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第二話 I

 紅白と天姫は、次の日は早めに登校し、自治会室に足を運んでいた。天姫はそうでもないのだが、紅白は体中に包帯が巻かれており、いかにも重症という見てくれだ。
 紅白と天姫は、昨日の事件のあと、病院で治療を受け、警察の事情聴取を受け終わった時には、もう時間が遅かったので、そのまま帰宅していた。一応、紅白たちも、学校に連絡は入れていたのだが、改めて報告へと出向いていた。

「なんでこんな朝早くに学校に来なければならんのだ………」
「まぁまぁ、一応パトロール中に起きたことなんだから、報告しとかないと」

 紅白は重たい足をなんとか自治会室まで動かし、いやいやながら、なんとか扉を開ける。

「………どうしたんすか?」

 自治会室の中では、先客の蓮と冬夏が机に突っ伏し、がっくりとうなだれていた。

「ん?やっと来たか。いやなに、ちょっとな………」
「あなたたちが怪我をしたって聞いて、アイツがね………」
「あぁ、なるほど。………なんかすいません」

 紅白は二人に起こった出来事を察し、少し申し訳なくなった。
 二人が言うアイツとは、自治会長のことだった。今の会長は、仕事は全然しないが、この学校への愛着が凄まじく、学校や生徒の身に何かあると、少し暴走してしまう節がある。今回の件で、学校の生徒、しかも自治会役員である紅白と天姫が怪我をしたことから、その犯人に怒り、暴れ出そうとしていた。それを蓮と冬夏が必死に抑えていた、というわけである。
 疲れきっているところ申し訳なかったが、紅白と天姫は昨日の出来事を、改めて口頭で説明した。

「まぁ、お前らが無事でよかったよ」
「これだけ重症で無事というのもどうかと思いますがね」

 紅白は、自分に巻かれた包帯をわざと見せつけるように悪態をつく。

「そんな皮肉が言えるなら問題はないだろう。自立歩行ができて、喋れているんだ。それに、昔はもっと無茶していただろう?」
「あー、はいはい」

 紅白はもう聞きたくないというかのようにあっさり両手をあげる。この手のやり取りには、もううんざりだろう。怪我をしているとなればなおさらだ。さらに今日は、朝早くの登校だ。これ以上は、もう紅白の身がもたない。

「とりあえず、報告ありがとう。これから臨時の全校集会を開くから、あなたたちは、先に体育館に行っておいて。明志と成美ちゃんが先に行ってるはずよ。私と先生も、準備が出来次第行くから」

 昨日の事件を受けて、学生に注意喚起を促すため、臨時で全校集会を開くことになった。知っている限りの情報の開示と、経緯を説明するためでもあったが、要らぬ噂が広まらないようにするためでもあった。
 基本的に全校集会は、自治会役員全員が生徒の前に立ち、担当教師が補助しながら役員が進行していく流れだ。だが、今回の臨時集会は蓮が進行し、その補助として冬夏が入る、という形が取られ、それ以外の役員は、袖に待機していた。今回に関しては、怪我をしている紅白と天姫を前に出すのはまずいと判断したからである。今回の集会では、街で事件があったことは周知のことであったので、それを隠すつもりはなかったが、紅白と天姫が怪我をしたことは言わなかった。ニュースでは、晃陽高校の生徒が被害に遭ったことは伝えられていたが、自治会役員ということは伏せられていた。自治会役員が被害に遭ったと知れば、他の生徒が不安に思うかもしれないからだ。だからと言って、紅白と天姫だけを待機させるのは不自然なので、冬夏以外は全員待機という形がとられたのだ。
 ちなみに、会長は今回も不参加だ。




「だっせぇなぁ紅白。自治会のくせに怪我してやんの」
「うるさいわよ!自治会役員全員が強いと思わないで!私は戦闘が苦手だって何回も言ってるじゃない!」

 全校集会の気遣いも虚しく、紅白の怪我はすぐにクラス中に広まった。まぁ包帯を巻いているのだから、隠しようはないわけだが。もしかしたら、もう学年中に広まっているかもしれないが、当の紅白は、全く気にしていなかった。むしろ、大怪我ながら、クラスメイトと騒ぎ始める始末である。
 しかし、『自治会のくせに』とは、言われて恥ずかしくないものだろうか。もちろん紅白が『戦闘』を苦手としているのは、自己申告通りそうなのだろう。しかし自治会に入る条件として、ある程度戦うスキルを持っていないといけない。これは全国の高校全てがそうしているわけではないのだが、晃陽高校はそうしている。だが、ちゃんとした規則というわけではなく伝統のようなものだった。だから、紅白のように『戦闘』が苦手な生徒が自治会に入ることはあるというわけだ。もっとも、彼の場合は自ら望んで入ったと言えば、少し語弊があるが。

「ふぅ、ったく、こっちは怪我してるっていうのによぉ」

 紅白は、休憩と言わんばかりに、大きく息を吐いて深く椅子に座った。

「その割には随分と楽しそうじゃないか。その分だと、今日もパトロールを頼んでも大丈夫そうだなぁ」
「……………」

 紅白は、一瞬にして声の主を察知し、固まった。完全に油断していた。まさか彼女がこのタイミングで接触してくるとは予想外だった。今は昼休み。生徒にとっては至福の時間である。気が緩むのも分からんでもないが、少々おふざけが過ぎたらしい。

「あーイタイ、スゴク、イタイナァ」

 もはや片言である。

「嘘つけ、あれだけ騒いでおいて」
「………何か、御用で?」

 紅白は、恐る恐る蓮の方を向く。

「まぁ用がなければ、わざわざ昼休みに教室には来ないだろうな」

 蓮はそう言って、紅白の首根っこを掴み引きずっていく。昨日も見たような光景だ。

「ちょ、たんまたんま!自分で歩けるって!」
「離したら逃げるだろう、お前は」

 バレバレである。
 紅白は必死に抵抗するも、蓮から逃げることは叶わず、蓮の方も、紅白をがっちりホールドして、一向に放す気はなかった。

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