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35話〜2人の姫

 あれからハクリュウ達は、一足先に辺境の地にある名もなき城の近くに来ていた。

 そしてグロウディスは、

「うむ、これは……やはり、奴隷を使って城を造っていたようだな」

「ここは、いったい誰の城なんだ?」

「ハクリュウ。今の段階では、推測になってしまうが。恐らくは、オルドパルスが魔王のために造った城だと思うのだが」

「もしかして、もう魔王は……」

「ふぅ、それは分からんが。もしオルドパルスが、ノエルを拉致しているとしたら、ここにいる可能性はある。しかし、これはあくまでも推測に過ぎないからな」

「僕が、口挟むのは筋違いかもしれないけど。そもそもなんでこんな事になったの?」

「その事については、私にもよく分かっていない。今この世界で何が起きているのか。何が起ころうとしてるのかが……」

「確かに、ディアナの言う通り、私も同じです。情報が足りなさすぎて……ただ、気になっていることがあるのですが。グロウディス様が言っていた水晶なのですが。その水晶とは元々は誰が作ったものなのでしょうか?そして、何のためにそれを作ったのでしょうか?」

「シエルの言う通りだ。ふむ、確かに腑に落ちない点が、いくつもありすぎる。その1つが、水晶は本来なんのために作られたのかなんだが。俺にもまだ、そこまでは分かっていない。ただ言えるのは、その水晶は持つものの願いを叶えるというが、真実なのかも不明。水晶の言い伝えも色々と散乱していて、どれが本当なのかも分からない。前に話した話の他にも言い伝えが存在する。ある勇者が水晶に災いをもたらす邪神を封印したという言い伝えも残っている」

「グロウディス。その話なら、あたしも聞いた事があるが。確か “1人の神様がいました。ある日その神様は、天界から人間達の様子をみていました。あまりにも人間達が楽しそうにしていたので、その神様は、自分もその輪の中に入りたくなってしまいました。しかし、自分の姿は人間には見えません。どうしたら人間達の中に入っていけるのかと悩みました。そして、神様は姿は見えなくても水晶があれば話はできるのではないかと気がつきました。神様は水晶を作り、人間の住むある村に水晶を置きました。そしてある日、村の若者が水晶を見つけ、自分の家に持ち帰りました。そして水晶をじっとみつめ話し出しました。その水晶は、それに反応して話し出しました。若者は一瞬驚きましたが、すぐに水晶に向かって話をしました。神様は喜びました。水晶を通して若者と話が出来たからです。若者は水晶の声が神様だと聞かされ驚きました。神様は訳を話しました。すると、すぐ神様の考えが分かり2人だけの秘密にしようという事にして、若者と神様は友達なりました。ある日それに目をつけたもう1人の神様が、自分も水晶を作りました。その神様はある城の近くに、その水晶を置きました。しかし、それを見つけたのは、その国で王様の次に偉い人だった。その神様は、自分の野心のために、その水晶を拾ったその者にこう命じた。『我の為に生け贄を差し出せ、そうすれば国は安泰後世まで続くだろう』と、そして国で1番美しく、処女である女性を1人探し、生け贄として差しだした。しかしそれは、その神様が力を手にするための策略だった。その神様は、その力を手に入れ邪神となり、世界を破滅に追い込んだ。しかし、もう1人の神様がそれに気がつき、仲の良い村の若者にこの事を伝え、その邪神となった神様を封印する様に、お願いをしました。その若者と神様は互いに協力して、邪神を封印の水晶に封印する事ができました。そして、その手を貸した者をこらしめ、平和な世界に戻ったのだった。” と言うのが私が知っている、邪神を封印した水晶の話です」

「ちょ、ちょっと待って下さい。今の話は私は聞いた事がありません。もしもですが、ディアナのその話だと水晶は3個存在する事になるのではないのでしょうか。その1個がオルドパルスの手にあるとすれば……あと2個はどこに?」

 そう言うとシエルは下を向き考え込んだ。

「そういえば、僕のいた国で、不思議な水晶を発見したって噂を聞いた事があるんだけど」

「アキ!それは本当か?それはどこだか分かるのか?」

「あっ!え、えっと……僕のいた国は……」

 アキがそう言おうとした時、遠くから荷馬車があり得ないスピードで突っ込んできた。

 そして荷馬車の中から、どこかで聞いた事がある声がしてきて、

「お〜〜〜い、誰か止めてくれ〜!?俺まだ死にたくな〜い」

 今にも泣きそうなハウベルトの叫び声が聞こえてきた。ディアナはその声が誰なのか気がつき、頭を抱えながら荷馬車を止め中を覗いた。

「いい加減にしろハウベルト!!このぐらいでお前が死ぬわけが無いだろう。何でお前はそこまで臆病なんだ?」

「まぁ、ディアナちょっと待って。ハウベルト何があったんだ?」

 ハクリュウが聞くと中から、何やらもめている様子のアリスティアとシャナの声が聞こえてきた。

「アリスティア!何故あんな無謀な魔法を使ったのよ!?」

「いやぁ、まさか暴走するとは思わなくてな……」

「頼む……すまない吐きそうだ」

 クレイマルスはそう言うと荷馬車の中から出てきて、よろけながら後ろに行き吐いた。

 そしてアキは、その光景とアリスティアとシャナがいる事に気がつき慌てて被っていた帽子を深々に被り気づかれないように、ハクリュウの後ろに隠れた。

 しかし、その様子をアリスティアは見逃さなかった。

「ハクリュウ様。その帽子を被っている子と、もう1人の女の子は誰なんだ?」

「私は、異世界から間違って来てしまいました。ハクリュウ兄さんの妹で、ユリナと申します!」

「ほお〜、ハクリュウ様の妹ねぇ〜……っていうか、何故ハクリュウ様の妹がここに?」

「アリスティア。まぁ簡単に話せば、シエルが異世界との扉閉め忘れただけなんだけどな」

 ハクリュウがそう言うと、シエルは俯向き申し訳なさそうな顔になった。

「ユリナは分かったが。ハクリュウ様の後ろに隠れている奴は?」

「あっ、アキって言って、ユリナの命の恩人だ」

 ハクリュウがそう言うと、アリスティアは首を傾げながら、

「気になるんだが、何で私とシャナを見ていきなり隠れた?」

 アリスティアに言われ、アキはどうしていいか分からなくなった。

 そして困っているとシャナが何かに気がつきアキに近づき少し意地悪な口調で、

「なるほど、アキさんと言うのですか。そうですね。では、ご挨拶がわりという事で、どうぞ!」

 シャナは簡単な召喚魔法で大きなカエルをアキの目の前に召喚した。

 するとアキはそれに驚いて、

「やっ、やめろ〜〜シャナ‼︎ぼっ、僕がカエル苦手なの知ってるだろう〜!」

 アキはつい声を出してしまい慌ててまたハクリュウの後ろに隠れた。それを見てシャナとアリスティアは頭を抱えた。

「はぁ〜、何故あなたがここに……」

「相変わらずですね。姫様は」

「シャナ!?はぁ〜、僕はせっかく正体隠していたのに」

「えっ!?アキがお姫様なの?」

「それって、本当なのか?」

「あっ!そういえば、確かグレイルーズのお姫様は、お忍びで城の厳重な包囲網をかいくぐり、各国を旅して歩いていると聞いた事があります。アキさんがそのお姫様なのでしょうか?」

「ああ、シエルその通りだ。この姫にみえない姫が、グレイルーズ国の姫、アキリシア様なのだが。はぁ〜、いい加減に自分の立場を弁えて下さい!!」

「アリスティア。無理を言ってはいけませんわ!アキリシア様は、誰もが認め諦めている程の自由人なのですから」

「ぼっ、僕って……」

 シャナは満足そうにアキリシアを見て、

「さて、アキリシア様をからかうのも。このぐらいにして、アキリシア様は、何故ここにいるのですか?」

「最初は成り行きだったのだけど。話を聞いていて、この国いやこの世界が、もしかしたら大変な事になりそうな気がして、僕にも何かできないかなと……」

「そうですね。王も部屋にこもりっきりになってしまい。今、王の代わりに指揮をとれる者といえば、アキリシア様だけですが」

 そしてグロウディスが何か思い出したように、

「そういえば、ホワイトガーデンにも姫が1人いたな。確か、内向的で表に出たがらず、今迄も良い話があってもみんな断り、いい歳になっても結婚しないで部屋に閉じこもってる姫がいたはずだが?確か名前は、ラシェル様だったかな?ん〜、1度だけ会った事はあるが、あの時は顔は隠していたしな。それと少ししか話したことがない」

 グロウディスはシエルをじっと見た。

「シエル。前から気になってたんだが?俺が城にいた時、お前は何をしていた?」

「あっ!そっ、それは……」

「シエル。何を焦っている。ふぅ、お前の話し方なんだが、妙に丁寧だし、その声なんだが前からどっかで聞いた様な気がしていた。まさかと思うが……」

「流石ですね。やはりグロウディス様には、隠し通せませんでした。会った時からいつかは、分かってしまうとは思っていましたが」

「どういう事だ?グロウディス。まさかと思うけど、シエルがホワイトガーデンのお姫様だって言うのか?」

「シエル……いやラシェル王女で間違いないですな?」

「えぇ、間違いありません。ホワイトガーデン第1王女ラシェルです。騙していて申し訳ありませんでした。ですが、これには色々と訳があり、こうするしかなかったのです」

「あの、引きこもりのラシェル様が、自ら王の命で動くとなると……」

 グロウディスがそう言うとラシェルは首を横に振り、

「本当は違うのです。確かに、お父様は夢を見て予言されました。しかしそれだけでは無いのです。お父様はそのあと眠りについたまま目を覚まさなくなってしまいました。弟のレオンまでもが急に、おかしくなり城を出て何処かに行ってしまったのです。それでお父様が言われていた事を思い出し行動に移しました」

「なるほど、それで異世界から勇者を召喚したという事か……」

「えぇ、ですが私が思っていた以上に状況は最悪だった。まさか、こんな事になるとは思ってはいなかったのです」

「ふぅ〜ん、シエルがラシェル。そうなると私より年上のラシェルが指揮をとるのがベストかな?」

「はぁ〜アキリシア様。そういう事ではなく、こう言う事はお互いに指揮をとるのが筋かと思いますが」

「アリスティア。そうなのか……僕は、こう言うの苦手なんだけどなぁ。あっ!そういえば、ブラックレギオンのあの熱血王子はどうなったんだ?」

「そういえば、王子とは最近あっていないが……ディアナ知ってるか?」

「ハウベルト。そういえば、あの日も城には居なかったと思うんだが?」

「王子が不在とは……何かあったのか?」

「グロウディス。いや多分、いつも通り人助けに歩いているのかと」

 そう言うとハウベルトは溜息をつき、ディアナも隣りで溜息をついていた。

 そしてハクリュウ達は、これからどうするか色々と相談する事にしたのだった…。

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