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80 協力者

 森から出てきて柵の隙間からこちらを覗きこんでいるのは、私たちの次に長くここに留まっていた女性だけのパーティだった。
 ちなみにこの柵、まだ出入り口を作っていない。まあ、現状は西側も東側も柵は未設置なので必要がないと言えばないんだけど……実際はすっかり忘れていただけ。なので残りの柵を作るときにはちゃんと西門と東門を設置する予定。

 とにかく、戻ってきたプレイヤーさんたちを拒む権利は私にはない。普通に考えればここもセーフエリアのはずだし……ん? だったら拠点化とかいらなかった? 
 いやいや、召喚者という重要な位置にいるカラムさんが魔物の襲撃を匂わせるようなことを言ったんだからその対策はしておいた方がいい、よね? 多分。ま、まあその辺は後ほど検討することにしておいて、女性パーティの皆さんには柵を回り込んで広場に入ってもらう。
 現状は人手が足りない状態なので、彼女たちが戻ってきた理由や、今回のイベントに求めているもの次第では協力を要請したいしね。

 その話し合いにこちらから参加するのは、私とウイコウさんとモックさんの三人。クロも肩にいるけど目を閉じているから話し合いに参加する気はないのだろう。その他のメンバーだと、ミスラさんの看病に戻るカラムさんとまぶたが重くなってきている兄妹がログハウスに戻っている。
 残りのうちのメンバーは話し合いにはまったく興味がないようで、場所を焚火の周りに移して、まだちびちびと飲み続けている。それぞれ敷布なんかを取り出したりしているから今晩はそのままそこで野営して眠るつもりらしい。
 実力的には問題ないけど、一応外は物騒なのでファムリナさんだけはあとでログハウス内に入ってもらうようにしよう。ミラは…………別にいいや。ミラを襲おうとする男、もしくは魔物がいたとしても地獄をみるのは間違いなく襲った方だろうし。


◇ ◇ ◇


「一応形の上では私がパーティのリーダーですので、代表して自己紹介させてもらいますね。私はコチといいます。パーティ名は決めていませんが、こちらの参謀役のウイコウさんと、焚火のところで寛いでいる四人がメンバーです」

 全員の名前をうっかり伝えるとリイドに繋がりそうなので、チュートリアルでプレイヤーと関わりが多いミラや、見た目のインパクトがあるファムリナさんや親方の名前は伝えない。魔道具で見た目を変えていたウイコウさんや、門番のときとのイメージが違い過ぎるアルなら伝えても問題ないと思うけど、アルを紹介すると他のメンバーも紹介しないと不自然になるので保留。

「あ、はい。私たちはこの六人で【六花】というパーティを組んでいます。私がリーダーで名前はチヅルです」

 チヅルさんは身長が160を少し超えるくらいで、黒髪ポニーテールの人族の女性。革の鎧と細身の剣を装備しているから軽戦士系のジョブに付いているっぽい。見た目は……悪くない。悪くないし、どちらかといえば可愛い系の美人さんなんだけど、なんていうか凄く【普通感】が滲み出ているのでどこかぱっとしない感じ? 
 多分だけど、この人……苦労人だ。

「パーティ名、安易だよねぇ。六人の女性、女性イコール花、それで六花だもんね。チヅルちゃんってばセンスまで普通~」

 チヅルさんの後ろからひょっこりと顔を出したのは、チヅルさんよりもちょっと小柄な感じの茶髪ショートカットの女性。表情が豊かで小悪魔的雰囲気があるから、きっと彼女はパーティのムードメーカーなんじゃないかな。
 髪の間からほんの少し耳が出ているので種族はエルフかなと思いきや、尖り方が足りない気がする。装備が革鎧に片手剣と小型の丸盾なのでチヅルさんよりも前衛よりの剣士っぽいことも考えるとSTRが伸びにくいエルフじゃなくて、ハーフエルフかも知れない。CCOではハーフエルフは人気種族で、魔法剣士を目指したいプレイヤーが結構選択している。

「ミルキー! あなたねぇ、文句があるならその時に言いなさいよ。誰も意見を出さないから仕方なく無難な名前を付けたのよ」
「チヅルちゃんを揶揄うためにあえて意見を言わなかったんだも~ん」
「こらミル! チヅルが地味で面倒な役割を全部受け持ってくれているからこそ、私たちはパーティとして成り立っているんだぞ。感謝して労うならまだしも、揶揄うのはほどほどにしておけ」
「うわっ……痛いよキッカちゃん」

 小柄なミルキーさんの頭の上に抑えつけるように手を置いたのは、私よりも背が高くて筋肉質な体躯の赤髪ショートヘアの女戦士だった。女戦士ということで期待しがちなビキニアーマーのような装備は身に付けていなかったが、このパーティ内では唯一金属製のブレストアーマーで上半身を包み左手にも金属製の丸盾、そして片手斧を装備している。おそらく見た目通りの盾戦士でパーティ内ではタンク役をしているのだろう。残念ながらブレストアーマーでわかりにくいが、胸もかなり大きいと思われる。

「ごめんなさい、騒がしくて。一応この小さいのがミルキーで、盾を持っているのがキッカよ。残りのメンバーの紹介はあとでいいわよね」
「はい。皆さんお疲れのようで早く休みたいと思います。なので、私たちがどうしても今日中に聞いておきたいのはひとつだけです」

 溜息を漏らしたチヅルさんが小さく肩をすくめているが、うちのメンバーの奔放ぶりも負けていないので、そっち方面に関してはまったく問題ない。確認しておきたいのは彼女たちが明日以降どのようなプレイをしようと思っているのかどうかだけ。

「知りたいのは私たちがこのイベントをどう進めるか、ですよね?」
「はい」
「そちらは、|NPC《・・・》を助けるルートを選ぶんですよね?」
「……いえ、私たちは|大地人《・・・》の皆さんをひとりでも多く助けるために活動します」
「え?」

 モックさんやウイコウさんが目の前にいるのに堂々とNPC扱いされるのは正直気分が良くない。その想いが出てしまったのか、つい強めに言い返してしまった。

「チヅル、お前の悪い癖だ」
「あ、そうか。ごめんなさい……決して悪気があった訳じゃないの。私はゲーム歴が長いせいで、ついゲーム用語的なものが先に出てしまって……」

 キッカさんに窘められたチヅルさんが、申し訳なさそうに頭を下げる。確かに彼女の言うことも分からなくはない。私はこのCCOが初めてのVRMMOだが、他のソフトから流れてきた人も当然たくさんいる。そして、このCCOは他のソフトよりも圧倒的にリアル度が高い。大地人のAI(?)などの作りこみについてもそうだし、実は生産関係もそうだ。

 現状は見つけたレシピを元に作成するというのが常識として考えられているが、私が広めた料理のように、自分の手で一から作ればちゃんとオリジナルのアイテムとして成立する。でも、今後生産の知識が広がり大地人や夢幻人が独自にアイテムを創り出すようになった時、その全てのアイテムを運営が事前にプログラミングすることは多分無理。

 ここからは私の推測になるけど、おそらくCCOは現実世界の情報を何らかの形でシステムに取り込んでいる。そして生産者が何かを創り出したとき、その生産過程や完成した形を現実世界の情報と照らし合わせて、なんとなく近いものをアイテムとしてデータ化しているんじゃないだろうか。

 これは、おかみさんが生み出す数々の創作料理や、今日親方が作り上げたポストホールディガーを見ていてそう思った。でも、その参照の精度自体は結構曖昧なものっぽい。なぜなら今日作ってもらったポストホールディガーの鑑定結果は工具ではなくて武器だったからね。

 だけどその曖昧さは生産職よりのプレイヤーとしては意外と面白いシステムな気がする。だって自分が作ったものが、予想外のアイテムになるかも知れないっていうのはちょっとわくわくするよね。
 っと、ちょっと思考が大幅にそれてしまった。

「構いませんよ、チヅルさん。大地人たちが夢幻人の方にそう呼ばれることが多いというのは周知の事実ですから。それに得てしてそういう方たちはその言葉を蔑称として使うのですが、あなたにその意図がなかったことは伝わっていますから」
「あ、ありがとうございます」

 おう、さすがウイコウさんは大人だ。チヅルさんがそのダンディズムにちょっと頬を赤らめている気がする。くっ、これが落ち着いた大人の男の魅力なのか。

「私も分かりました。誤解が解消されたところでずばりお聞きしますね。六花の皆さんは明日以降どうされますか?」

 軽い敗北感に苛まれつつも踏みとどまり本題を切り出す。
 チヅルさんはミルキーさんやキッカさん、それから後ろに控えているパーティメンバーと視線を交わすと私たちに視線を戻す。

「私たちもあの人を助けるために協力します!」

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