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Liar

例の夜は終わり、また新しい一日が始まる。
報酬は支払われた。そのうちの3分の1ほどを自分の物とし、確かに普通の仕事よりは稼げる。金を持てば哲学も変わるのか。今までのことは全て忘れるのが正しい決断なのか。
とりあえずは保留することとした。遅かれ早かれ、この学校を卒業すれば行く道はひとつ。殺人を自らの通貨として生きることだ。仮にも契約金を貰い、そういう覚悟を持つために苦労する奴らは多い。
イリイチは珍しく学校に顔を出していた。彼の持つシックスセンスは絶対的だ。それに従えば、問題なんて存在することもないという。
一通り授業を受け終わり、休憩時間に入るとすると、生徒達の中ではまだ混乱は起きてない様子だった。この学校はそもそも必要登校日数が少ない。大半は暇つぶしのために来てると言っても大袈裟ではない。契約金が億を超えるようなエリート達は、テストすらもオールスキップできる。さらに言えば中等部高等部合わせて登校日数0日で卒業する猛者も少なくはない。非情な実力主義。実力の至らないものは、自然的に消えていく運命。
そんな世界の中にも友情というものは存在するのだ。学年3年、LJKなんて言ってるヤツらのなかでも上位層、学年6位と学年20位と学年34位。釣り合いは取れてないかもしれないが、少なくとも彼女たちの中では確かにそれは存在した。喜びも悲しみも分け合って、非情な世界を生き抜いていく。なんとも美しく、そして儚いのだろうか。
儚いものはある日突然として破壊される。彼女たちは心の整理がついたのだろうか。正確には1人心の整理がついた者がいた。
超能力のなかでも詮索に長けた能力はいくつか存在する。相手の意志を掴み取ったり、相手の思考を読み取ったり。
そんな能力のなかでも異質、自分が寝ている時や気絶している時の周りの行動が頭の中で読み込める能力、そんな能力のエキスパートであることは、少なくとも大半の人が知らない事実である。
イリイチはどこか引っ掛かるものがあった。証拠は隠滅したとはいえ、これはれっきとした行方不明事件だ。彼女たちのどちらか1人でも学校に通報しててもおかしくはない。学校側も学年6位が行方不明となれば、血眼になって捜索をするだろう。学年順位1桁を1人でも失うということは学校からしても、途方もない損失なのだ。さらに言えば3年生である以上、もう兵器として運用するプランは必ず立てているはず。尚更異常なのだ。
それに対する答えらしきものは登校してみればすぐに分かるものだった。休憩時間、喫煙所へ向けて歩いていると、見覚えのある顔を見つけた。こちらの出方を伺っているようだった。対策を考える。
1番手っ取り早いのは消してしまうこと。だが、1番非現実的だ。3人中2人が短い日数で行方不明。学校側も気づいて監査し始めるだろう。俺はバレやしないだろうが、問題は協力者がいること。尋問、果てには拷問に耐えられるような訓練はしてない。おもらししてバレてしまえば、()()刑務所送りだ。死刑になるのはゴメンだ。
こうなれば仕方ない。どこまで気づいているかだけ監査して、全てを知っているようなら、その時はその時だ。
そんなことを考えていたら、袖を掴まれ、無人の教室に連れ込まれてしまった。
「なにか御用ですか?先輩?」
「とぼけてんじゃねぇ!昨日の夜のことは全部知ってんだからな。」
言葉の一つ一つに大きな力が入っている。間違いなく全てを知ってる。
「なんだよ、知ってんのかよ…」
対照的に面倒くさそうな口調で力なく吐き捨てる。
吐き捨てる寸前になって、攻撃を避ける。難なく避けた攻撃は、着弾することもなく、再びこちらに向かってきた。
こちらの身体能力は人並みだ。できる限り無駄なく避け続ける。それが陽動であることも理解しながら。
「やめとけって。学校を吹き飛ばす気ですか?」
一応警告を入れておくが、どうもこちらの声が聞こえないようだ。本当に学校が消し飛ぶ勢いでチャージをし続ける。
それが放たれた瞬間に、また未知の能力が花開いたのだった。
「未知の能力全開だな…」
シックスセンスというものは言葉では説明しにくいが、自分の周りに見えない防御用の壁を貼ってあるようなものだ。普段は察知と言う点で優位に立てるが、今回みたいに防御をしたのは初めてだった。この前殴られた時に、どうも能力のバランスが崩れたようだ。
そして防御できるという確信を持っていたから、回避はしなかった。
「だからやめとけって言ったのに…」
全気力を使い果たし、相手は倒れた。
「どうせ、これも覚えているのだから教えてやるよ。彼女は失踪した。その犯人は俺は知っている。犯人を知りたいのならば、200万用意しろ。それを持たずに接触するようなら、またこの状態をリプレイすることになると。理解したなら何よりだ。」
名前も知らない相手に対しても平等なのが俺の美学だ。対価のない殺人は決してしない。
「…嘘つき。」
しばらくして目が覚めた彼女は、ただただ虚無を見つめていた。

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