第261話 死神ちゃんと追加戦士
死神ちゃんは地図を頼りに〈
(ターゲットは、あいつらじゃあないのか……)
死神ちゃんの視線の先には、以前〈指揮官様〉と呼ばれる詐欺師にとり憑いたときに遭遇した五人の
死神ちゃんは前回彼らと遭遇したときに、彼らに〈途中からヒーロー戦隊に合流する、追加戦士〉だと誤認された。そして決めポーズの練習などに巻き込まれた経緯がある。そのため、彼らがターゲットではないと分かるとホッと胸を撫で下ろした。それと同時に、絶対に彼らには見つからないようにしようと気持ちを引き締めた。彼らと鉢合わせたが最後、今回もまた追加戦士として巻き込まれかねないと思ったのだ。
死神ちゃんは地図上に表示されているターゲットの位置まで、気配を消したまま天井伝いにそろそろと進んでいった。そして、死神ちゃん同様に気配を消して五人を観察していた黒ジャージの小人族の背後から、肩をトンと叩いた。すると、彼は悲鳴を上げて飛び上がった。
「むむっ!? か弱い一般市民のレスキュー要請が聞こえた気がするぞ!?」
「ジャージメンファイブ、出動だー!」
ジャージメンファイブは応と鬨の声を上げて、死神ちゃんたちのもとへと近づいてきた。彼はハッとして口元を両手で押さえると、慌てて〈姿くらまし〉をして死神ちゃんの腕を掴んだ。そして、急ぎ足でその場から離れた。
先ほどの場所から少し離れたところにやってくると、彼はハアハアと息を切らせながら辺りをキョロキョロと確認した。安全であると分かるとうなだれながら深くため息をつき、顔を上げるなり死神ちゃんを睨みつけた。しかし、ジャージメンファイブの声が聴こえると身をすくめて一瞬硬直し、死神ちゃんの手を取って道のさらに奥へと引っ込んだ。
死神ちゃんは不思議そうに首を傾げると、きょとんとした顔で尋ねた。
「お前、あいつらの仲間なんじゃあないのか? 何で陰でコソコソしているんだよ」
「あの子たちから隠れているのが分かってて、どうして君は何で脅かすようなことをするの? ていうか、君は一体何者なわけ?」
「俺? 俺は死神だが」
「まったまた~! こんな可愛らしい死神がいるわけないだろう? ――あ、あれでしょ? どこかの里の、超能力者の子が何故か死神ってあだ名されてるらしいんだけれど、それ、君のことでしょ? ねえ、どうしてそんなひどいあだ名をつけられているの?」
死神ちゃんは否定も肯定も説明も一切することなく、苦笑いでごまかした。ただでさえジャージメンファイブという面倒事があるだけに、さらなる面倒事を負いたくはなかったからだ。黒ジャージの彼は不服そうに首をひねったが、気を取り直して自分の話をし始めた。
「僕はね、彼らのことを陰から守っているんだ」
「だから、何で陰からなんだよ。堂々と、パーティー組んで守ってやればいいじゃあないか」
「いや、だって。は、恥ずかしい、だろう……?」
彼はカアと顔を耳まで真っ赤に赤くすると、ギュッと目をつぶって恥ずかしそうに俯いた。どうやら彼は、ジャージメンファイブの中の紅一点・ピンクに好意を寄せているらしい。死神ちゃんは呆気にとられて口をあんぐりとさせると、目を
「あの、過激発言をするヤツだよな? 『泣いて詫ても許さない! 流血蹂躙!』とか何とか……。何、お前、Mなわけ?」
「違うよ! 彼女、ああ見えてとても優しいんだ! 同じ里の出身でね、僕たちは幼馴染なんだよ」
「幼馴染なら、なおのこと堂々と守ればいいだろうが」
「いやでも、恥ずかしい……。それに、逆に心配かけたり、守られたりしちゃいそうだし……」
彼は再び俯くと、恥ずかしげにもじもじとした。何でも、彼は小さなころから彼女にずっと守られてきたのだそうだ。奥手で引っ込み思案な彼はよく周りからからかわれたそうなのだが、そのたびに勝ち気な彼女がいじめっ子を一喝し、彼を慰めてくれたのだとか。そして、彼女のほうが少し年上だそうで、彼女は彼よりも早く里を出て冒険者となった。彼はそんな彼女を追って、やはり冒険者になるべくダンジョンのある街へとやってきたのだという。
「そういうわけだから、僕が顔を出したらまた僕のことを守ろうとするかもしれないし。僕は弟分として守られ続けたいわけじゃあなくて、一人の男として彼女を守りたいんだ」
「だったら、やっぱり堂々と横で守ってやれよ。今の自分を見てもらわないことには、男として見直してなんかもらえないぜ?」
「でも、なんか最近、レッドといい仲っぽいし。僕がこっそり助けに入るたびに、何故かレッドにお礼を言ったり、レッドにぴったり寄り添ったりするんだ。おかげで余計に、顔が出しづらくて……」
ぐじぐじと言い訳を並べ立てる彼に、死神ちゃんの苛立ちはとうとう最高潮に達した。死神ちゃんは彼を睨みつけると、気難しげに声をひっくり返した。
「だから! それこそ顔出して、横で堂々としろよ! もっと男らしくアピールしろよ!」
「男らしくってなんだよ! 男の全てがグイグイ肉食系ってわけじゃあないんだよ!」
「んなもん、分かってるよ! でも、お前はずっとこのままでいいのか!? このまま、レッドとの仲をお膳立てするのか!?」
彼はグッと息を呑みこんで押し黙ると、少ししてから小さな声で「それは嫌だ」と呟いた。すると、どこからともなくジャージメンファイブの悲鳴が聞こえてきて、彼は慌てて悲鳴のする方へと走っていった。
「ああ、怖かった。赤井さん、今回も助けてくれてありがとう?」
「えっ? あっ、うんっ? あはは」
目の前では、ピンクとレッドが仲睦まじく寄り添っていた。「それは嫌だ」と言っていたはずの彼は、結局
「これでも、一応はやる気はあるんだよ!?」
「一応じゃあ駄目だろうが。やる気あるなら、〈姿くらまし〉しないで行けよ」
「うう……。分かっているけれど……」
彼がうなだれると、タイミングよくジャージメンファイブの悲鳴が聞こえてきた。彼は咄嗟に〈姿くらまし〉しようとしたが、先ほど術を行使したばかりでまだ新たに術を使える状態にはなかった。それにより、彼は助けに行くことを躊躇った。しかし死神ちゃんは「いい機会だから、そのまま行ってこい」と促した。それでも彼は尻込みし、頭にきた死神ちゃんは無理やり彼を戦場に押し出した。
腹を括る間もなく転がるようにモンスターとピンクの間に躍り出た彼は、反射的に剣を構えて敵の刃を受け止めた。驚きの表情を浮かべるピンクに振り向くことなく、彼は「大丈夫?」と声をかけた。
「えっ、黒澤君、どうして!?」
「桃子ちゃんは、僕が守るって決めたんだ! これからもずっと!」
「えっ、
彼は難なく敵を撃退すると、剣を掲げて決めポーズをとった。
「黒子のように陰ながら! 守り続けたジャージメンファイブ! 満を持して、表舞台に登場! 追加戦士、ジャージメンブラック!」
ピンクは目に一杯の涙を浮かべて感動し、幼馴染の彼に抱きついた。他のジャージメンも、突如現れた追加戦士に沸き立ち、キャアキャアと喜びながらその場で嬉しそうに飛び跳ねた。
意中の彼女からの熱烈なハグを受けて照れくさそうに頭を掻き、他のメンバーからも受け入れられ、彼は嬉しそうだった。しかし、盛り上がる彼らの背後に
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仕事が明けて寮に戻ってくると、死神ちゃんは共用のリビングで夕飯を待った。本日の夕飯は、広報課が企画しているジャージ戦隊番組の作中で食堂のお母さん役のマッコイが披露する料理の試食会を兼ねていた。同居人たちとリビングで待っていると、マッコイが女性陣に手伝ってもらいながら料理を運んできた。メニューはオムハヤシらしいのだが、くまの形をしたご飯が卵の布団を被った可愛らしい造形をしていた。
同居人たちは美味しそうにくまを頬張った。そのうちの一人は恍惚の表情を浮かべると、マッコイを眺めながらポツリと言った。
「俺、寮長なら、抱けるかもしれない……」
死神ちゃんと周りにいた同居人たちは一斉に、口の中のライスを吹き出した。すると、仰天発言をした彼はオムハヤシに視線を落として言葉を続けた。
「だって、料理もこんなに美味しいし。最近、何だか、本物女子よりも輝いているし。だから、寮長ならイケるかもって。指輪のお相手が誰だか知らないけれど、負ける気がしないっていうか」
同居人たちは苦笑いを浮かべながら「まあでも、分かるかも」と肯定してうなずいた。死神ちゃんも苦笑いを浮かべ、手を滑らせてコップをひっくり返した。
「あらやだ、
マッコイに促され、死神ちゃんは立ち上がった。マッコイは不思議そうに首を傾げた。
「なあに、笑って。どうしたのよ?」
死神ちゃんは「別に」と答えると、慌ててリビングをあとにしたのだった。
――――なお、お古のジャージは全部で七色あるという。さらなる追加戦士が出てきて、新たに波乱が起きる予感がするのDEATH。