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気がつくと少女がバイザーを差し出していた。

そのバイザーを受け取り茫然(ぼうぜん)と彼女を見つめる。

「君はいったい?」

そんな僕の手を取り彼女はトイレの扉を開いた。

『未来』

彼女の心の声を聞いた気がした。

同時に横から彼女の肩に向かい影が走った。

リスさながらの俊敏(しゅんびん)さで肩に飛び乗るナビだった。

僕は彼女の手に引かれるまま、
トイレから連れ出されていた。

その瞬間、
頭に(よぎ)った不純異性交遊(ふじゅんいせいこうゆう)の文字に一瞬足がすくむ。

衆目(しゅうもく)(さら)される羞恥(しゅうち)に自然と顔が強張(こわば)った。

だが予想に反して、
聴衆(ちょうしゅう)()ややかな視線(しせん)()かった。

それどころか車内は閑散(かんさん)と静まりかえり、
人の気配がしない。

内装(ないそう)も心持ちか変わって見えた。

僕は思わず(つぶや)いていた。

「人がいない」

それに答える様に少女は窓際(まどぎわ)を指差した。

その指し示した先には見知らぬ風景が流れていた。

荒廃(こうはい)()ちた都市が夕日で赤く()まり、
波の様に打ち()せていた。

いつの間にか列車は、空中に()えられた
透明なチューブの中を流れる様に進んでいた。

透明ガラス()りの窓から眼下(がんか)の景色が()けて見えた。

宙を(ただよ)っていた。

そこから見下ろす都市は殺伐(さつばつ)とし、
荒廃(こうはい)して僕の知る近代都市の面影(おもかげ)はなかった。

(あらた)まって転移した事を実感する。

「これが未来?
 いや並行(へいこう)()(かい)だったか。

 信実なのか?」

『真実の未来。真実の歴史』

少女がその考えを肯定(こうてい)する様に(ささや)いた。

「手品じゃないんだ」

思わずそう(つぶや)いていた。

『現実世界』

少女は短くそう答えた。

しばらく(ほう)けて景色(けしき)(なが)めていると、
ふとある疑問(ぎもん)が浮かんだ。

「そう言えば、
 僕が乗ってたのは地下鉄じゃなかったけ?
 それに昼間だった(はず)

真っ赤に焼けた眼下(がんか)見下(みお)ろしたずねる。

『こちらの世界も今は昼間』

「この世界の空は青くないんだ?」

『空が青いと決めたのは君達』

まるでおとぎ話を聞いてる様だ。

『私にとっては君達の世界の方がおとぎ話』

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