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第24話 壮行会

 ケーキ屋組は結局五日間レベリングをした。
 もう、中級魔法なら十発放っても魔力の枯渇はしないと嬉しそうに話してた。
 どんだけレベリングをしたのかと一人を鑑定で確かめてみたら、レベル54ってなってた。

 おい! 君達は冒険者になる訳じゃ無いんだからそこまでレベルを上げる必要は無いんじゃないの?
 クラマにも言っておいたのになぁ。
 魔法を中心に戦ってレベリングをしたようで、魔法の熟練度も上がっていたよ。
 俺? 俺の事はいいんだよ、放っといてくれ。

 店舗の外装工事もゼパイルさんが宣言通り一週間で終わらせてくれた。
 依頼達成の報告は商業ギルドで済ませたけど、仕事の代金をゼパイルさんが受け取ってくれなかったから、また『龍王の杯』を樽で渡してあげたよ。
 いい仕事をしてくれたから、約束では無償でというか、先に渡した『龍王の杯』でやってくれる事にはなってたけど、お礼を渡そうと思ったんだ。
 お金は頑なに拒否され続けたけど、お酒ならあっさり受け取ってくれたよ。

 領主様からの呼び出しもあった。
 俺の国家公認冒険者への推薦が通ったと知らせてくれて、王都へ向かうように命令された。
 一年以内ならいつ行っても手続きはしてくれると言われたけど、そんなアバウトな感じでいいの? 向こうだって都合があるんじゃないの?
 アイリスや従者の二人には会えなかったけど、次期領主様のアンソニー様には会った。
 領主様と一緒にいたからなんだけどね。
 なんか不機嫌だったけど、決闘を申し込まれる事は無かった。
 なんでそんなに目の敵にされてるんだろ。恨まれるような事は何もしてないはずなのに。

 それと、短剣と馬車も頂いた。
 王都に入る時はフィッツバーグの紋章が入ってる馬車で入るように指示された。その時に短剣も見せるようにも言われた。
 本当は御者と馬も付けると言ってくれたんだけど、仲間内で行きたいからと断ったんだ。
 ノワールに乗って行くつもりだから、馬や御者を付けられても困るんだよ。王都に入る時だけ馬車を出して、それ以外では収納で仕舞っておこうと思ってたから。
 だってその方が早いし快適だからさ。 
 ノワールの背中ってホントに楽で気持ちがいいんだよ。

 馬車もたぶん収納バッグに入ると思うんだよね。もし入らなかったら衛星に収納してもらうとか、馬車が入る収納バッグを作ってもらうとか、最悪その場で作ってもらえばいいと思ってるから馬車の事は気楽に考えている。


 ケーキ屋もオープンした。
 ケーキ屋のオープン前にはスラム街への炊き出しボランティアも行なった。出資者は領主様、金貨十枚をポーンと出してくれたよ。
 院長先生が領主様の城に行きにくそうにしてたから俺が行ったんだけどね。だって、偽物だったとはいえ、酷い仕打ちを領主様から受けてるしね。領主様が偽物だったなんて院長先生は知らない事だし、領主様への謁見は院長先生にはハードルが高かったみたい。

 ケーキ屋のオープンでは、何の宣伝もしてないのに長蛇の列ができたんだ。店の名前は【星菓子】どうしても『星』って入れたかったらしい。
 どうやら、領主様が差し入れで持って行ったケーキを気に入ってくれて宣伝してくれた効果が高かったのかもしれない。
 商業ギルドや冒険者ギルドでも宣伝してくれてたみたいだからね。後でお礼に差し入れを持って行かないとね。

 あの大忙しだったスラムの炊き出しを手伝った事がケーキ屋にも生かされたようで、忙しかったけど順調に店は回ってる。俺はいなくても大丈夫そうだ。
 店は広いけど十八人もいるし、無休でやるとか張り切ってたけどシフトで休みを取るようにしてるから問題無い。【星の家】からも将来ケーキ屋に就職したいって子が何人かいて、週に一~二回手伝ってくれるみたい。その代わりって訳じゃ無いけど、スラム街の炊き出しボランティアの時にはケーキ屋組で休みの人が手伝いに行くみたいだ。

 この世界って店を休むって意識が無いから、初めは大反対されたけど、最後はご主人様権限で俺の意見を通させてもらった。
 慣れなんだろうけど、やっぱり休まないとね。
 休みの日には何をしたらいいんですか? って聞かれたけど、そんなの知らないよ。自分達で考えてください。

 そういや冒険者って休みが無いよね。毎日が休みと言えば休みみたいなもんなんだけどさ。
 普通の冒険者だったら依頼を受けて魔物と戦って、疲れを癒すために休みを取ったりするんだろうけど、俺は魔物と戦わないしな。
 依頼も最近やってないし、薬草などの納品は頼まれてるけど、今は【星の家】から定期的に納品されてるから俺の出番も無いし。
 偶には納品しないとランクダウンがあるわよって受付の犬耳アイファに脅されたから、またドッサーっと倉庫で出したら馬耳ポーリンに凄っごく睨まれたし。どうしろって言うんだよ。
 
 ケーキ屋組との交流が良かったのか炊き出しが良かったのか分からないけど、【星の家】の子達、特に年長組が見知らぬ人とも表面上は普通に会話ができるようになった。
 内面では何を考えてるか分からないけど、自分から積極的に話せるようになった事は評価に値すると思う。衛星に連れて行かれたスラム街だったけど、ようやく形になったような気がする。


 今日は俺の壮行会と、ケーキ屋オープン記念と、【星の家】から旅立つ五人と、新たに【星の家】に住む事が決まったスラム街の子供達十二人の入寮式を兼ねたパーティをケーキ屋でする事になった。

 ケーキ屋がオープンしてから一か月経って、毎日完売と順調すぎる店とは逆に、疲れの色が濃くなり始めたケーキ屋組のために店を完全休業にしたんだ。
 そしたら俺が王都に行く事は前から伝えてあったけど、【星の家】でちょっとした壮行会をしてくれるというのを嗅ぎつけたケーキ屋組が、今回のパーティを考えてくれたんだ。
 いいよね、こういうのって。ホント嬉しいよ。
 
「えー、えー、ゴホン。ほ、本日は、こ、このようなパーリィ……」
『『噛んだ!』』
 うるせーよ! こんな畏まって話す事なんて慣れてねーんだよ!

 なんか代表して話をしろって言うから、前に立たされてるんだけど、事前に何も言われて無いから緊張しちゃって。
 全員知ってる顔だけど、こういうのってやっぱ緊張するんだよ。

「えー……ぼ、僕の……」
 えーい! もういいや! いつも通り話してやれ!

「ゴホン。俺のその場その場の気まぐれで、お節介を焼いた結果が今の形かなって思ってる。でも、今の皆の楽しそうな幸せそうな顔を見ると、間違ってなかったのかなって、ちょっと調子に乗ってる自分がいます」

 おい! 急に静かになんなよ! しゃべりにくいじゃないか! ここは野次を飛ばすとこだろ!

「えー、【星菓子】の人達は初めての事ばかりで本当に大変だと思います。今までやった事の無いケーキ作りや苦手なお勘定での計算でも本当に頑張ってくれてると思ってます」

「そんな事はありません、まだまだです」
「そうです、材料の仕入れや一日の売り上げ計算ではまだまだ助けて頂いています」
「あのレジスターが無かったらできませんでした。ありがとうございます」
「エイジ様、ありがとうございます」

 そう、レジスターを衛星に作ってもらったんだよね。あれなら計算はレジがやってくれるから間違いも無いし、一日の集計もやってくれるから楽なんだ。俺は最後にお金を数えて合ってるか確認するだけ。合わない日があっても俺が補充するから意味がなかったりするんだけどね。

 材料の仕入れも大変なのは砂糖だったな。マイアが作り過ぎて加工が間に合わなかったんだよ。
 大倉庫を一軒建てて、サトウキビ用とてん菜用の加工機をいくつも設置して【星の家】の子供達にも手伝ってもらってと、結構大変だった。ま、俺は衛星にお願いするだけなんだけどね。

「こちらこそありがとう。今後ともよろしくね」

 あ、ダメだ。泣いてる人が何人もいるからこっちも貰い泣きしそうだよ。
 違う話題にしよう。

「えーっと、院長先生。それとミニーさん。子供達のお世話を毎日ありがとうございます。大変だとは思いますが、新たに十二人入って来るみたいなんで、これからも頑張ってください。子供達はこれからもお手伝いするんだよ」

「そんな事わかってるよ、兄ちゃん!」
「そうだよ、手伝うのは当たり前じゃん!」
「僕はもう馬に乗れるようになったんだぞ!」
「私は砂糖が好き!」
「ボクはハンバーグが大好き!」
「妖精さんとお友達になったー」
 口々に好きな事を言う子供達の最後に院長先生が締めてくれた。

「あなたとの出会いを神に感謝します」
「はい、本当に素敵な出会いでした」
 ミニーさんも涙ながらに言葉を重ねた。
 院長先生が泣くとこっちまで泣きそうになるじゃん。

「イージ、本当に感謝しています。ありがとうございます。今回巣立つ五人にも冒険者ギルドへの登録や装備の餞別。何から何までお世話になりっぱなしで、これだけの感謝に変わる言葉が思いつきません。本当にありがとうございました。そしてこれからもよろしくお願いします」
「いえ、こちらこそ無知な俺に色々教えてくださって感謝してます。これからも色々教えてください、よろしくお願いします」

 装備はキッカが揃えてくれたんだけどね。後輩の旅立ちだからって奮発したみたいだよ。
 ケンも、解体を教えてたみたいだ。「これができるようになるまでは冒険者ギルドに登録させねぇ」って言ってたみたいだけど、自分達も解体ができるようになったのは最近なのにね。

 キッカ達も今では冒険者ギルドで顔みたいだから、いい後ろ盾になってくれるんじゃないかな。
 同じ冒険団なのに、俺より依頼達成してるから既にAランクにもなってるしね。
 このまま同じ冒険団でいいのかなぁ。

「こんな送別会みたいな感じになっちゃったけど、王都に行って来るだけだから一~二か月ぐらいで帰って来る予定なんだ。クラマとマイアも一緒に行くんだし、お前達も何か喋れよ」
「な! #妾__わらわ__#はいい。すべてエイジに任せる」
「はい、どうせすぐに戻って来るのですし、私も遠慮します」

 二人とももう飲んでるよ。子供達だって食べるのを我慢してるのに、ダメな奴らだな。
 招待したとはいえドワーフのゼパイルさんも一緒に飲んでるね。この人って実は酒で何か失敗して鍛冶師を辞めたってオチがあったりしないよな?

「ま、いいか。じゃあ、今後も皆で仲良くやって行こう! かんぱーい!」
『『『かんぱい!』』』


 壮行会&色々付け足しパーティの翌日、皆に見送られて王都へ向けて旅立った。

【第4章 完】

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