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25話 2人の夜

 食事も食べて、2人共シャワーを浴び終わって、今は私室でまったりタイプだ。
別段、何をしているというわけでもない。
別に、何かを話しているわけでもない。

 涼はベッドにうつ伏せに寝て、自分の好きな小説を読んでいる。
愛理沙は小さなテーブルの上に紅茶を持ってきて、静かに紅茶を飲んでいる。

 いつも寝る前は、このような感じで、それぞれにまったりした時間を過ごしていた。

 愛理沙は近くに涼がいれば安心するし、涼も近くに愛理沙がいれば安心する。
こういう時間とこういう心の距離感が2人は大好きなのだ。

 愛理沙が髪を束ねていたバスタオルを外して、丁寧にバスタオルで押えるようにロングストレートの黒髪から水分を拭っていく。

 部屋中に愛理沙の石鹸とシャワーの香りが漂う。
思わず涼は愛理沙へ視線を集中させる。
白色のパジャマがすごく似合っている。


「どうしたの? 何を見てるの?」

「―――愛理沙を見てる。愛理沙から石鹸とシャンプーの良い香りがする……・濡れ髪の美少女というのもいいなって思う」

「アウウウ……そんな風に見られると恥ずかしくて……髪を乾かせないよ……涼は本を読んでいて……」

「今は愛理沙を見ていたい」

「アウウ……照れちゃうよ……」


 項まで真っ赤にして、恥ずかしそうにしながら、愛理沙は涼から顔を背けて、バスタオルで黒髪を拭っていく。
バスタオルで濡れた髪を拭った後は、ドライヤーで丁寧に乾かしていく。

 すると石鹸とシャンプーの香りが、濃く部屋中に充満する。
 涼が一人で暮らしていた時は、汚れていた部屋も、愛理沙が来てから良い香りがするようになった。

 それだけでも、変わったなと涼は思う。愛理沙が部屋に来てから全てが変わっていく。その変化が涼には好ましい。

 気が付けば、目で愛理沙の姿を追ってしまうので、読書をして愛理沙から意識を逸らせている。じっと見られたら、愛理沙も恥ずかしいだろう。

 涼は小さなテーブルに手を伸ばして、愛理沙が淹れてくれた紅茶を一口飲む。

 涼の私室にはテレビもPCもゲーム機も置いてあるが、愛理沙がアパートへ来てから、あまり電源を入れたことがない。

 それは愛理沙があまりテレビを見ないこともあり、PCやゲームをしないこともある。愛理沙は暇な時間があると、何かを探すタイプではない。
暇な時間を暇な時間として楽しむタイプだ。
そういう生き方がとても良いと思う。

 涼も暇な時間があっても、何かをしなければと探し回るタイプではない。
そういう意味では似た者同士かもしれない。

 いつも夕暮れ時から夜になるまでの間は公園に立ち寄っているので、涼達の食事は比較的に遅い時間となる。
それから互いに交代してお風呂に入り、過ごしていると、すぐに時間は夜の23時になっている。

 愛理沙は髪を乾かし終わると、立ち上がってダイニングへ行く。洗濯機の横に置いてある洗濯カゴへバスタオルを入れて戻ってくると、涼の机に座って、明日、学校へ行く準備を始める。


「涼……明日は木曜日だよ……どうして金曜日の時間割の教科書が入ってるの?」

「あ…曜日を間違えた……」


 そういえば、最近、よく学校の時間割を間違えていることがある。


「気が付いたんだけど……涼ってあんまり曜日感覚がキッチリしてないよね……この前も曜日を間違えて学校へ行く準備をしてたよ」


 愛理沙がアパートに来るまでは、そんなミスをしたことはなかった。完璧だったと言ってもいい。
夜になると愛理沙の美しさと可愛さ全開に目を奪われて、最近、頭が回っていない自覚はある。


「涼……ノートを入れたら筆箱をいれないとダメだよ……初歩的なミスね……涼は私がいないとダメね」


 そう言って、愛理沙は嬉しそうに涼の鞄の中を確かめて、きちんと授業の用意を入れてくれる。
その愛理沙の笑顔はとても幸せそうだ。
こんなことなら、授業の時間割ぐらい間違ってもいいだろうと思ってしまうから怖い。
このままだと本当に愛理沙がいないと何もできないダメな子になってしまいそうだ。


「おかしいな……愛理沙がアパートに来るまで、準備は完ぺきだったんだけどな……授業の用意をしている時も愛理沙に見惚れているから、間違ってしまうのかもしれないね」

「……アウ……また、そんなことを言う……私を恥ずかしがらせて、涼は楽しいの?」

「事実を言ってるだけだし……愛理沙が照れて恥ずかしがっている姿はすごくかわいいよ」

「アウウウウ……もう涼とは話しません……」


 愛理沙は机に向かって涼から顔が見えないようにする。しかし項まで真っ赤になっている。とうとう愛理沙を拗ねさせてしまった。

「ごめんよ…あまりに愛理沙がきれいで可愛いから、構ってしまうんだよ」


 愛理沙は涼の机に向かったまま、自分の時間割の準備を続けている。


「涼って……学校ではそんなこと一切言わないし……心に壁を張っているタイプだったのに……どうして私にだけそういうことを言うの……最近の涼は2人だけの時、オープンすぎだと思う……」

「そうだね……愛理沙には心をオープンにしてるだと思う……愛理沙のことを信頼しているからね」

「―――もう…知らない」


 学校の準備が終わった愛理沙は席から立ちあがて、顔を赤らめたまま部屋の端まで歩いていくと、部屋の電源をOFFにする。部屋の中に暗闇が広がる。

 そして布団の中に入って、布団を目の下まで被って、目だけを出して涼を見つめている。その仕草がとても可愛い。

 涼はベッドに寝たまま、しばらくの間、愛理沙の瞳を見つめ続ける。
愛理沙は何かを言いたそうだ。


「あのね……また嫌な夢を見るのが怖いの……涼……お布団へきて……」


 愛理沙は悪夢は今でも続いている。しかし涼が添い寝をすると、なぜか悪夢が消えてしまうという。

 最近では、涼はベッドで寝ていることが少なく、ほとんど布団で愛理沙と一緒に寝ている。こんな甘い暮らしをしていていいんだろうか。段々と自分が愛理沙に染められているような気がする。


「そうだね……愛理沙が悪夢を見ないようにしないとね……配慮がたりなかったね……布団へ行くよ」


 涼は自分のベッドから立ち上がり、愛理沙の布団の中へ潜り込む。
愛理沙はいつもの通り、涼の両手を自分の両手で握って、自分の胸元へ持っていく。


「涼……優しくて大好き……ありがとう」

「俺も愛理沙が大好きだよ」


 2人は額を当てながら、間近で見つめあう。


「――――今日もギュッとしてくれる?」

「うん…いいよ」


 愛理沙が涼の両手を離して、涼の胸の中へと入ってくる。涼はいつものように優しく愛理沙を包み込むように抱きしめた。

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