バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

Investigacion

歩いていると村外の周りの風景は来る時と同じく木々が並んでいて、奥の方に目を向けると、昨日突っ走った道が見える。
気温は昨日よりも少し涼しいが、湿度は高いようだ。
花菜にはまた倒れたら困る。先に休憩する場所を決めておかないといけない。
……………そういえば昨日、滞在している所とは別の大きな村があったな。そこには雑貨屋や大きな飲み屋くらいあるだろう。

「………ねえ、キャメロン……………今から………どうやって……証拠を………探すの……………?手がかりは………"村の外"しか………ないよ……」

「確かに犯人に関する情報は"場所"だけだが、"村の行事"はどうだ。何か特別な事が行なわれるだろう。それは何だ。」

「うーん……………」

オハナが顎(?)に手を当てて、村人の発言を思い出そうとしている。まさか聞いていないのではあるまいな。

「"次期村長選挙"……………?」

「そうだ。その候補にヒジリが入っている。そして貴様の提供情報を聞くからに、あやつは"村の英雄"として崇められているそうじゃないか。まさに"真の偽善者"だ。」

「でも、それは"普通"の事ちゃうんか?人助けするんは悪くないもんやろ?」

「それでももし………」

キャメロンがひとおきに発言を溜める。

「もし?」



「"それ"が狙いで偽善を行なっていたとしたら、どうだ。」



「なっ………!!」

「まだ確定ではない。ただ、一つの考えとして捉えろ。」

「………どうしてキャメロンはそう思うの?」

「それは"過去の事例"で判断できるからだ。」

「過去の………?キャメロンは………昔………【政治家】(ポリーティコ)だったの……………?」

「否、職業など就いた事もない。だが、俺は"この考え"について"確実視"している。」

「でも………何のため……………?」

「それは分からん。そもそも、あやつの明確な情報などまだ見つからぬ。村人に聞いても"武勇伝"しか言わぬだろう。」

せめて"幼少期"の情報さえあれば何とかなるのではないのだろうか。いや、殺害動機の根拠となる情報もなければ相手を論破できない。
あやつを幼い頃から知っている人は果たして、近くにいるのか。この広大な草原と森林がほとんどの中で見つかるのか。

「そういえば………凶器は………?人を殺したなら………道具が………必要のはず…………」

「俺の考えでは、凶器は鎚(マルティーヨ)だ。さらにいえば、死体が原型を留めていないのだから"大型"のはずだ。女が担げる重さではない。」

「やけど、女二人でも持てる事はできへんか?」

「大鎚一つでどうやって女二人が担ぐんだ。一人が刃の部分を持つのか。二人で担いだ場合、"掛け声"で相手が振り向かんのか。」

「ゔっ………」

意見の矛盾を容赦なく指摘するキャメロン。相手に隙を与えさせない。

「キャメロン………凶器は………どこなんだろうね……………」

「村人が回収していない。つまり、"あの村以外の土地のどこか"に隠したはずだ。村人が目をつけない、血の匂いがしない、短時間で村に戻る事のできる場所、か。」

そのような場所は一体どこにある。血の匂いがしない場所はあるのか。それとも……………何か薬品、いや、あるいは─────"異能力"。
後者ならば犯人は、俺と同じ─────



【禁索体】(ムノサニーア)、だ。



「なあ、アンタ。」

「………何だ。」

「さっきのアンタの顔、怖かったで。"睨み付け"が冷たいな。」

「………俺が睨んでいた、だと。そんなまさかな。」

俺に感情があるとは知らなかった。自分の出生も分からないものだから尚更だ。
村よりも少し離れた場所で花菜を降ろした。

「今から………何をするの……………?」

「まずは凶器を探す。そこで"特別な道具"を使う。」

「特別な道具?何やそれ?」

キャメロンが着物の袖から金の拳銃と銀白色の板を二枚取り出す。

「特別というのはチタン板だ。これを【幻晶銃】メディジェイトにセットする。」

拳銃の遊底をズラすと中には細長い穴が二つあり、そこに板を挿し込む。カチリと嵌め込まれる音がした。
元に戻して撃鉄を引き、銃口を上に向ける。

「弾丸が入ってないやん!!試し撃ちにならんやんけ!!」

「そう慌てるな。貴様らはただ見ていろ。耳を塞いでおけ。」

二人は耳を塞ぎ、キャメロンがトリガーを引く。
その瞬間、鳴音が空に響く。
すると─────



拳銃が金色から銀色に変わり、模様も十字架からラベンダーのレリーフに変わった。



「普通の銃なら、遊底は弾丸の入れ替えとなる部分、弾倉は弾丸の装填となる部分だが………」

キャメロンが拳銃を滑らかに触り、変化した際の煤を払った。

「メディジェイトは違う。遊底部分は拳銃の形質変化を促進させ、弾倉は金属板を装填する。」

「へえー………不思議な道具やな………」

「それで……………その銃を………どうやって………使うの………?」

もう二つの銅板を装填しているキャメロンにそう聞く。

「元々はこの銃は戦闘用として、俺が重宝している。だが、特定の金属板を挿し込むと用途が"派生する"。今回使うのは"融点の高い"チタン板。そして"熱伝導率の高い銅板"。用途は……………探査、だ。」

両腕をまっすぐ目先の森の方に伸ばす。片目を瞑る。
あの小さな村にも近い、外出の少ない村人に見つかられることがない、血の匂いが感知されない、あるいは異能力を駆使した"完全犯罪が可能な場所"。

「【禁索概念詠唱】:【探査】(インヴェスティガシオン)」

「【特定武器】(アルマ・エスペシフィカ):大鎚(マルティーヨ・グランデ)」

トリガーを引いた。
すると、鳴音が熱を帯びて広範囲に響いた。
銃口からは白煙が出ている。
鳴音が止まない。まだ見つからないようだ。





────────カーン……………

一つ目、後ろ遠方から。

────────ドーン……………

二つ目、左側遠方から。

「あづい!!あづいわ!!アホ!!余計に暑くすなや!!」

「……………暑い」

「二つある。一つは合金製か、もう一つは鉄製。殺傷能力が高いのは鋭利かつ重い。だが異能力を使えば前者も扱える。……………とにかく端から探索しかないな。」

「聞いとんのか!?」

「ああ、聞いているぞ。事前に言わなくてすまなかったな。」

「すまなかったで済むと思っとんのか!!」

「過度に不満を言う暇があるなら探索に行くぞ。」

オハナの話など気にせず、歩き出す。

「待って………!」

その後ろに花菜がついて行く。
三人は大きな村の方に向かって行った。





その頃、あの小さな村では。

「おーい!!死体はここに置いたらいいのか?」

大きな麻袋を担ぐ一人の獣人がそう言った。麻袋には血がたくさん付着しているが、時間が経っていたので乾いていた。血生臭い。

「はい!!そこでお願いします!!」

村の大きな倉庫。ヒジリがその場所を指定し、村大工に運びを頼んでいた。
火葬は早くても明日の夕方。村の中心に置いても全員が気まずくなるだけだから、村の唯一の大倉庫(共有ができる)に少しの間だけ置かせてもらう。

「運んで頂きありがとうございました!!助かります!!」

「イイってことよ!つっても、ホントにくっせえな!!早く聖職者が来ねえかな………」

「はは………そうですね……………」

ぎこちない笑顔でヒジリがそう答えた。

(アレがバレなければいいな。見つかったらおしまいだ。)

ヒジリは冷や汗をかいていた。
その瞬間、



─────シュッ。



何かが焼ける音がした。
倉庫の中がやけに暑い。今日はこんなに暑かったか?
周りを見渡してみた。
とある物に目が留まった。それは合金製の─────大鎚。

(さっきの焼ける音はまさか………これか?)

大鎚にはラベンダーのレリーフが刻印されていた。それと焦げ臭い。

(まさか……………ね。)

「おーい!!戻るぞ!!」

細かいことは気にせず、倉庫から出た。





歩いて30分。目的の場所に着いた。
昨日見た大きな村。あの村とは全く違う雰囲気。
正門には大量の花が装飾されており、アンティークな街頭が設置されている。
呑み屋、雑貨屋、武器屋、そして小規模の組合(グレミオ)………など。
賑やかかつ活気の溢れた村。

「わあ……………」

暗かった花菜の眼がキラキラ輝いていた。子供にとって"こういう"場所は新鮮なのだろう。

「この村のどこかに大鎚がある。探すなら武器屋、あるいは他職種が集まる組合。」

「え〜!?店まわりたい!!少しくらいええやん!!」

「全てが解決したらの話だ。我慢しろ。」

この村にある武器屋は全部で三つ。片っ端から店に入る。
まずは正門に近い小さな店から。

「生憎ですが、こちらでは大鎚は取り扱っておりません。」

声の低い女性がそう言った。ここにはない。
次は西門近くの古びた店。

「大斧(アッチャ・グランデ)ならありますぞ。」

老眼鏡のエルフの男性がそう言った。ここにもない。
最後は組合近くの店。

「大鎚なら熟練の職人さんが時間をかけて造るので、大都市に発注してもらいましょうかぁ?」

背の低い女性がそう言った。ない。
武器屋全てをまわってもない。もう頼みの綱は組合にしかない。
この村には組合は一つだけである。もしここにもなければ、さらに別の遠く離れた村か町まで行かなければならない。
だが、あの村には黄昏時までに戻らなければならない。怪しまれたら困る。
【ManianaーGremio】と書かれた木造二階建ての建物に入って行く。
中は意外と広く、一階は組合の受付と公共の場となっている。
来ている職業は見るからに、【騎士】(カバイェロ)【魔法使い】(ブルーホ)が大半を占めているようだ。

「こんにちは!」

受付の女性が元気な声でキャメロン達に挨拶をした。
別に組合への登録に来たわけでもないのだが。
まあ聞く以外手立てはない。

「つかぬ事をお伺いするが、この組合に大鎚を扱っている人はおらぬか。」

「でしたら……………あっ!あちらから来ている方なら大鎚をメインとしていますよ!」

受付係が指した後ろの方に向くと、入り口から三人の男性パーティーが。
その中に鉄製の大鎚を担いだ筋肉質の男性がいる。

「エマヌエルさん、こんにちは。こちらの方々が貴方に御用があるそうです。」

「ほう………お前か。ヒョロい身体してんな。ちゃんと食べてるか?」

俺はこやつの知り合いではないのだが。
エマヌエルと称する男に肩をポンポン叩かれる。
見た目は長い黒髪に褐色、目の色は緑。声は野太い。
顔を眺めている場合ではない。本題に入る。

「初めて会って妙な質問をするが、その大鎚を近くで見せてもらえぬか。」

「そうだな、見たいのなら……………」



「俺と勝負しようぜ、兄ちゃん。」



「………要するに"賭け"で決めるということか。」

「まあ、そうだな。」

と、お互いに睨みあっていた時に入り口近くのテーブル席で、

(ふふふっ!やっと見つけましたわ!!昨日はあの現場を見て監視を怠けていましたが、今度こそ逃がしませんわよ!!)

エルフの少女がローブを被って、ニヤニヤしていた。

(これぐらい私にかかれば余裕ですわ!!)

「俺は認めた相手だけに大鎚を触らせるって決めてるんでな。兄ちゃん、何を賭ける?」

「……………俺は、」




「俺の武器である【幻晶銃】メディジェイトを賭ける。」

空間に静寂が奔った。

しおり