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聳える雲入道

「namaḥ samanta vajrāṇāṃ hāṃ」

織前寺元道(しきぜんじもとみち)が呪言を唱えると、空中の妖しが地面に叩きつけられる。
空中の妖しを狙っていた少年は、勢い余って 元道(もとみち)の元に飛び込んでくる。
思わず抱き留める。人の温もりがする。

「おいら、受け止めてもらわなくても着地できるよ。」

少年はそう言って元道を振り払うと、他の妖しに向かって 三鈷(さんこ)を持って向かっていく。
3本の突起のある金色の仏具。妖しに対しては 陽光(レーザー)の如く照らしだし、深刻な傷を与える。

「妖しを操っている大物がいそうだな。」

時は平安末期。 千年期(ミレニアム)の終わりは天災の活動期で、地震や大火が ()く起きた。
戦いになるのは稀で、今回のように宮殿の天子様を守るということがない限り、一般の衛士に任せる。

「狙われてるよ!」

元道(もとみち)に向けて妖しが投擲した刃を、少年が苦無を投げて空中で撃ち落す。
防護の護符(タリスマン)があるので刺さりはしないのだが、各護符は1度で砕け散ってしまうので助かってはいる。

「朱雀、大きい奴に行くぞ。」

共闘の彼の名は朱雀。自称であり四神とは関係ないが、身長程度は飛べるという身の軽さを持つ。
一度に数本の苦無を投げられるという特技は、焔の霊鳥の羽ばたきを想わせる。

「グォォォォ、ォォォォオオオオン。」

向こうに聳える雲入道。朱雀の三鈷に呪言を込めて攻撃させる。敵に対しても呪言を放つ。
呪言と共に礼装が靡いて、仄かに 白檀(チャンダン)の香りが感じられる。

「namaḥ samanta vajrāṇāṃ caṇḍamahāroṣaṇa」
「うりゃああああああああ。」

雲入道は妖力の核を破壊され、消滅する。
大物が消えていくにつれて、他の妖しは引いていく。

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