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06.学園案内

 私立七宝学園はクレイユ王国の東端に位置していた。
学園に近づけば近づく程生徒の証である指輪を身に付けた人達で、賑わいの様相を呈していた。
怜央とコバートもそのうちの一人となって学園まで辿り着いた。

「ここが正門」

 コバートが到着を告げた建物は、モルタルの民家と違って石造であった。
都市にあって広大な敷地面積を有する学園は、正門から全体を見渡すことは叶わない。
細部に渡って精巧な彫刻を施された外壁はそれだけで文化財に匹敵する。

「これまたでっかいなあ。しかもめっちゃお金かかってそう」

 昨今私立大の経営が危ういと前世で話題になっていたが、ここは例外のようだと確信する怜央。

「そうさなー、羽振りがいいってのはあるわな。んで、どこから見たい?」
「んー……。どこかお勧めってあったりする?」
「あん? お勧めって言われてもな……。じゃあ図書館でも行ってみるか? 本好きそうだし」
「おっ、いいねー。異世界の図書館がどんなもんか、興味あるわ」
「じゃあ決まりだ。少し歩くぞ」

 目的地の定まった2人は学園の建物の中へと入っていった。


◆◇◆


 学園の敷地にはいくつもの建物が立っており、1つに繋がってはいない。
図書館もその1つ。
図書館は単体の建物として、学園の正面から見て真中やや東の位置にあった。

 コバートと怜央は入口の盗難防止ゲートを通って中へと入る。
外装こそ西洋風であったものの、内装に関しては日本にもありそうな、近代的でやや品のある図書館というところ。

大きめの机が幾つも並び、それを囲むよう配置された本棚には所狭しと本が並ぶ。
この日の学園は休みだが、休日でも一般開放されている図書館には資料作りや捜し物、或いはやることの無い暇人らがそこそこ居た。

「ここの図書館パッと見で何冊ぐらいの本があると思う?」

 コバートは唐突にクイズを始めた。
怜央は一瞬考えて、やや適当に答える。

「……1万とか?」
「残念! 全部で10万だ」
「へー、なかなか多いんだな」

 怜央が感心しているとコバートは水を刺すようなことを言う。

「いんや、10万程度じゃ図書館としては少ない方なんだ。勿論その基準は国や世界によって違うがーーここのすごい所は毎日本が変わるんだ」
「10万全部か?」
「その通り! 異世界中のありとあらゆる本が日替わりで読めるんだぜ! 凄くねーか?」
「そりゃ凄いけど」
「けど?」

 浮かない顔をした怜央にコバートが突っ込む。

「毎日調べ物してる人からしたら変わると困らないか? それに目当ての本が10万冊の中に無いかも知れないし」

 コバートは怜央の指摘を受けてなお、得意げに解説する。

「ふっふっふ。その点心配要らないのだよ、怜央くん。俺も詳しくは知らないがその日の来館者が求めている本が用意されるようなシステムになっているらしい。それに長期で1冊の本読みたいなら借りればいいだけだしな。問題はないってことよ!」
「なるほどね。俺が考える程度のことは対策されてるか」
「おうよ!怜央もまだまだってことさ」

 図に乗るコバートを無視し辺りに視線を巡らした怜央は気になる一角を見つけた。

「あいつ滅茶苦茶本読んでるな」

 怜央の視線の先には乱雑に置かれた本の山で机が埋まっている所があった。
その読者は本の山から頭だけ見えており、顔は見えないが夢中で本を読んでいることだけはわかった。
それを見たコバートはその人物のことを知っているようだった。

「ああ、あいつな。俺が図書館来る時はいつもいるぜ。相当な変わり者なんだろうがまあーー世界は広いしな。あんなやつの1人や2人いてもおかしくはねーさ」
「……そうかもな」

 この時、怜央は何故だか無性にその人物が気になった。
しかし簡単な説明をし終わったコバートにとって、ここは用済みらしく次の場所へと促される。

「さて、次は食堂に行こうぜ」

 怜央は本の山の主を一瞥し踏ん切りを付けると、コバートに促されるまま次へと向かった。


◆◇◆


 食堂は学園正面から見て北側にあった。
建物は二階建てで、地下には生協の雑貨店が、1階にはフリーのラウンジが、2階にお目当ての食堂があった。
階段を登って食堂に着くと、まず目に入るのは当日のメニュー。
これも日替わりのようで怜央の見たことの無い料理が幾つも展示されていた。

少し奥へ進むと、その場で食べるようにと沢山の机と椅子が置かれている。
注文するためのカウンターはシャッターが閉じており、休日の営業はしていないことがわかる。

「ここの食堂は安くて美味い。だから飯時になるとこの机全てが生徒で埋まるんだ。――ま、休日やってないのが玉に瑕だがな」
「なるほど。ちなみに、ここの料理でお勧めってあるか?」
「そうさなー。メニューのほとんどは日替わりなもんで運にもよるんだが、俺が食べた中ではカレーってやつが美味かったぜ!」
「あー。カレーね。大体皆好きだよね」

 怜央がカレーを知っている事に、コバートは『意外だ』と表情に顕れる。

「なんだ、食ったことあるのか?」
「俺の居た国では結構ポピュラーな食べ物だったよ」
「そうなのか……。俺も最初、色がやべぇと思ったんだがな。匂いに誘われてつい頼んじまってよ。まあ結局、その選択は正しかったわけだが」
「カレーは不味く作る方が難しいからな。世の中には嫌いって人もいるかもしれないけど、かなり少数派だと思う」
「それなんとなく分かる気がするわ。作ったことないけど!」

 コバートは笑いながらカウンター近くに行くと、白い小さな投票箱のようなものを掲げた。

「これに食いたいもん書いた紙入れると運が良ければ数日後のメニューに乗るらしいぜ。俺のはまだ当たったことはないけどな。とりあえず怜央も何か書いてくか?」

 コバートは有無を言わさず記入用紙とペンを怜央に渡すと、コバート自身は何か書いている。
怜央はなんとなく、カレーの話からカツカレーと書いて投票した。
その後、お互いのメニューが選ばれるといいなと話し合いつつ、次の建物へと向かった。


◇◆◇


 怜央達は来たのは学園南東にある講義棟。
その中の講義室は似たような造りの部屋が、3階に渡って幾つもある。

ここの建物は基本的に、座学中心の講義専用の部屋である。
そのため講義室の前方に、上下に動かせる大きな黒板が1つあり、それを囲むよう放射状に席が設けられているだけだ。
受講者の視界を確保するためか、手前の席ほど床が低く、奥の席ほど高くなっていた。

「ここが講義室だ。授業の時は好きな所に座っていいらしい」

 コバートはどこからか仕入れた情報を怜央に伝える。
その情報に、高校までとの違いを感じた怜央はやや感心した。

「へぇー。高校と違って自由な感じだね」
「高校? ってのはよくわからんが、ある種自由ではあると思うぜ。先輩から聞いた話だと、真面目なやつは前に座って真剣に講義を受ける。テキトーなやつは後ろに座って遊んでるらしい。つまりそれも、自由だからってことじゃねーか?」
「……流石に学校来て遊ぶやつなんていないだろ」
「いやばかっ、それが結構いるらしいんだぜ!?」

 怜央は俄には信じられないという様子で相槌をしながらも半分聞き流した。
講義室には大して見どころも無く、面白いものもないため早々に次へと移動した2人。

その後は学生センターや保健室、体育館、教授棟に研究棟などを回り、学園中央からやや南にある噴水近くで休憩を挟んだ。
 2人はベンチに腰掛けながら水の流れに目をやった。
贅沢に流れるその清水は学園の力を誇示しているかのようであった。

「なんだかんだ、学校の中歩き回るだけでも時間かかったな。あと1箇所回りたいところもあるんだが……明日にした方がいいよなぁ」

 コバートは一人、何かを迷っているようだった。

「あと1箇所ってことは最後だろ? ならさっさと見ちゃえば良くないか?」
「んー。いや、全員が集まってた方が都合がいいんだ。ツン子とテミス嬢も呼んでな」
「そんな必要があるのか?」
「あるある! 実は今日、俺達が回った所は学園チュートリアルで足を運べと指定されているところがほとんどだったんだ。配られたスマホ持ってそれらを巡ると自動的にカウントされてな。すべての課題をクリアすると入学祝い金ならぬ、報酬が貰えることになってんだ。10万ペグ」
「10万! それは大きいな」
「だろ? ただ――一つだけ異質な課題があってな。それが、冒険センターで依頼の受注、達成ってやつなんだ」
「冒険センター?」
「ああ。要は冒険者の真似事さ。この学園の趣旨は異世界に通用する人材の育成ってのが目的らしいじゃん? 冒険者としてのスキルは万に通じるんだと。そんなこんなで学生のほとんどは冒険者として活躍してるってわけさ」
「へぇー。でも危ないんじゃの?」
「勿論危険は付き物さ。でもな、報酬はべらぼうに良いんだよ! 学生には十分すぎるほどの報酬が設定されててさ。週に1回依頼をこなすだけでもそこそこの暮らしが出来るほどさ」
「強制参加……ってわけじゃないのか」
「ああ、中にはやらないやつもいるらしいが少数派だぜ」
「ふーん……面白そうではあるな」

 コバートは突然立ち上がり、少し嬉しそうに顔を綻ばせた。

「だろ!? 怜央ならそう言うと思ったぜ! それだったら明日、早速皆で行こうぜ!」
「ああ、そうするか」
「んじゃ、今日は帰ってあいつら誘おうぜ!」
「おう」

 怜央もゆっくりと立ち上がり、その日の散策は切り上げた。

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