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第7話 フェイズ

「さて、まずはこの世界の魔法のことから説明していこうかな」

 ミアは教室の黒板に簡素な人体の絵を描き出した。

「うちらが魔法を出すためにはマナというものが必要になってくる。これは生き物の生命力そのもので、魔力に変換することで魔法を出せる」

 ミアは人の絵の胸の辺りに円を描き入れ、そこに「マナ(魂)」と書いた。

「そして、このマナから魔法が作られるまでに、“段階(フェイズ)”というものがある。これがさっき言っていた、P3(フェイズスリー)やらP4(フェイズフォー)とかいうやつ。うちらが魔法を出すための一段階目、P1から話していくね。魔法を出すために一番最初にすること、何だと思う?」

 ミアはチョークで翔太のことを指して質問する。

「えぇと、マナを使う準備をする、とか?」

「あーー……ちょっと惜しいかな。正解は、“自分の出す魔法を想像すること”。これがP1の段階。この想像力に基づいて、うちらの魂の中で、必要な分のマナだけ魔法出力のために練られていく」

「つまり、想像の規模を大きくすればするほど、マナも多く使われると」

「そう。そして、さっきも言った通り、マナはうちらの生命力そのものだから、確かに強力な魔法は攻撃力が高くなるけど、その分使用者の体力も少なからず減っていることを注意して」

 ここで翔太はある疑問を持った。

「ちょっと待ってくれ。もしそんな仕組みなら、俺が自分の魂を10削って出した魔法は、相手に10の分のダメージしか入れられないのか? それだったら、初めから生命力の高い奴が勝ちになるんじゃ……」

 ミアはチッチッチと、顔の前で人差し指を振る。

「その話はまた後で出てくる。そんな単純なことじゃないから安心して。次はP2の段階。これは、“マナが魂から抜け出して、体内に循環している状態”のこと。どこから魔法を出すのか、自分の体のどこを強化したり、変化させたりするかはこのP2の段階がほぼ担っている。次に、P3」

 ミアは黒板の人間の絵の体に沿って、一つの薄い膜を描いた。

「ここがP3。うちらの肌を覆っている、通称“リフレクション”と呼ばれる部位」

「聞いたことが無い部位だ」

「え、そうなの?」

「地球人には無かった」

「ふーん、変なの。じゃあ続けるけど、この部位が、さっきの翔太くんの質問に答える重要なものになってくるわけよ。リフレクションは、体内から体外にかけてマナの運び役をしてくれている。そして、マナがリフレクションを通るとき、そのマナはいくらか増えて外に出ることがあるの。この、どれくらい倍率がかかってマナがリフレクションを通ったかの値を“反射率”という。例えば、さっきの翔太くんの話でいくと、翔太くんが魂を10削って出した魔法は、必ずしも10のダメージになるとは限らない。反射率が1.2倍だったら12、0.7倍だったら7のダメージになるの。この反射率の値は、特訓のしようで変えていくことができる」

「じゃあ、P3の段階では、反射率ってのは上げれば上げるほどいいんだな」

 翔太は得意げに、分かった気で言ったつもりだったが、ミアは首を横に振った。

「このリフレクションは攻撃の時だけじゃない。相手の攻撃を防御するときも、作用するの。つまり、体外から体内へのマナの侵入時、反射率を高く上げている状態だと痛い目を見るの。だから、うちらは自分の攻撃時と防御時を分けて考えて、リフレクションの反射率を上げたり下げたりしながら戦わないといけない。反射率はどれだけ高いかというよりも、どれだけの範囲を使えるか、が大事になってくる」

 翔太はリフレクションとはよく出来た仕組みだなぁ、と感心する。

「まぁ、P3にはまだまだ工夫のしがいがあって奥が深いんだけどね。最後は、P4。これは“体外に出たマナのコントロール”のこと。例えば、出す魔法に追尾性を持たせたり、出した後に強化をたくさん付与したりできるのがこの段階。この段階にはとても多様性があるから面白い。……さて! ここまで4つ! 魂! 体内! リフレクション! 体外! この4つが、うちらが日々訓練している魔法の原則! これらを制するものが魔法を制す!」

 翔太は聞いていて心が躍らされた。これらのことを現地の人たちは既に学習済みで、ギースなどの優等生はそれをハイレベルにまで極めている。
 翔太も、早くそこに追い付きたいと思った。
 熱の入ったミア先生は次にこう言う。

「そして、うちらには生まれ持った能力、特性があって、誰がどのフェイズに適しているかの型もある。翔太くん、君は…………天才のP4型。間違いないよ」

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