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 後ろで緊張が走るのを感じる。

 ユウトの投げかけにガラルドが答えた。

「・・・なんだ?言ってみろ」

「オレは人間であるはずと記憶しているが現実は得体のしれない体になってしまった。ならこの先オレではない別の誰かがオレと同じような状態、バケモノになってしまう危険性もあるはずだ。とりあえずオレを生かして原因を探るなり様子を観ることを提案する。今後のために」

 精一杯の屁理屈を並べる。観察しろと柔らかい言い回しを行ったが実験動物のように扱われる可能性もある。だがまずはここで死なないことが最優先だった。

「ほぅ・・・」

「おい、ガラルド。これの言うことを信じるのか?こちらをだましているのかもしれんぞ」

「そうかもしれない。だがこいつの手出しがなければ俺はおそらく死んでいただろう。ならその一度分の借りを返さなければならない」

「・・・わかった。本当に人である可能性も捨てきれないしな」

 もう一人の男はしぶしぶガラルドに同意した。

 ユウトは先ほどまで感じていた殺気の威圧感がしぼんでいくのを感じ取った。緊張感は続いているがひとまず今最大の危機を乗り越えたと思い安堵する。後ろに組んだ手を解こうとした。だがガラルドはそれを制止する。

「待て。お前を信用しきっているわけでわない。枷をつけてもらう」

「・・・わかった。言う通りにする」

 言い放たれる条件に対して、反論する余地はなかった。

「レナ。いたらこっちに来てくれ」

 ガラルドは誰かを呼び出す。

「はい。なんでしょうか」

 声から察するにどうやら女性らしい。

「今から君のチョーカーを外し、こいつに取り付ける。首をだしてくれ」

「それは・・・いいんですか?」

 レナは複雑な声色でガラルドに尋ね返した。

「今回のゴブリン討伐は完了した。お前の能力なら都市にもどるまで必要ないだろう」

「・・・わかりました。ただゴブリンが身に着けたものはもう使いたくないのでそれは起動させるか破棄していただきたい」

「わかった。では外すぞ」

 そしてガラルドはぶつぶつと何か唱える。カイトには何をしているのか全く見えなかった。

 ただ、レナと思われる女性の声から向けられた殺気は他のものと異質な感覚をユウトは感じていた。それはより鋭くとがった針を突き立てられているような感覚だった。

 ユウトがレナから向けられた殺気に気おされて緊張しているとレナから何かを受け取ったガラルドがユウトの真後ろにせまる。

「今から魔導具を首に付けてもらう。チョーカーを知っているか?」

「魔導具?どういったものなんだ?」

「説明する。今から取り付けるのは魔導チョーカーというものだ。これは一度装着すると装着を行った者にしか外せない。そして同じく装着させた者はこれを起動し装着している者をいつでも殺すことができる」

 ユウトは困惑した。〝魔導〟という単語が出てきたということはユウトの知るファンタジーの世界にとても似通っていることであり重要な情報だったが、それ以上に首に遠隔爆弾のようなものを取り付けるという説明に驚き、動揺を隠せない。

「これが最大の譲歩だ。どうする?」

 ユウトの動揺を見てか、ガラルドの声が重く響き念を押した。

「・・・わかった。その条件を飲む。つけてくれ」

 ユウトの予想した以上の枷だった。せいぜい縛られる程度と高をくくっていた。だがこの申し出を断ったところでここにいる武装した複数の人間を相手に勝てる見込みも逃げ切れる可能性も限りなく低い。ならとにかく延命を心掛けてこの見知らぬ世界の情報を集めることにした方が得策であると考え無理矢理に自身を納得させた。

 後ろから首に何かが回る。肌ざわりからするとどうやら金属のようだ。そしてガラルドはつぶやく。

「接続承認、接続者ガラルド=バーナミジスタ、接続開始」

 すると金属が首の周りに張り付く感覚がつたわってきた。息苦しさや不快感は感じられない。まるで肌と一体になったようなだった。

「これで手続きはできた。これからお前の命は俺に握られる。身の振り方には気をつけろ。そして今のお前は元人間であってもモンスターの姿に変わりないのだからな。チョーカーを発動しなくてもその命を保証されてはいない」

 確かに未だユウトは殺気を感じ続けている。最初に比べれば随分軽いがそれでも気分のいいものではない。

「わかった。気を付けるよ」

 背を向けたままユウトは答える。すると横に布が投げてよこされた。

「とりあえずはそれをまとえ。素っ裸では気も落ち着かないだろう。この洞窟から出て野営地へ一旦戻る。そこでお前に着るものをわける。立ち上がって俺についてこい」

 ガラルドにうながされるままユウトは立ち上がる。その時これまで後ろにいた人達を目にした。それぞれの装備は異なり年齢もバラバラに見えて一貫性がない。だがその物腰は落ち着き払い、それぞれが冷たい視線をユウトに向けていた。

 その中に唯一女性がいることに気づく。この女性がおそらくレナだろう。歳は若く赤毛の髪を頭の後ろでまとめていた。レナと一瞬目が合ったと思うとギロりとユウトは睨めつけられ、肝が冷えた。

 立ち上がってからユウトは違和感に気づく。身長が低くなっていた。ユウトはこの場にいる人の中で最も背が低く一斉に見下ろされることになり、より強い威圧感を感じた。

(本当に姿が変わったんだな・・・)

 土壇場の戦闘からきた緊張感が冷めて少し落ち着いたことで自身の身体の変化に改めて精神を揺さぶられた。

 不穏な気持ちを抱えたユウトはガラルドを追って逃げるように歩き出した。

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