すのが嬉しそうだった。


営業スマイルなのかな? そうじゃないといいけど・・・・・・





まるで夢の中にいるようだった。



チューハイを少し膝にこぼしてしまった時、すかさずタオルを出して、拭いてくれた。しかも「ゴメン」と言いながら。


グラス表面に水滴がいっぱいついたら、何回も拭いてくれた。


まるで、私は「姫」になったようだった。



マスクの下がどうなているか。


全ての表情がみてみたくなった。



たくさん、自分の話をした。


どこで生まれたかとか、小さい時はどんな子だったかとか、彼から聞かれた。


関西弁が話せるというと、聞いてみたいというので



「なんでやねん!」

「ほんまに!」



と照れながら言うと、声をたてていっぱい笑ってくれた。



どうやら親戚に関西住みの人がいて、その人に言い方がそっくりだったらしい。


関西出身でよかったと思った。


もう1時間は話しただろうか。




私は「楓さんのことがもっと知りたい。話してほしい」と言った。



言ってしまった。




嫌がられるかな・・・・・・



彼は一瞬、困ったような、悲しそうな顔をした。



その時はなんでそんな顔をされたかわからなかった。


「いいよ」



そして、彼は突然私に顔を近づけた。


いい香りがした。


キスされるのかと思った。


私の耳に口を近づけると、「君と二人きりなら」と囁かれた。


私の顔はゆでダコのように真っ赤になった。 


なんと返せばいいか、わからなかった。


「ダメ?」


「いえ、私も、二人っきりで、聞いてみたいです」と返した。



「本当はこの店のルールで、お客さんとは連絡先交換したらダメなんだけど、秘密にしてくれる?」



「はい・・・もちろん」


そして、LINEを交換した。



「次会う時はデートだね」と言われた。 笑顔が眩しかった。


まさか、彼から誘われるとは!!!


今日朝起きた時にはこんなことが起こるとは思ってもみなかった。


「お客さん、みんなに同じことしてるんですか?」

それとも・・・・


「いや、君だから。内緒だよ。本当に」




マジ!?





これから私、どうなっちゃうの?

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