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第9話 なぜわたしが、乙女ゲームの悪役令嬢なのでしょう?

 うつらうつらとした意識の中。

「うっ……んん……」

 ローゼマリアは、遠い昔の夢を見ていた。そう、この世界に転生する前の夢を――

(ああ……思い出すわ……少しずつだけど……)

 前世のローゼマリアだった人物の生活が、次々と脳内に浮かんでくる。
 日本という国に暮らす、どこにでもいる普通のOL。カレシもいないし、友人だって多いほうじゃない。
 唯一の楽しみといえば、乙女ゲームで遊ぶこと。

(帰宅したらすぐにデイリーミッションをこなして、イベントを周回して……キャラのイケボを楽しんで、ネットでキャラ攻略を調べて……そんな毎日を送っていたのよ。乙女ゲーなら全年齢でも18禁でも、なんでもござれ……な喪女だったはず……)

「救国の聖乙女と10人のフォーチュンナイト」は、一番やりこんだゲームだ。
 平民のヒロインが、ある日突然聖乙女として持ち上げられ、10人の個性豊かなイケメンたちと学園生活を送りつつ、最終的にはミストリア王国を救うという乙女ゲーム王道ストーリー。

 そんな彼女に、さまざまな障害が登場する。
 その筆頭が、公爵令嬢のローゼマリア。
 ローゼマリアは悪徳の限りを尽くし、ヒロインをイジメてイジメて、イジメぬく悪役令嬢である。
「救国の聖乙女と十人のフォーチュンナイト」というゲームが、最もカタルシスを感じるシーン。それはローゼマリアの断罪イベントだ。

『ミットフォード公爵令嬢ローゼマリアよ! そなたとの婚約をこの場で破棄する!』

 ユージンがそう叫ぶシーンが大好きだった。

(ローゼマリアの断罪シーンなら、スチル絵のすみずみまで覚えているわ。胸がスカッとしたもの。あともうちょっとで、最後の攻略キャラのトゥルーエンドを迎えることができたのに……くやしい……)

 攻略キャラ全員のトゥルーエンドをクリアした乙女だけが入手できる、課金の特別攻略キャラが存在するという。
 それを楽しみにしていたのに、まさか事故に巻き込まれ、乙女ゲームの世界に入り込んでしまうとは思わなかった。

 しかし――

(冗談じゃないわ! なぜわたしが、乙女ゲームの悪役令嬢に転生するのよ?!)



 §§§


 ビクビクと身体を震わせ、パチリと目が覚めた。
 はぁはぁと息が上がり、妙な夢にうなされていたのだと気づく。

「嫌な夢だったわ……わたくしが断罪される悪役令嬢だなんて……」

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