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第一話 VI

 紅白が、天姫が戦っている方へ向かうと、そこには天姫たちのほかに、数人の大人がいた。そして天姫と戦っていた男は、紅白が戦っていた女性と同様に気を失っているようだった。

「あ、コウ!って、なんでおぶってんのよ」
「なんで出会い頭にしかめっ面なのよ。いや、戦いの途中で突然倒れてな。限界を超えての能力使用で命に関わるし、放っておくわけにもいかんだろう」

 なぜか少し不機嫌になった天姫に、紅白は事情を説明し、女性をそっとおろした。

「え、そっちも突然倒れたの?」
「そっちもって、お前んとこも倒れたのか」

 どうやら、天姫が戦っていた男性の方も、能力使用中に突然倒れたらしかった。そしてこちらも、オーバーワークが原因らしい。

「……………」
「どうしたの?」

 あごのあたりに手を当てて、何か考え事をする紅白に、天姫が声をかける。今の紅白の雰囲気は、いつものおちゃらけた感じとは違ったのが、天姫としてはひっかかったのだろう。

「晃陽高校の自治会の方たちですか?」

 天姫が紅白に声をかけた直後、紅白が返答をするよりも前に、一人の男性が二人に話しかけてきた。

「はい、そうですけど」
「この度はありがとうございます。あなたたちが、市民を避難し、彼らと戦ってくれたおかげで、被害は最小限に抑えられました。感謝します」
「いえいえ、そんな」

 話しかけてきたのは警察だった。天姫は、大したことありませんよ、と自分の胸の前で両手を振った。紅白はというと、特に応対はせず、何か違うことに意識がいっているようだった。
 警察は、少し事情を聴いてその場を後にした。出来れば事情聴取がしたかったようだが、二人の怪我の度合い(紅白が特に重症)から、治療をしてから、となった。

「あの人たちはなんだろう?」

 天姫が気になったのは、警察と一緒に現場に駆け付けていた数人だった。その人たちは、スーツを着ており、よく見ると襟元には桜を模したエンブレムがつけられていた。

「あれは国防軍だ」
「…国防軍?」

 独り言気味に呟いたつもりだったので、先程まで考え事をしていた紅白から答えが返ってきたことに、少し驚く天姫。

「日本国防衛軍超能力部隊。能力でもって日本を防衛する部隊だ。まぁ聞こえはいいが、実際は、戦闘部隊みたいなもんだな」
「………詳しいね」
「そうか?」

 確かに結果として天姫が聞いたことだが、自分が予想した以上の情報が返ってきて、多少面食らったようだった。
 この日本国防衛軍超能力部隊は、先の戦争時、各国が能力を戦争に持ち込んだ際に作られた部隊だ。当時存在していた自衛隊とはまた別物で、今では自衛隊は人々の保護や、災害救助などが主な任務だが、国防軍は戦闘が主な任務だ。危険が伴うだけでなく、戦闘用の部隊を作るとはどういうことだ、という国民の批判は後を絶たないが、この部隊がなければ、今の平和を保つことが出来ないのもまた事実である。能力がはびこる今の社会で、それに対応できるのは同じ能力なのだ。
 国防軍は、所在地などの情報は基本的に公開はされていないが、全国各地、どこで能力に関する事件が起きても、すぐ駆けつけている。
 その国防軍のうちの一人が、紅白たちのもとへと歩いてきた。

「あなたたちが、彼らと戦っていてくれたのかしら?」
「え?」

 天姫は、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしながら、変な声を出してしまった。それは、国防軍に話しかけられたからというわけではなく、質問の内容も全く関係ない。話しかけてきた人が女性だったからだ。

「えーっと、はい。あまりうまく抑えることは出来ませんでしたけど」

 しかし、いつまでも驚いているわけにもいかない。質問に答えなければ失礼と判断し、天姫は無理矢理にも思考を取り戻し、最低限の受け答えをした。

「そう。でも何にせよ、あなたたちのおかげで、大惨事には至らなかった。国防軍からも礼を言わせてもらうわ。……晃陽高校の自治会は、頼もしいわね」

 国防軍の女性は、そう言うだけ言って、この現場を後にした。

「女性の軍人っているもんなんだね。なんで軍に入ろうと思ったのかな?………ってコウ?聞いてる?どうしたの?」

 聞かれた紅白は、再び考え事に集中していた。

「コウ?」
「え?あ、おう。…何?」
「もう、聞いてたり聞いてなかったり、どっちかにしてよ」
「俺にも色々あるんだ。聞く聞かないは俺の勝手だろう」
「それは、そうだけど………」

 天姫の疑問は解消されずに、二人は救急車で病院へと連れていかれた。

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