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第14話 侵入




その頃アーマーとミワンは、深琴とピロの姿が見えないので二人を探していた。




「どこいっちゃったんだろ? 深琴ちゃんたち」




二人を探すミワンは心配の表情であった。




「ったく! 情報は入ったって言うのに」




そこにピロが走って戻って来た。




「アーマー!」




「ピロ! どこ行ってたっちゃ!」




「見つけたんだシーフのアジトと思われる所」




「え! 本当?」




ミワンが驚いたように言うとアーマーも手に入れた情報があるのでそれをみんなに伝えたいと考えていた。




「やっぱりあったったいね!こっちも情報があるから、それと合わせてみるばい、

ところでピロ、琴を見てないや?」




「あいつ俺の後を付いて来たから、今そのアジトを見張らせてる」




それを聞いてアーマーの嫌な勘が働き、表情が変わった。




「まずいばい! まだあいつ等の目的がなんなのか分からない状態で琴を一人で居させるのは! ミワン! 急いでハマたちに伝えてくれ! 俺とピロで先に琴と合流するけん!」




「わかったわ」




ミワンはその場を離れハマたちを呼びに行った。そしてアーマーとピロはそのシーフのアジトと思われる場所に一足先に向かった。




「ピロ! 案内してくれ」




「わかった」




二手に分かれ急ぐ三人。




その頃、ハマたちは新たなクランメンバーを集める為に勧誘をしていた。のぼりを立て、ちょっとした椅子とテーブルを並べ、あと屋根になるものがあったら、まるで新規オープンした屋台のようであった。




「やっぱり~誰も来ませんね~」




「もう大会の受付も最終日で……大体の参加登録は終わっているし……大会参加者たちはもうここにはいないのかもしれないですね~」




ヒロサスの何気ない一言だった。ディープとヒロサスの言葉でハマはその雰囲気にやきもきしたのか、その場を離れていく。




「ん~ちょっと回りの様子を見てくる!」




それから少しすると、その場に二人の男がやって来た。一人は大きくしっかりした身体をしていて戦斧を背中に背負っていた。もう一人も長身のはずだが一緒の大きな男のせいで普通に見えてしまう――長いストレートの髪が印象的だ。そして細い片刃刀を腰に挿している姿だった。その二人がヒロサスとディープの前にくると質問した。




「このクランでメンバー募集をしているなら内容など聞いて入りたいのだが」




と、きりだされ受付にいた二人は顔を見合って同時に喜んだ。




「よかったね~」




思わず抱擁ほうようしながら言ってしまう二人だった。

そんな好転の兆しも知らずにハマは、大会会場であるスタジアムに来て、候補者の当てもないままスタジアムの周りを歩き、ひとり考えていた。




(もし一人もクランメンバーになる奴がいなければ……)




少なからず焦りを感じたハマの前方に、黒ずくめのローブとさらに黒のマントを身に付けた者が近づいて来た。ハマは焦りから駄目もとで勧誘をかけてみた。




(もしかしてクランメンバーになってくれるかな? え~い! ダメもとだ!)




「あの~良かったら俺たちのクランに」




声をかけたところで、かぶせる様に黒ずくめの者が言葉を発してきた。




「あなた様の復権まであと少しです……もう暫くの辛抱ですぞ……我らが主よ」




ハマは突然言われた事に意味がわからず、誰かと勘違いされたのかと周りを見渡した。




「えっと……どなたかと間違えていませんか? 私は」




しかしハマが振り返り言った時には、既に黒ずくめの者は目の前から消えていた。




「え? うそ? 今の人どこ? どこ行ったの?」




改めて周りを見渡すがその姿は無く困惑した。




「幻でも見たのかな……こんな真っ昼間にやばい――疲れかも」




ハマが軽く頭を抱えていると、そこにヒロサスが走ってハマを呼びに来た。




「ハマさ~ん」




その声に振り返るハマ。




「ヒロサスどうしたの?」




「クランメンバーになりたいって人が」




その知らせを聞いたハマの顔の表情が一気に明るくなった。




「え!っ来たの!」




喜び勇んで思わず飛び跳ねていた。

急いで走って来たヒロサスは、息を切らせながらもハマに現状を知らせる。




「はい、とりあえず登録してもらおうと、ディープさんが相手してますから……ハマさんも来てください!」




笑顔になったハマは息が上がりっぱなしのヒロサスなどお構いなしに走って戻ろうとした。




「よし! 行こう!」




息も整わないままのヒロサスを押しながら走り出した。 

その様子を近くの木陰から見ている黒ずくめの集団があったことにハマたちは気が付くことはなかった……




「主……」




ディープの所に戻って来たハマとヒロサスに、ディープは声をかけた。




「ハマさん!」




「ごめんディープ君! クランに――入りたいって人は――この人たち?」




ハマも走って戻って来たので息が上がっていた。




「はい! 間に合って良かったですよ~ハマさんまだいたんですよ! クランに入っていない有望株が!」




ディープからも嬉しい報告を聞いてハマは深呼吸し、息を整えると、二人に向かって自分たちのクラン名を言い放った。




「初めまして、俺たちのクラン――聖夜に舞う天使に! へようこそ!」




その場にいた新メンバー候補の二人に、ハマが大声で言うと、二人の男がそろって微妙な顔をした。一人の男はかなり大きな体格で頭髪は無い代わりに戦い傷が数多くあった。大きな戦斧を背負い、その肉体自体が屈強そうな鎧の雰囲気を示していた。そして肩当ての装備も突進用に変更されている。一方もう一人の男は背は高いが身体の線は細く繊細さを魅せるような流れる髪を背中まで伸ばしている。服も大柄の男と違い肌の露出が少ない姿で紫を基調とした色使いの服でその服にはトルジェ国軍の紋章が印されていた。上着の裾が前掛けのように割れて動きやすくはなっており、自身の背丈より短めの槍が背中に斜め掛けして装備している。




そして大柄の男が戸惑ったように口を開いた。




「それがこのクランの名前なのか?」




「え? 知らずに……入ろうとしたの?」




クラン名も知らずに入ろうとしたのか、とハマが疑問に思っていると、未だに戸惑ったままの男二人に変わって、ディープが口を開いた。




「ハマさん実は……」




実は、ハマたちが戻る前に、二人がクランに入る条件を出していたのだ。

その内容は、大柄の男の条件で西の大都市ファルドに行くことであった。

そして細身の男の方の条件は、トルジェ王国の兵士であるトラシュラと言う男を探し出すことであった。

二人の男のクランメンバー入いりとなる条件を聞かされたハマは少し悩んで、自分の一存ではすぐに答えを出せないことを二人に告げた。




「わかったけど……みんなに話してからでないと決められないよ」




そのハマの回答に、二人の男は不安そうな顔つきで言葉を返した。




「このクランはあんたのクランではないのか?」




「いやクランマスターは俺だけど……クランメンバーがいなければ、クランは成り立たないだろ? だからみんなと話し合って決めているんだ」




そう語るマスターのことが少し頼りなく見えたのか大柄の男がさらに自身の意見を付け加えた。




「クランマスターって俺についてこい! ってイメージなんだがな」




ハマの意見を聞いたヒロサスとディープが自分たちの“聖夜”と言うクランの説明を補足した。




「このクランはみんなの意見を尊重するんですよ」




「そうです! それが他のクランと違うからいいんですよ」




熱く語りだした二人に細身の男は冷静な雰囲気で言った。




「そういうのも有りなのかもしれないな……では、どうなれば俺たちの条件を呑んでくれるんだ?」




「それは……」




そう問われたハマが答えようとしたところに唐突にミワンの声が聞こえ、ハマたちのところに走ってやってきた。




「ハマ~!」




「ミワン? どうした」




「ピロがアジトを見つけたって!」




「え! 本当か!」




「うん、あんまりいい雰囲気ではない感じだったわ。ピロとアーマーが先に向かってるから、急いでハマたちも来てって!」




「わかった! ヒロサス、ディープ君いくぞ」




ハマはそう言って、すぐに走り出そうとするが、二人のクラン申請希望者が声をかけた。




「俺たちの条件はどうなるんだ!?」




話の途中なのに、その場から行こうとするハマたちに、大柄の男がひきとめるように言った。




「すまない! 急いで行かなくてはいけなくなったんだ!みんなに話しておくから! ―― 戻って来たら、また改めて話をしよう」




そう言いながら四人は走り去って行く。それを見送る形になってしまった二人の男は突然居なくなってしまう彼らを呆然と見送るだけとなっていた。




「おい……あいつら、俺たちを置いて行っちまったな……」




「そうだな――待ち合わせ場所も決めないまま、行ってしまったな――何か大切な用事でもあったんだろう」




大柄な男は呆然となり、細見の男は肩をすくめ両手を軽くひらいた姿で言った。




走りながらアーマーたちのところに向かっている四人は、先ほど置き去りにした二人のことを話していた。




「ハマ! 今いた二人はクランメンバーになる人?」




ミワンが話すとハマはミスを犯していた事に気が付いた。




「あ! そういえば待ち合わせの場所決めてなかった――あの二人あとで探さないとな……で、琴ちゃんも一緒?」




「相手のアジトで見張ってるはずよ―― ハマ? 『琴ちゃん』って呼び方どうしたの?」




「ああ、アーマーが琴って呼んでるし、俺は……さすがに呼び捨てはできないから、そう呼ぼうと思って」




「ふ~ん そうなんだ」




(たしかにその方が彼女とみんなとの距離感 縮まるかもね……考えてんだハマも)




ハマもいろいろと考えていることが少し頼もしく思えたミワンだった。




「なんか胸騒ぎがするんだよな……急ぐよ! みんな!」




そう言ってハマたち四人はさらに速度を上げて走っていく。




その頃アーマーとピロは深琴と落ち合うはずの場所に着いていた。しかし深琴の姿はなく、ピロとアーマーは深琴を探し続けていた。




「おい!~どこにいるんだ?」




「まさか! 琴のやつ一人で行ったんじゃなかろーか?」




なんだか妙な勘がはたらいたアーマーは高くそそりたつ壁に目を向けた。




「え? まさか! 一人で行くなんて無茶過ぎる!」




ピロは自分の判断が間違っていたら? 彼女を危険にしていたのかもと考えたのと同時に

壁の中がどうなっているのかさえわからないのに一人で侵入するのはかなりの無謀であるし、自分が『待て』と指示した事を無視されたなんてことも考えたくなかった。




(もし中に侵入して捕まってたとしたら、どうなる?)




アーマーは壁の中の状態を考えた。事前に知っていたラスグーンの街の情報そして、この壁の中の街のことも。あらゆる情報を思考したが、なにはともあれ、まずはハマたちと合流してから行動するのが危険も少なくなるので、今は待つ判断をするしかなかった。




「しょうがない……みんなが来るまでここで待機するばい」




「わかった」




しばらくすると、別行動していたクランメンバーの四人が到着した。




「アーマー!」




駆け寄って来たハマたちに、アーマーが焦りまじりに返事をする。




「遅かばい!」




「悪い、遅くなった……琴ちゃんは?」




ハマはこの場に深琴がいないことに直ぐ気がついた。それと同時に嫌な勘が働いていた。思わず態度もあらわに口にしたのはピロだった。




「知らない……あんな奴!」




ハマの問いに、ピロは思わず苛立った態度で言い放った――ピロの気持ちの中では捕まったという感じより深琴が勝手に行動をしたことに対しての態度だった。

それを聞いてハマは問題があったことを察知した。




「何か?……あったの?」




とりあえず時間が惜しいアーマーは、手短に説明した。




「多分、琴一人で壁の中に乗り込んだっちゃ……」




集まった四人が一斉に驚きの声をあげた。




「えーーー!」




「まずいですよ! 僕たちの仲間が三人もやられて……ヤンヤさんまで深手を負った相手ですよ」




「そうですよ、タダでさえ戦力がなくなっている僕らにどうやって相手しろと……」




ディープが口を開く。そしてそれに付け加えるようにヒロサスも話した。




「琴ちゃん……」




ミワンは壁を見上げて深琴のことを思う。




「まじで……もう少し考えてから動きたかったっちゃけど…」




アーマーも予想外の展開で思わず不満を言ってしまう。みんながそんな事を言っていると、ハマが珍しくマスターらしい意見を言った。もちろん彼は深琴が捕まったという前提の考えだったが。




「俺は行く!不利な状況でも琴ちゃんを助けないと!仲間なんだから」




「身勝手な動きをされれば他のみんなも危険になる……あいつはそれをしているんだぞ」




ピロはハマとは違う意味で一人で乗り込んだという前提での言葉だった。二つの意見を出すことでみんなに考えることを促す狙いもある。それはこのクランで大切な各々おのおのが考えて行動し、協力をするというテーマでもあった。

アーマーはハマの意見に同調して仲間を大切にする気持ちを推した。




「確かに琴は勝手なことをしたかもしれん、今行けば最悪みんなにも危険がせまるかも…… ばってん琴はもう俺たちの仲間やなかと!?」




ミワンも改めて自分たちのクランが大切にしている事を伝える。




「そう、私たちが大事にしているもの……でしょ!」




「仕方がない……やりましょう」




「そうだね」




その言葉にディープ、ヒロサスも気持ちを同じにした。ハマはみんなの言葉を聞いて感謝したのと同時に身の引き締まる思いもあった。




「みんな……ありがとう」




しかしピロだけは素直に納得していないようであった。捕まったにしろ勝手に行動した彼女のミスを受け入れることに抵抗があったのだ。ピロは元々単独で行動することが多いアサシンの業種でもありクランにしろギルドにしろ団体の行動はなかなか難しく、自身もとっつきにくい性格だったのとクランに入ったのも自分より強い者と巡り合い、それを超えることを望んでの参加だったので、今回の様に自分より弱い深琴の為に力を貸す労力が嫌いだった。




「……チッ」




舌打ちをしていたが、みんなの流れには今は従った。




「よっしゃー、とりあえず作戦を立ててから行くぜ!」




アーマーが声をあげた。

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