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指導と日常4

「プラタ」
「如何なさいましたか?」

 椅子に腰掛けながら考え事をしている間も、プラタはボクの後ろに控えている。なので、呼びかければ即座に反応があった。

「誰かを教育するというのはどうだろうか?」
「と、仰られますと?」

 思いつきをそのまま口にしただけだったので、説明を省きすぎてプラタが疑問を述べる。
 プラタのその疑問に、ボクはとりあえず今考えた事を自分でも纏めるようにしながら説明をしていく。
 一通り説明を終えると、プラタは暫く考えて答える。

「よろしいのではないでしょうか。誰かに指導するというのはまた違った視点で己を見る必要がありますので、良い修練にもなるかと」
「そうかな?」
「はい。それに復習にもなりますので、それはそれで新たな発見をする可能性も御座います」
「なるほどね。じゃあそうしようかな。でも、それにはまず教える相手を探さないといけないね」
「そうで御座いますね・・・でしたら手始めに、タシに指導されてはどうでしょうか?」
「タシに?」

 腕を組んで考えながら聞いていたプラタの提案に、顔だけではなく腰を捻って上半身ごとプラタの方に向ける。確かにタシは成長しているので、教えることは出来そうだが。

「はい。タシは魔物ですので、人よりも容易に魔法が扱えます。実際飛行時には気流を操る魔法を幾つか併用しているようですし、それでしたら他の魔法の指導も行ってみてはいかがでしょうか? 本格的な指導はご主人様も初めてでしょうから、最初は指導しやすい魔物で感覚を掴むと良いかと」
「なるほど。それは確かに」

 ボクが今までやってきた指導は、幾つかの魔法の指導や魔力操作の仕方ばかり。あれはあれで指導ではあったが、結局どれもこれも一時的な指導でしかなかった。
 今回ボクがプラタに提案したのはそんな一時的な指導ではなく、しっかりとした指導を最初から行うというモノだ。こちらの方は指導するというよりも弟子を取ると言った方が近いのかもしれない。
 そんな事を思いながら、もしもボクが誰かに指導するならというのを想像してみる。
 そうすると、確かに難しそうだ。タシは既に魔法を扱えているので、初歩も初歩である魔力の存在や扱い方などの基本を教える必要はないだろう。それだけでも凄く楽になるのが想像でもよく解るというもの。
 それにタシが使用出来る魔法はそこそこ難しい魔法なので、他の系統について説明すれば、魔法の創造の仕方を細かく教えなくても直ぐに出来るようになるだろう。
 しかし、それではこちらの修練にはなりそうもない。とはいえ、戦力の上昇にはつながるが。それでもまぁ、確かにプラタが言うように指導はしやすそうだな。
 それとタシはボクから離れたがらないので、丁度いいという部分もある。それにタシは身内のようなものなので、技術指導程度も探りながら出来そうだ。あまり色々指導するものではないだろう。使えない技術も多いし、魔物と人間では適性もまた違っているだろうし。
 そういった部分も考慮して考えると、お試し指導の相手としては丁度いいのかもしれないという結論が出る。

「・・・じゃあ、まずはタシに指導してみようかな。タシも強くなれば戦力になるし」
「はい。それがよろしいかと」

 プラタの言葉に頷いた後、立ち上がって伸びをする。そんなに長く座っていた訳ではないが、筋肉が伸びたような感覚があった。
 椅子から立ち上がった後は、お風呂場に向かう。まずはお風呂ですっきりしてから考えを再開するかな。
 そんな事を考えながら脱衣所に移動すると、さっさと服を脱いでお風呂場に向かった。





 翌朝。
 結局あの後、お風呂上がりに色々考えてみてタシの指導をする事を改めて決めた。その後に魔法道具を少し弄って寝たのだったか。
 まだ回転の鈍い頭で昨夜の事を思い出すと、プラタと朝の挨拶を交わした後にゆっくりと寝台から降りて軽く身体を解す。
 その後に顔を洗ったりと朝の準備をしていき、プラタが用意してくれた朝食を摂る。今日の予定は、早速タシへの指導を行うつもりだ。
 食休みを終えた後、プラタと共に第一訓練部屋に移動する。
 第一訓練部屋に到着後にタシを影から出すと、まずは説明を行って指導を開始した。
 最初にタシの実力を確認する為に一番頑丈な的目掛けて魔法を使用させてみたが、傷一つ付かなかった。流石に頑丈過ぎたようだ。
 次は最初の魔法を参考に一気に的の硬さを下げみると、少し的に傷が付いたのでそれで大体の実力が解り、次の的を用意する。
 今回の的は先程よりも脆い的ではあるが、タシの実力としては丁度いいと思う。まあ脆いと言っても、人間基準では頑丈なのだが。おそらくジャニュ姉さん辺りで浅めの傷が付く程度だと思う。
 そう思いながらタシの魔法行使を眺めた後、的を確認する。
 近寄って目を向けた先では、的が一部折れていた。的が吹き飛ぶほどではないが、それでも十分な威力が在るだろう。これなら外でも生きていけそうだ。もっとも、今の外は難しいだろうが。
 とにかく、タシの実力を把握出来たところで次の訓練を行う。といっても、他属性への魔力変換と魔法行使について徹底的に教えるだけなのだが。


 一旦的を片付けた後、場所を少し移動して修練を開始する。
 まずはタシの魔力の流れについて確認してみる。そういえば、魔物の魔力についてまともに調べるのは初めてかもしれないな。
 魔物というのは魔力で出来ているのだが、こうやって改めて視てみると、ちゃんと体内で魔力が循環しているのが解る。
 魔物は常に周囲から魔力を吸収していると聞くが、それは事実だったようだ。そして、それを体内に取り込むと自身の魔力へと勝手に変換するようだ。
 それは他の種族が体内に魔力を取り込み、その魔力を自身の魔力へと変換するまでの速度と比べて圧倒的なまでに早い。というよりタシの場合は、それが数秒以内には完了しているので、ほとんど自身の魔力への変換に時間を必要としていない。これであれば、しっかりと修練を積めばほぼ無尽蔵に魔力が行使出来そうな気がするな。
 それにしても、やはり魔物は魔力の塊のような存在だからこそなのかな? それともそういう器官が備わっているとか?
 なんにしても興味深い。これの謎が解けて応用出来れば、ボクも一気に強くなれるかもしれない。
 しかし今はタシの修練が先なので、それは一旦横に措く。それはこの修練が終わった後に調べてみるとしよう。
 気を取り直すと、タシの魔力の循環に問題はない。滞っている部分も無く、順調に体内を巡っている。
 次に魔力変換について確認してみる。タシに魔力を練ってもらうと、驚くほど無駄なく魔力が風属性に変換されていく。この辺りも問題なさそうだな。

「・・・・・・ん?」

 そう思って観察していると、途中で魔力変換が止まる。どうしたのかと首を傾げていると、タシの言葉が届く。

「・・・・・・主人、モウ、無理」
「無理?」
「現在が魔力を扱える限界という事かと」
「ああ、なるほど」

 タシの端的な言葉にどういう意味だろうかと首を捻ると、隣からプラタが補足してくれる。タシもその通りだとそれに頷いていたので、そうなのだろう。しかし、限界か・・・思ったよりも大分早かったな。
 とはいえ、そうならタシがまだ弱いのも納得出来る。
 タシの体内の魔力循環は滞りも無く良好だし、身体が魔力で出来ているだけに保有魔力量もかなりのものだ。周囲から魔力を吸収して自身の魔力に変換するのも見事なものだし、魔力変換も特に問題はなかった。だというのに、未だに弱いのはそういう事だったのか。これでは強い魔法や規模の大きな魔法は構築出来そうにないな。

「それの上限が上がる事が魔物の成長という事なのかな?」

 それを踏まえて思いついた事を口にしてみる。他に原因らしい部分も見当たらないし、おそらく間違いないだろう。

「その辺りは魔物に因りますが、タシの場合はそういう認識で問題ないかと」
「そっか。なるほどね」

 という事は、今回ボクがタシに指導しなければならないのは、魔力の制御法という事なのかな? 変換した魔力を留め続けるにはそれだけでは駄目だろうが、それでも重要なのはそれだとボクは思っているので、そこに重点を置くとしよう。

「指導内容はそこを上手くなるようにする事だな」
「はい。それだけで一気に戦力として数えられるようになるかと」

 確認を込めたボクの言葉に、プラタが同意してくれる。タシの下地は十分なので、確かに一回で扱える魔力量を上げるだけでも一気に戦力にはなるだろうな。それだけでは脅威とまではいかないだろうが。
 とにかく、そういう訳で指導を始める。まずは現在タシが変換している魔力を霧散させるところからだな。これも慎重にやらなければ惨事になりかねない。まぁ、第一訓練部屋に居るのはタシ以外だとボクとプラタだけなので、今回は暴発しても問題はないだろうが。
 それはそれとして、タシに変換させた魔力を霧散させるように指示を出す。限界とはいえまだ扱える範囲内なのだから、タシに任せても問題ないはずだ。
 若干の不安を抱きつつもそう思って見守る中、タシはゆっくりと変換して留めていた魔力を散らしていく。
 徐々に減っていく魔力を視ながら、杞憂だったなと安堵したところで、タシが変換して留めていた魔力の塊が暴発した。
 タシが得意な風系統に変換していたという事もあり、周囲に通り抜けるような暴風が巻き起こる。気を抜いても常時結界を展開するようにしているので問題はないが、タシとの距離が近かったからか思わず目を瞑ってしまうほどの衝撃が一瞬襲った。まぁ、その場を動くほどではなかったが。
 プラタの方も問題ないようで、身じろぎ一つしていない。ただ問題は、爆心地であるタシ。自身の魔法ではあるが、操作されていない暴虐の嵐に晒されて、少し吹き飛んでいる。
 大丈夫かと一瞬心配したが、吹き飛んだだけで問題なさそうだ。直ぐに翼をはためかせて床にそっと着地していた。損傷も無さそうだし、仮にあっても軽度であれば魔物は周囲の魔力を取り込んで直ぐに回復するだろう。
 それにしても、一度留めた魔力を霧散させる事も出来ないのか。急かした訳でもないのに、これはちょっと大変そうだな。
 タシの意外な弱点を知って、少し考える。これは最初に知れてよかった。それに、おかげでどう指導すればいいかも分かったからな。今後も誰かを指導する機会があるのかどうかは分からないが、もしもそんな機会があるのであれば、これを活用して最初に得手不得手をはっきりと把握しておかなければならないだろう。
 そんな今後について考えながら、タシを近くに呼ぶ。
 ピョンピョンと軽く跳びはねるようにしながら近づいてきたタシは、数歩先で止まる。
 立ち止まったタシに眼を向けつつ、今後の方針について説明していく。
 方針といっても、魔力操作の技術向上を重点に置いた方法だ。タシは魔物だからか魔力の循環が上手いので、そこまで苦労はしないと思う。そう思っていたのだが。

「ご主人様」
「ん?」

 一通り説明を終えたところでプラタから声を掛けられる。そちらの方に顔を向ければ、プラタが何処か申し訳なさそうに口を開く。

「タシの魔力循環が良好なのは、タシの実力ではなく魔物だからかと」
「ふむ?」
「魔物は魔力で身体を形成していますので、それの維持は勝手に行われるのです。ご主人様の血流のようなものと御考えいただければよろしいかと」
「なるほど」

 つまりは魔物ならばだれでも勝手に良好な魔力循環が出来ると・・・だからタシの魔力制御能力は低いのかな? 普通あれだけ魔力循環が上手ければ、あの程度の魔力制御は簡単だろうからな。

「でもまぁ、やる事は変わらないか」
「はい。もう少し初歩的な部分からというだけかと」

 魔力制御が上手く出来ないのは先程見せてもらったから、結局は魔力操作から始めるしかないという事には変わりはない。ただその始まりの位置がより初歩の段階で、説明の手間がより増しただけの話。
 指導をする目的の一つに今までの復習というのもあるので、これはこれでちょうどいいのだろう。

「初歩的と言っても、魔力を感じるとかからではないよね? 一応魔法は使える訳だし」
「はい。それほどではないかと」

 念のためにそこは訊いておく。ジーニアス魔法学園でいうところの一年生の最初からという訳ではなさそうで安心した。
 それらを確認した後、タシに魔力操作についての指導を始める。
 ただ、これが思いの外面倒だった。通常魔力操作の指導では、自身の魔力循環をさせながら修得させていくのだが、残念ながらタシはその部分が既に勝手に出来ているので、その指導方法は適用出来ない。
 ではどうするかと考えたが、タシは既に多少の魔法行使は出来ているので、それを活用する事にした。
 指導方法は簡単で、魔法行使の前段階の魔力変換。その魔力変換をしないで、手元に魔力を集めさせる。その時点で魔力を開放すれば無属性魔法になるのだが、今はそんな事はしない。
 それを限界一杯ではなく、余裕をもって留めさせる。
 そうした後に改めて視てみると、その段階での魔力の塊は循環が甘い。どうやら魔力を外に出した場合は勝手に循環してくれないようだ。
 後はそのままその魔力の塊を維持しつつ、中の魔力を循環させていく。
 魔物と人間では前提が異なるので色々過程を飛ばしてはいるが、それでもこれが出来ればそのまま規模を大きくすればいいだけなので、もしかしたら近道になる可能性もある。
 それにしても、種族によって特性が異なるというのであれば、指導方法も色々と考えていかないといけないな。
 今まで人間相手にしか指導した経験が無いので、指導方法についてもこれからプラタに相談しながら考えていかなければならない。とはいえ、それは指導相手が現れてからで十分だが。
 先程タシの限界について把握したので、それを踏まえてしっかりと安全を取った規模でやっているという事もあって、危なげなく視ていられる。
 暫くそうして見守ってみた結果、どうやらタシには魔法的な才能はあまり無いようだ。
 それでも魔物だからか、魔力を感じる才能はそこそこあるようで、歩みは遅いが何とか問題なく出来ている。
 タシ本人は必死に集中しているのだろうが、あまりにも地味で第一訓練部屋にはのんびりとした空気が漂っていた。成長が遅いとはいえ危なげないので、ほとんど視ているだけだ。魔力を感じる力がそこそこあるおかげか、魔力操作を誤ったりしないようだし。
 そう思えば、魔力を霧散させるのはそんなに難しいのだろうか? 目の前で修練しているタシの実力をみるに、あそこで失敗するほどの拙さとは思えないのだが・・・無論、魔力制御は甘いのだが。
 何故だろうかと考えながらタシの修練を眺める。時刻は既に昼も半ば。そろそろ一旦休憩を挿んでもいいかもしれないな。
 そう思い、プラタとタシに声を掛ける。二人共食事は不要ではあるが、昼食時はプラタは必ずボクの世話をしてくれるから、そうなるとタシを一人ここに残す事になる。
 タシは離れてもある程度は大丈夫なぐらいには成長したのだが、それでもまだボクが離れると少し不安定になってしまうので、集中力を要する魔法の修練中で不安定になるのは避けたいところ。
 そういう訳で二人に声を掛けたところ、直ぐに修練を切り上げる事になった。その為にまずは、タシが魔力循環をさせている魔力を霧散させる事にした。
 元々安全性を考慮してあまり大きな魔力の塊にはさせていないので、慎重に魔力を霧散させるも直ぐに終わる。そう思っていたのだが。

「んー? 慎重すぎない?」

 前回同様に慎重に慎重にと魔力を霧散させているのか、魔力の減りがかなり遅い。もしかしたら前回の失敗で必要以上に慎重になっているのだろうか?
 そう思ったものの、タシは魔力を霧散させるのに集中しているようなので、気を散らせても悪いと思い黙って見守る。
 これが終われば昼食前にその辺りの事を話しておいた方がいいな。そう思っていると。

「またか」

 またもや途中で失敗して魔力の塊が周囲に襲い掛かる。幸いあまり大きな塊ではなかったので、今回も被害は無い。今度はタシも飛ばされるような事はなかった。
 無属性の塊だったのもよかったのだろう。あれは単に周囲に勢いよく魔力を行き渡らせるだけなので、風の魔力に比べて同量でも威力は低い。
 今し方タシが暴発させた魔力の塊は、大体大人の男性が緩くこぶしを握ったぐらいの大きさ。そしてその結果としては、少し離れたところに居たボクのところまでそよ風よりやや強い風が吹いただけなので、前髪が僅かに揺れた程度。
 しかしこれが風属性の魔力の塊だった場合、同じ大きさでもボクのところに強風が吹いた事だろう。一瞬だろうと、子どもであれば飛ばされて転んでもおかしくないぐらいの風が。
 それにしても、戦闘中に準備した魔力を霧散させるなんて事はそうそうしないので、問題ないと言えば問題ないのかもしれないが、それでも、もしも用意した魔力が不要になったり、使用した魔法を消そうとした場合には必要になってくるので、これも覚えさせたいところ。それにこれも魔力制御の一つだしな。

「どうやらタシは、魔力を取り出し纏めるのはそこそこ出来るようですが、それを散らしていくのは不得手としているようですね」
「みたいだね。だから最初の時も失敗したのかな? でも、一応少しは出来ているのだから、全く出来ない訳ではないんだよな」
「はい」

 プラタの言葉に頷きつつ、タシが魔力を霧散させる時の様子を思い出す。
 先程の含めて、タシには自身で創った魔力の塊を二回霧散させてみたが、その両方ともに失敗した。だが、魔力の霧散を始めて直ぐに失敗した訳ではなく、最初はゆっくりとだが上手くいっていたのだ。であれば、それをそのまま最後まで継続させれば、霧散させる速度は遅くはあるが、一応出来るようにはなるはずだ。それにそこまで行けば、多分普通に魔力の霧散が出来るようになっているはず。
 とはいえ、魔力の霧散なんてコツを掴めば簡単に行えるので、こちらに関してはそこまで悲観するほどでもないだろう。
 失敗した事でしゅんとしているタシを呼び、その辺りについて尋ねてみた。そうすると、どうもタシは魔力を抜き取るという作業が苦手らしい。
 魔力を霧散させるというのは、基本は内部の魔力を小分けして外に出す事なのだが、その際に魔力の内外の境界を開けなければならない。この辺りはそれぞれのやり方があるだろうが、タシは基本的な穴開けで魔力を外に出す方法を採っているようだ。
 穴開けとは、内外を隔てる境界に小分けした魔力を通す時だけ穴を開けることをいうのだが、タシはそれを開けすぎてしまうらしい。最初の方は集中しているから何とかなるのだが、どうやら集中力が続かないようだ。
 その開けすぎた穴から一気に魔力が外に出てしまい、それにより境界が崩壊。盛大に暴発という流れらしい。
 問題は集中力だが、それか集中力が切れる前に魔力を霧散させる必要があるだろう。集中しなくとも魔力を霧散出来るようになるにはあまりにも遠すぎる。
 とりあえず問題が解ったところで、昼食にするべく部屋に戻る。タシは影の中に戻った。

「それにしても、これが難しいのか・・・」

 タシが影の中に戻った後、部屋へと戻る最中に手元に先程タシが失敗したぐらいの大きさの魔力の塊を発現させて、それを一瞬で霧散させる。この程度であれば、ボクはジーニアス魔法学園に入学する前から出来ていたのだが。

「ご主人様は特別ですから」

 そんな事を呟くと、隣からプラタの声が届く。それは誇らしげな声音と困った声音が混ざったような声だった。

「そんな事はないと思うが」

 そう否定してみるが、特別といえば特別だったのだろう。なにせ兄さんの身体を借りていた訳だし、兄さんの知識も多少持ち合わせていたのだから。これで特別ではないといっても説得力に欠けるな。
 内心で苦笑しつつ、肩を竦めてみる。

「率直に申し上げまして、タシに魔法の才能はありません。それでも魔物であるので一般的な水準よりは上でしょう。そんなタシであれなのです。それを労せず出来たというのであれば、ご主人様は才能に恵まれていたという事かと」
「・・・ふむ。そうなのか」

 自分ではよく分からないが、プラタは嘘をついてはいないだろう。であれば、そうなのだろう。
 しかし、ボクに魔法の才能がね。まぁ、仮にあったとしても秀才止まりだろうけれど。
 とりあえずその話は横に措こう。今大事なのはタシについてだ。
 しかし、そうか。タシには魔法の才能が無いのか。それでも魔力で身体が構成されている魔物だから並み以上の才を発揮出来るだけで・・・それで十分じゃないだろうか? 並み以上の才能が有るのであれば、それはボク同様に秀才という事になりそうな気がする。
 一応、今後の修練の方法は見直すとしても、そこまで悲観的になる必要はなさそうだな。予定よりも時間が掛かるというだけのようだし。
 そう思い直したところで部屋に到着する。
 自室に入ると、椅子に腰掛ける。プラタは直ぐに昼食を取りに向かった。
 程なくして、昼食を手にしたプラタが戻ってくる。どうやら今日は串焼きのようで、ツルツルとした陶器製の奇麗な皿の上に串焼きが六本積み重ねるようにして置かれている。
 それを一つ手に取り観察する。プラタが持ってきた串焼きは全て見た目が異なるが、今手にした串焼きは肉だけを串に刺して、何か液体を塗って焼いた物。その串焼きの香ばしい匂いが鼻孔をくすぐり、空腹を刺激する。
 思わず口の中に出てきた唾を飲み込み、香ばしい匂いをさせているその肉にかぶりつく。
 噛みついた瞬間、口の中にじゅわりと溢れてくる肉汁。その肉汁はさらりとしていて仄かに甘く、幾らでも食べられそうな軽さがあった。
 そこに肉に塗った塩気の強い何かが合わさる。濃いめの味のそれと柔らかな肉汁が混ざり合い、程よい濃さとなって舌全体を覆う。
 何だかパンかご飯が欲しいなと思うと、同意するようにぐぅと小さくお腹が鳴った。食べているのにお腹が減る。何とも奇妙な体験だ。
 ボクはあまり多くは食べないので、プラタが持ってきた串焼きはどれも串の長さが短く、その分だけ量が少ない。それでも普段であれば、何とか食べられそうというぐらいの量なのだが、何となく今日はもう少し入りそうな予感がした。まあこの後も修練なので、ほどほどに空きがある方が都合がいいのだが。
 最初の肉の串焼きを食べ終えると、今度は逆に野菜のみの串焼きを手に取る。
 辛味のある野菜や、優しい甘さの野菜。葉物野菜も丸めて刺しているようで、串焼きだというのに色鮮やかだ。それでいて表面に焦げた部分があるので、焼いたというのは解った。
 観察した後に食べてみると、辛味や甘味や苦味と肉では味わえない様々な味わいを堪能する。どうやら野菜は焼くと甘みが増すようで、どれも噛んでいるといつも以上に甘さが感じられた。
 次に手にしたのは、海鮮の串焼き。海直通の湖から持ってきたものらしく、魚の切り身や貝など多彩だ。食べるとプリッとした弾力が楽しく、また味も肉と違って淡白ながらも旨みと甘みがあって美味しい。
 その次は肉と野菜を交互に刺した串焼き。臭くないさらりとした肉の脂と野菜の甘みのある苦味を交互に味わう事で飽きのこない演出をしてくれる。歯ごたえも異なっているので、食感としても飽きがこない。
 四本目は何だかよくわからない物だった。いや、おそらくは肉なのだろう。肉を潰して混ぜて串の形に合わせて固めたのだと思う。
 灰色で串に纏わりつくようにして形を整えられた細長いそれ。表面は何か半透明な茶色い液体を塗られ、ところどころ焦げていい匂いを放っている。
 食べてみると、やはり肉を潰して成形したもののようだ。ただ中に野菜と魚介類を細かく刻んで混ぜ込んでいるようで、肉の旨みの中に様々な食感や味が重なっている。
 それは中々に美味であった。味自体ははっきりとしていて、ボクの好みであったのも大きい。これは子どもに受けそうではあるな。
 その次は軸を切り落とした茸を串に並べて刺して、塩を振って焼いた物。単純な調理だが、茸の旨みが存分に出ていて美味しかった。
 最後は何と串に刺さった果実だった。表面が少し焦げているところを見るに、これも焼いたのだろう。
 どんな味だろうと思いながら口にすると、まずは表面の焦げの苦味を感じるも、直ぐに果実の甘さを感じる。驚いた事に、焼いた果実も甘さが増すのか、かなり甘かった。
 そうして六本の串を食べ終えると、お腹がいっぱいになる。
 胃はパンパンなのだが、まだ少しは食べられそうな気がしてくるのだから不思議なものだ。まあ食べないのだが。
 プラタが皿を下げる為に転移したところで、ふぅと満足した息を吐き出す。
 以前から料理は豪勢で美味しかったが、最近は更に磨きがかかったような気がする。たまに微妙な料理も混ざってはいるが、それはそれで面白い。少なくとも食べられない料理は最近出ていない。
 戻ってきたプラタが食後のお茶を用意してくれたので、それを飲みながら食休みを挿む。せっかくの休憩時間なので、プラタにタシの指導方法について相談するとしようかな。
 とはいえ、そこまで大きく変えるつもりもないのだが。要はもう少し長い目で見るように指導していけばいいだけなのだから。後はある程度完成して戦力になるまで死の支配者が動かない事を祈るとしよう。
 特にこれといった区切りを付けずに指導してみたが、出来る事などそう多くは無いものだな。初日から色々学ばされるものだ。

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