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動くモノ

 夕食の準備を進めている老人と少女は、木で出来た丸い円形状のテーブルを自分の近くに置き、皿を並べていた。
 自分も何か手伝いたい所だったのだが、身体が言うことをきかず、ただ食器が並べられて行くのを見るしか出来ない。

「さて、飯じゃな」

 微かに香る優しい臭いに自然とお腹が空く。
 そういえば、目を覚ましてから何も食べていない。

「起き上がれますか?」

 力を入れて起き上がろうとする自分に気がついた少女が腰の辺りに手を回して手伝ってくれている。
 女性に手伝って貰う事に無性に恥ずかしさを覚えたが、身体を起こし、背もたれがあれば座れる事が出来た。

「ありがとう助かったよ」

「いえいえ。これも全ておじいちゃんの杖のおかげだから」

「ふぁ!?」

 食事を口に運んでいた老人が背もたれに使っている杖を見て吹き出した。

「これ、本当に使って大丈夫なの?」

「大丈夫ですよ。こんな程度でおじいちゃんは怒りませんよ。ね?」

 杖からミシミシと今にも折れそうな音を立てているのだが、少女は優しい笑みで老人を見る。

「そ、そうじゃな…」

 そう言って何かを言いたそうな口を閉じて、静かに食事を再開した。

「えっと、ご飯食べますよね?」

「自分に何かを頂けるのなら」

 助けてもらったばかりか食事まで貰えるとは、本当にありがたい事なのだと改めて認識させられる。

「芋のお粥ですが、お口に合えば…」

 皿に移された食事を見る限り、芋のクリームシチューといった所の料理だ。
 スプーンで掬い、熱い湯気を息を吹き掛けて冷ます。
 そして、それを自分の方へ運んでくる。

「ど、どうも。頂きます」

 軽くお礼を言ってから運んできた芋のお粥を口にする。

「ど、どうでしょうか?」

「うん。うまい。どこか懐かしい味だ」

「あ、ありがとうございます」

 褒められて照れた少女が、顔を伏せながら再びスプーンで掬う。

「どんどん食べて下さいね」

「ああ。ありがとう」

 座った態勢のまま、料理を食べさせて貰い、空いていたお腹や気持ちまでもが満たされた。
 不思議とその後の記憶が抜け落ちるように眠気と共に意識を手放した。

 ◇◇◇◇◇

 小鳥の鳴き声でふと目が覚める。
 外は薄明かるくなっているが、まだ日は登っていない。

「いつの間に寝ていたんだ…」

 痛む身体をゆっくりと起こし、気になっていた周囲を見渡した。
 建物の内部は、家というより民家に近い作りをしている。

(さて、立ち上がれるかな…)

 膝に力を入れて立ち上がろうとするが、中々上手くいかず、倒れ込んでしまう。

「やっぱり、だめか…ん?」

 倒れ込んだ先に、昨夜自分が背もたれとして使っていた杖が壁際に立て掛けてあった。
 偶然近くにあった杖へ這いずりながら何とか掴み取り、それを頼りに立ち上がろうと試みる。

「いけるか…」

 ゆっくりと立ち上がり、杖を地面に突いて暖簾(のれん)のように垂れ下がった幕を上げて外へ出た。

「おや、こんな早朝に目を覚ましたかね?」

 外へ出てそうそう村長が挨拶してきた。

「ええ。おかげさまで身体を起こせるようになりましたよ」

「おお。それはよかった。ところで、歩けるかね?」

 突然の散歩の誘いに断る理由もなく、頷いて付いて行く事にする。

「何とか、歩けますけど。どこに行くんですか?」

「なぁに。簡単な散歩だよ。ああ、そうそう。入り口にある靴を履いて来なさい」

「靴?」

 どこにあるのかと先ほどの自分がいた民家に入り、靴を探すが見つからない。

「皮の靴じゃよ」

 入り口の隅に置いてあったのは、一見サンダルのような形で、その左右に穴を開けて紐を通した感じの簡単に調節出来る靴だ。
 すぐにその皮の靴を履いて、再び立ち上がり、村長の後ろに付いて行く。

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