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50億円の価値

イリイチの持つ超能力、通称シックスセンスはチートというのが最もしっくりくる。相手の行動を先読みし、かわして、虚をつかれた敵は次の攻撃を放てないまま、戦闘不能に陥る。回避においても、防衛においても、攻撃においても、シックスセンスを解放すれば無敵である。
2017年4月12日、月に1回のホームルームが始まる。頻繁に入学者と退学者がでるためそれを把握するためと、担任の教師の名前と顔を覚えるのが目的だ。
「入学者を諸君に紹介しよう。」
担任の声とと共に入学者たちは教室の中にはいる。前代未聞の契約金で入学した生徒が
いるのを噂で聞いてる彼らは誰がそのスーパールーキーなのか賭けていた。
「俺の名前はイリイチ。ロシアとモンゴルの国境、トゥヴァと呼ばれる地域で生まれた。一応ロシア人だ。」
スーパールーキーは誰なのか。その疑問に答えるように特異な出身を持つ男は自己紹介をする。創成学園は日本の高校だ。そんな日本の高校に、わざわざ大陸からスカウトしてくるのは並のことではない。確かに外国人が交換留学という形でここに来るのは稀に見るが、それはあくまで留学。その国で何かしらの学校には属しているはずなのだ。日本人ではなく、交換留学でもなく、じゃあ彼は一体何者なのか。その問いに対する答えが出るのはそう遠くなかった。
スーパールーキー。その正体は彼。イリイチである。
その確信を持った他の生徒はそこまで多くはなかった。というのも、頭の中ではわかっていても、理解が追いつかないのだ。
イリイチは理解が追いつき、冷静さを取り戻したであろう少年に近づいた。
「なぜ、こんな奴がスーパールーキーなんだとお前は呟く。それは秘密だと俺は答えるだろう。」
相手が呟くであろう内容を先読みし、さきに答えになってない答えを出す。相手を混乱させ、冷静さを失わさせる。この場でそれをする必要は全くないのだが、日頃の習慣に従いシックスセンスで予知をする。
「驚いたな…貴方の能力は未来予知かなにかか?そいつは素敵だな。とても素敵だ。」
本当に言う筈だったことを読まれ、次のワードを絞り出す。未来予知という能力は聞いたことがないが、常識が通用しない相手ではあるのは想像がついた。
「素敵か。そうだな素敵な能力だ。素敵すぎて嫌になるぐらいだ。」
微妙に皮肉を込めて返す。シックスセンスは発動している間は常時少し先の未来が見える。それで落胆したこともいくらかあった。
「嫌になっちまうのか、だったら俺が欲しいと言うだろうな」
「あぁ、その通り。次にお前はそう言う予定だった。」
超能力。それは人間の哲学を大きくこえた超次元な力。人間が強くなれば強くなるほどより、哲学を上回っていく。それは、エリートとして将来を約束されている彼らも例外ではない。
「どうやら、俺たちは友だちである方が良さそうだ。」
「あぁ、その通り。そう言おうとした所だ。」
「よろしく」
「よろしく」
「ロシアの友人を歓迎する」
「日本の友人を歓迎しよう」

「日本人の友人たち」は、かなり利口な奴らだった。この学校に属して1週間程経つが、特に絡まれることも無く、日々俺の持つ力「シックスセンス」の研究のために、様々な兵器を破壊しつくしている。この学校の奴らが使えるような超能力を俺は一切使えないが、それでも難なく攻略できるようなガラクタばかりだった。
「この頭に付けたVRみたいなやつ、もう外していいっすか。」
超能力を学ぶ学校にいる以上、最低限の超能力ぐらいは使えるようになりたいものだが、中々超能力を学ぶ時間を用意してくれない、残念な気持ちだ。
「よし、わかった。もう今日のところは終わりにしよう。」
時刻は6時を回っていた。朝の九時から始まった研究は休憩1時間を含む9時間にも及んだ。
疲れ知らずといえばそうかもしれないが、シックスセンスを解放している間はそこまで疲れがない。ただ長い時間使っていると、後にかなりの疲労が出てくるだけだ。
「それにしても、シックスセンスを研究して一体何をしようってんです。世界征服でもするんですか。」
「世界征服?そんな俗な野望はないさ。未知の能力がでた。だからそれを研究し尽くす。それが役に立つのかは次の世代が決めることさ。」
研究者にとってこの能力は研究し尽くすに値するものであり、それでいて今の世代のうちでは研究はできても、利用はできない。それほどまでに空前絶後の未知の力ということなのか。
結局のところ、生まれた時から持っている力である以上、この能力を授かったのは神の恩恵かなにかかもしれない。少なくとも個人の才能として片付けるには少々強力すぎる側面がある。
物事というものはどこか引き寄せられておこることである。このシックスセンスは攻撃に使った回数より防衛に使ったことのが遥かに多い。その証拠という訳ではないが、半径1km以内に敵性意志を持った人間の意思を感じ取れる。ある程度思念すればより正確な位置も測り取れる。
「ハンドガンも持ってねぇのにどうしろってんだ。あと3秒以内に第一発射があるって言うのに。」
シックスセンスは決して嘘をつかない。この力に従えば、狙撃回避は非常に容易な行為だ。
「ファイア!なんつって。」
物の見事に自分の立ち位置1mに弾が着弾する。避けるのは本当に容易だ。
「タイミングがいいな…」
日本人の友人たちがやってくる。銃弾がないならこいつらを銃弾にしてしまえばいい。
「イリイチ、お前何やってr…」
かなりギリギリのズレで眉間直撃クリティカルショットを免れる。一応学校である以上流血沙汰はご勘弁してほしいものだ。
「話はあとだ。俺が撃てと言うからその瞬間に遠距離攻撃のなにか超能力をこっちにむかってぶっぱなせ。」
「遠距離って…当たるのかよ。」
「当たらせてやるさ。発射準備しとけ。」
超能力とひとえに言ってもピンからキリまで様々だ。遠距離攻撃はないとは思えなかった。
「発射まで3、2、1、撃て」
激しい閃光とともに青と黒で構成された光線が放たれる。命中を確認するまでに時間は必要なかった。
「2枚ターゲットダウン。敵性無力化。やるな。大智」
「遠距離攻撃を命中させたのは初めてだ。実感がわかねぇな。ある方がおかしいか。」
危機的な状況とはいえ、即座に対応して遠距離攻撃を放てる。やはり超能力者は伊達じゃないな。
「ところで、日本って国は銃規制が進んでいてスナイパーライフルなんてとてもじゃないが持てないと思っていたが、俺の認識が間違ってんのか?」
「間違ってないさ。全く持ってな。これは異常事態だ。だが、日常でもある。」
「この学校、創成学園は言ってしまえば学園そのものが治外法権だ。日本にて単純所持が禁じられてる銃は、この学校とその周辺に限り、所持、使用は半ば黙認されている。生徒が護衛のためにハンドガンを持ち歩くことは頻繁に見られる異常行為なのさ。」
常時戦闘状態。日本社会から隔離されているようにあるこの学校は、通常の警察の力が及ばないことが多々ある。生徒も教員も清掃員も全員武装状態。どこかのライフル協会が宣伝に使いそうだ。
「自己責任って訳だ。契約金で護衛でも雇うか。」
不労所得は不労のために貰うものなのかと認識を変えつつ、家路まで2人の少年はたどり着くのだった。

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