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第六十九話 攻略開始?


「旦那様。本当に、一人で行かれるのですか?」

「それが条件だからな」

 セバスとサルラから、報告を聞いて問題はないと判断した。
 俺の力を見て安心したいのだろう。先方も、待ち合わせの場所を直前に変えてきた。俺が単独で動いていると確信しているのだろう。

「マスター。俺も、セバスと同じ意見です。皇太孫と婚約者は信用できるとしても・・・。だからこそ、マスターと一緒に殺してしまおうと思っている連中には、最高のチャンスだと思います」

「俺もそう思う」

「旦那様。なぜ!」

「セバスと、サルラと、ダーリオを、二人よりも信頼しているからだ」

「え?」「・・・」

 二人が俺の顔を見る。
 まだ納得しては居ないだろう。俺の考えが変わらないのはわかっているが、なんとか妥協点を探したいと思っている顔つきだ。俺が単独で、ダンジョンに潜るのに反対しているわけではない。今回の作戦がリスキーだと思っているのだ。

 ユリウスが言い出したのか、クリスが言い出したのかはわからないが、ダンジョン内のセーフエリアで会談をしたいと言ってきたのだ。
 ユリウスたちは会談の前日から、()()を雇ってセーフエリアに作った宿で、ホームからの使者を待つ。

 翌日に、俺たちがホームから安全地帯に向けて出発する。
 5階層のセーフエリアではなく、10階層のセーフエリアで会談を行うことになる。

 これらが秘匿された情報だ。
 知っているのは、ごく一部だと言われている。

 冒険者ギルドには、会談の当日には、10階層のセーフエリアに作られている施設は使えないと通達を出している。
 表向きは、施設の修復だと通達している。商業ギルドにも同じ様に伝えている。

 俺がダンジョンの攻略を開始する前に、ウーレンフートに残ったゴミを排除したかった。セバスたちの諜報員に関しての報告書を読んではっきりと解った。

 まだ、ライムバッハ領が狙われている。
 税収では、それほどではないが、発展し始めているウーレンフートを調査しにきている者は、素直に呼びかけに応じている。その者たちは、ホームの中を見て回って調査をして報告書を上司に送る。俺たちのホームは、正面から入ってきたものに門戸を閉じないと宣言した。調べたければ勝手に調べろ。その代わり、黙って侵入したら、殺されても文句を言うな。

 それでも、やはり弱みを握ろうと、侵入を試みる者たちが居る。
 特に、ライムバッハ家と敵対している派閥の貴族家が潜入させている者たちだ。かなりの数を捕縛したが、諜報員として潜り込んでいる者たちだけで、暗殺を生業にしている者たちを捉えるに至っていない。
 セバスたちが集めてきた情報では、暗殺のターゲットは俺だけではなく、ユリウスの名前も挙げられている。当然ながら、クリスの名前も上がっている。そして、俺とユリウスの資金源と思われているギルベルトも暗殺のターゲットになっている。

 羽虫の一匹や二匹を殺した所で、安全な場所から命令している奴らが諦めるとは思えないが、暗殺の依頼料が上がるように仕向けるのは必要だろうという結論になった。俺の暗殺を請け負った者を捕らえて聞いた(拷問した)所、小さな町なら1ヶ月全員が生活できる程度の金額になっているようだ。このまま、暗殺を阻止して見せしめを続ければ、俺に手を出すような組織は居なくなっていく。

「旦那様。その言い方は”ずるい”です」

「すまん。言い方が悪かった。信頼しているのは本当だ。セバスたちが掴んでいる以上でも、ダーリオたちならうまくさばいてくれるだろう」

「はぁ・・・。わかりました。でも、本当にいいのですか?」

「あぁ問題はない。本人にも確認して、了承を貰っている」

「旦那様。ヘルマン殿からも了承を得ております」

「助かる。ダーリオ。実行面での不安は?」

「そうですね。マスターの策を見破る者が居た時の対処をどうするかです」

「それは、考えても無駄だ。そのときには、全力で逃げるよ」

「わかりました。目的の階層には、食料や物資を運び込んでいます」

「順調か?」

「何匹か羽虫を捕らえましたが、本命ではありませんでした」

「そうか、当日まで隠れているのだろう。ご苦労なことだな」

「えぇ入り口は抑えていますが、通しています」

「それで構わない」

「マスター。20階層はどうしますか?」

「アンチェたちが待機すればいいとおもうが?」

「わかりました。手配致します」

「頼む。セバスもいいよな?」

「はい」

 二人の説得が終了して、着替えをして、ホームを抜け出す。
 知っている者は少ないが、ダンジョンには2つ目の入り口が存在している。ホームに新しく作った孤児院のキッチンから地下に入っていくルートだ。

 俺は、元ヘルマンの宿屋に移動した。約束の時間までここで過ごす。仮眠を取ればちょうどいい時間になるだろう。

 待ち合わせ時間の少し前に、変装した状態でホームに戻る。
 そのまま孤児院の中で、待ち合わせしている人物たちを待つ。

「待たせたか?」

 男性が二人と女性が一人だ。
 3人とも、ダーリオたちとすでに、25階層の階層主を倒している。今から向かうのは、ホームで新しく作成した30階層のセーフエリアだ。

「今、来た所だ。すぐに出発して問題はないか?」

「問題はない」

 ダンジョン内に入る。そこから、転移装置で26階層の転移装置に移動する。

「見せてもらうぞ?本当に、一人で30階層の階層主を突破できるのか?」

「あぁ」

「囮は?」

「夕方前には、ダンジョンに入った。10階層のセーフエリアを目指している」

「そうか・・・」

「そっちは?」

「ギードとハンスが、ザシャとディアナとイレーネを守るようにして向かっている」

「そうか、その感じだと、ザシャとイレーネが男装か?」

「クッククク。あぁ見せたかったぞ」

「怒られそうだから止めておくよ」

 ユリウスとクリスとギルが、変装のために着ていた外装を脱いだ。

 セーフエリアには、俺の代わりにアルバンが貴族風の格好で、ダーリオたちに護衛されながら、10階層に向かっている。10階層で、会談するのは、アルバンとイレーネたちだ。囮になってもらっている。皆が納得した作戦だ。ユリウスとクリスとギルを狙っている暗殺者たちもダンジョンに入っているのは掴んでいる。
 一網打尽は無理でも数を減らしたいと考えていた。

 俺が、”単独でダンジョンへのアタックを行いたい”と、ユリウスとクリスに伝えた時に出された条件が、25階層の階層主を倒した所の転移装置から30階層の階層主を倒すまでを、俺一人で突破できるのなら、安心して30階層の宿屋で待っているということだ。
 物資の輸送量から、ユリウスとクリスと後から合流する者たちを考えると、2ヶ月程度の時間はダンジョンの30階層より深い場所で戦闘訓練ができる。
 死ぬつもりは無いし、無茶をするつもりはない。ダンジョンの攻略が目的でもない。ただ、ギリギリの所での戦闘を繰り返して、経験を積みたいと考えている。

「ユリウス。クリス。ギル」

「アル。行くのか?」

「あぁ着いてこいよ」

「不甲斐なかったら、俺が助けてやるから安心しろ」

 ユリウスとクリスとギルを見る。
 準備は出来ているようだ。

 俺も、武装を確認する。エヴァとの初めてのデートで見つけた”刀”を確認する。鞘から抜いて、問題がないのを確認してから、ユリウスたちを見る。

「行く」

 25階層の階層主を倒した後の小部屋から探索を開始する。
 小部屋を出ると、26階層に続く階段がある。

 階段を降りて、26階層に足を踏み入れる。
 走り出すのではなく、索敵を開始する。

 26階層からは、洞窟のようになっている。罠も存在しているが、即死級の罠はない。出てくる魔物も、オークの上位種やオーガ程度だ。1対多でも問題なく勝てる。クリスを納得させるために、無様な真似だけは避けたい。魔物に圧勝するのは最低条件だ。

 後ろは気にしないと約束しているが、索敵範囲を広げておく。

 俺から少しだけ離れて、ユリウスが先頭で中央にクリス。最後尾はギルになっている。

 26階層の洞窟フィールドの探索は、問題にはならない。
 出てくる魔物も、多くても3体までだ。それも、ゴブリンやコボルトを連れて出てくることもある。

 魔法を使わないで、体捌きと剣術だけで倒す。

 半日程度で、26階層は踏破できた。
 思っていた以上に順調な滑り出しだ。

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