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第15話 初イベント?

 朝、寝起きのまどろみの中、窮屈で身動きできなくて気が付いた。

 ハッ! また死体の山の中⁉
 と、嫌な光景を思い出し、バッ! っと飛び起きた。

 ほっ、ベッドの上だ。昨日、寝た小屋の中だよ。
 でも、なんで窮屈な……

「おわっ!」
 右にクラマ、左にマイアが俺を挟むように寝ていた。

「むー……まだ寝るのじゃ……」
「…寝ましょう……」
「むおっ!」
 ベッドに座った状態だったのに、二人に引っ張られベッドの上に倒された。
 二人に挟まれて気持ちいい。女の人ってすっごく柔らかいんだなぁ。

 いやいや、今はそうじゃない。それに大体こいつらは二人とも人間じゃ無いし。
「おい! なんでこんな事になってるんだよ! いつ帰って来たんだよ。って、なんで二人して俺のベッドに潜り込んでるんだよ!」
「添い寝じゃ」
「添い寝ですね」

「添い寝とか聞いてんじゃねーし! 大体クラマは添い寝の時は狐の姿でって言ったじゃないか!」
「ここは狭いから無理なのじゃ」
「私はそんな契約していません」

「ほんとにもう。もう起きるよ! ……うおっ!」
 もう起こしてやろうと布団をめくったら二人とも裸だった。
 慌てて布団を戻したけど、バッチリ見ちゃった。

 二人をベッドに残し、部屋から大急ぎで出た。
 この小屋は意外と広くて、リビング兼キッチンに隣接して三部屋あるような作りになっている。
 部屋は狭いけど、個室にしてもらってたんだ。これは作り変えてもらわないといけないな。でも、あの二人って一緒に寝ても大丈夫なんだったっけ?

 衛星に朝食を三人前頼んで、俺だけ先に食べる事にした。二人もそのうち起きて来るだろうけど、食事は作れないみたいだからね。

「今日も美味そうじゃの」
「美味しそうです」
「え? もう起きて来たの? 今日は特に予定が無いから、まだ寝ててもいいんだよ」

「#妾__わらわ__#は毎日寝なくても平気なのじゃ。十日は寝なくても大丈夫じゃ」
「私も一か月ぐらいなら平気です」
「だったら添い寝なんかしなくてもいいじゃないか」

「それとこれとは話が別じゃ」
「そう、別です」
「なんだよそれ、意味わかんないよ。もういいから早く食べなよ」

「#妾__わらわ__#の裸はどうじゃった? 綺麗であったであろう。さっきも中腰で出て行ったよのぅ」
「……」
「そういえば腰をかがめてましたね。お腹でも壊しましたか?」
「……」

「健康な男子なんだよ」
 真っ赤な顔になってるのが分かるが、精一杯言い訳を考えて出した答えがそれだった。
 マイアは知らないのかも。でも、クラマは知ってて言ってるよな。ホントどっちが主人か分かんないよ。


 朝からそんな事があったけど、朝食が終わると町に戻る事にした。
 だって、二人でダンジョン制覇したって言うんだから、もうここに用はない。
 三十階層あったって言ってたけど、僅か半日で制覇しちゃったんだ。
 元々実力のある二人だ。その二人がタッグを組んだ上に、クラマなんかは最近暴れ足りないから丁度いい発散する機会を得て、今は非常に満足気だ。相当暴れて来たんだと思う。
 火が得意なクラマに、水と樹の魔法が得意なマイア。しかも二人共、俺が渡した攻撃力1000の薙刀と槍を持っている。

 単純計算で、一時間で二階層以上を踏破している事になる。
 キッカ達とのダンジョン攻略にはクラマがいたとはいえ、五十階層に一週間ぐらい掛かってたよね。
 そう考えると断然早いよな、ダンジョンのレベルもあるけど。
 どっちも眠れるダンジョンだから、レベルは高いと思うんだよ。そう考えないと、キッカ達のあのレベルの上がりようは無いからね。

 戦利品は全部俺がもらった。魔石だったり、魔物の肉や牙や皮だったり、宝石だったりしたけど、その数は凄かった。一気に踏破したから宝箱なんか無かったのかと思ったら、それはキッチリ回収したらしい。金貨も結構あったから、それは本当だと思う。

 数が多いのに、クラマもマイアも一気に外で広げちゃうんだよ。二人に渡した収納バッグから無造作にばら撒くように出しちゃうんだ。ほんと正確出てるよ。
 俺も収納バッグだけど、かき集めるのに一時間以上かかったよ。それで出るのが遅れて、町に着いたのは昼を大分過ぎてからになってしまったよ。

 収納バッグって、見て念じて触れるだけで収納できるから力が無くても相当大きな物でも力は全く使わず楽に収納できるんだけど、一つ一つはキチンと触れて行かないといけないから、もう腰が痛いよ。
 出すのは楽なんだけどね、片手をバッグに入れるとバッグに入ってる物が頭に浮かんで来るから、それを出したい所に念じるだけ。だから、二人は片っ端から一気に出しやがったんだよ。
 もう、こいつらの#主__あるじ__#を辞めたい。

 余談だけど、肉に泥とか付いていても、出す時に肉だけって念じれば泥は取れてるんだ。だから洗ったりなんてしなくてもいいんだよ。もちろん入ってた状態で出す事も出来るから、汚れた状態で出す事もできるんだ。普通は綺麗な状態で出すよね。砂や泥はその辺に出せばいいしね。


 町に戻って来て驚いた。門に凄い行列が出来ているんだ。
 これって今日中に入れないかもしれないってぐらい並んでるんだ。
 このハイグラッドの町には門が二つしかない。今回利用している東門と、その対角にある西門だ。
 東門は主要の街道に面してるから西門の方がマシかと思って行ってみたが、どっちも同じぐらい並んでる。幾分西門の方が行列の長さはマシではあるみたいだけど。

 でも、こっちは兵士がほとんどで、民間人の入門は遅々として進まない。
 負傷兵が多いようで、兵士を優先的に入門させてるからだ。
 どの兵士も頭と首に包帯を巻いて、お腹を押さえて歩いている。どこかで見た事があるような光景だ。
 ま、戦争に参加してない俺には関係ないけど、この人達を待ってると俺達はいつまで経っても町に入れないな。
 でも、あの怪我の仕方って……いやいや、俺には関係ないはずだ。
 俺は首を何度も振って今思い浮かんだ事を振り払った。

 いくらなんでも、あんな数を衛星が攻撃できるはず無いじゃん! 衛星って十二個しかいないんだよ? しかも、よっぽど余裕がない限りオレの周りに四つは残ってるんだ。負傷兵はどう見ても千じゃ利かないよ? 先に入ってるのもいるだろうから、もしかしたら万を超えてるかもしれないよ。無理無理、そんなのいくら衛星でも無理だって。

「あれじゃな? エイジの呪いにかかった者共は」
 だから呪いじゃねーし! やっぱりクラマも気が付いたか。

「でも、エイジの呪いは怪我をするだけなのですね。優しい呪いだ事」
 これだけ呪い呪いって言われてると、本当に呪いのような気がして来たよ。
 いやいや、衛星は呪いじゃ無いし、いつも助けてもらってるんだから。

「もうその事には触れないでくれる。それと、あんまり大きな声で言わないでよ、俺達の話を聞かれて難癖付けられても困るから」
「よし、わかったのじゃ。これは#妾__わらわ__#とエイジだけの秘密じゃな?」
「私とエイジだけの秘密なのですね?」
 今の時点で二人だけの秘密になって無いんだけど。

「う、うん。それでいいから秘密でね」
「わかったのじゃ」「わかりました」
 二人とも笑顔で満足してるね。今の話でおかしいと思わないのかな? 二人が納得してるんならこれ以上触れないようにするけど。

「それで、今日は町に入れないかもしれないな。これだけの行列だろ? 夜には門も閉まると思うし、入門できるのは明日になるかもしれないね」
「#妾__わらわ__#は別に構わんぞ。ただ、それだと今日は添い寝が出来ぬのじゃな」
「そうですね、添い寝ができませんね。これは困りました」

 だから声が大きいって。そんな大きな声で添い寝を連呼するんじゃないよ。皆がこっちに注目するじゃないか。それでなくてもクラマもマイアも美人なんだから周囲から注目を浴びるてのに。
 今だって、「なんであんな普通の男があんな美人と」とか、「弱そうなのに夜は強いのかもしれん」とか俺には苦痛でしかない事しか聞こえて来ないんだよ。ここにいるだけで瀕死になりそうなんだから。

 意外と天馬達が目立って無いのが助かってるけど、クラマとマイアはやっぱり目立つね。
 通常の馬の倍ほどデカい天馬達だけど、偶に魔物に馬車を引かせたりしてる人もいて、デカい馬を見ても、おっ? って顔をされるけど、すぐに視線がはずれるんだ。天馬だとバレたら注目されるかもしれないけど、今のところ普通にデカイだけの馬だと思われてるみたいだ。

 大きい馬が三頭、それに乗る美人が二人に、普通の若い弱そうな男が一人。しかも、行列は一向に進む気配が無い。
 絡まれるには十分な材料が揃っていた。

「お~? こんな所に上物がいるじゃねーか。暇潰しに歩いてみるもんだな」
 山賊? って疑うほどのいかつい男が俺達に向かって声をあげている。
 二メートルはありそうだし、ガタイもいい。頬に傷もあって見た目も非常に怖い。
 盗賊みたいな動物のベストのようなものを着てるし、腰には背中には大きな斧を背負ってる。

 ハッサ○? いやいや、どう見ても悪魔の騎士だな。
 あーいう大きな武器って収納バッグに入れればいいのにね、持ってないのかな?

 大男の両隣には剣士風の男と、盗賊職風の男が並んでいた。見た目は剣士風の男は皮系の装備で冒険者って感じだけど、盗賊風の男は大男とペアルックみたいで、こいつも盗賊団の奴らとイメージが重なる服装をしていた。
 そいつらも、クラマとマイアを見ながらニヤニヤ厭らしい笑いを浮かべている。

 これって絡まれるってやつか? こういう絡まれる系のテンプレ的なイベントって今まで殆んど無かったんだけど、とうとう来てしまったか。無ければいいとは思ってたんだけど、そういう訳にもいかなかったようだね。

「おい、ねーちゃん達! 馬から降りて俺達と付き合えよ!」
 大男が大きな声で怒鳴ってくる。
 どうして、こういう奴って無駄に声がでかいんだろうね。普通に話せばいいのに。

「なんでぃ、なに無視してやがんだよ! こっちを見ねーかよ! 俺様が話してんだろうがよ!」

 クラマもマイアも興味が無いのか全く無視して前を見ている。前と言っても俺の方を見てるんだけどね。
 流石に天馬は大きいから三頭横並びになると列からはみ出すので、列では俺が前に並んで、俺の後ろに二人が二列で続いている。

 大男はその二人に声を掛けているんだけど、二人はまったく無視。

「おもしれぇ、俺様の事を無視しやがんだな。おい! お前ぇら、いつものように逃げられないように囲め!」
 大男の命令で、隣にいた男達は素早く行動した。剣士風の男は二人の後ろに、盗賊風の男は俺の後ろに入り、クラマとマイアを挟むように取り囲んだ。

 クラマの後ろに並んでいた商人風の男達が乗る馬車も、それを見て少し下がった。巻き込まれるのは御免だと言わんばかりに、幌馬車の中に隠れてしまった。

 そうして二人の仲間に前後を抑えさせておいて、大男がゆっくりクラマに近づいていく。

「エイジ様~、お助けください。なのじゃ~」
「エイジ様~ん、お助けを~」

 な!? 二人とも何言ってんの?
 今まで一度も聞いた事無い猫なで声で、二人が俺に助けを求める発言をしてしまった。

 イジメだ…これは絶対イジメだ。お前達なら簡単に対処できるだろう? 俺にこんな奴らの相手ができる訳ないじゃん。

「はーん? エ…イ……男がいやがるのか。どんな野郎だ!」
 投げたな、名前を言いかけて言えなかったから言うのを辞めやがった。

 大男達はまぁまぁの時間三人でキョロキョロと探した後、やっと馬上の俺に気が付いた。
 いや、普通分かるだろ! クラマ達も馬に乗ってんだよ。その連れって言ったらやっぱり馬に乗ってると思うだろ! 途中で「どこに隠れてやがるんだ!」って言われた時には「俺です」って言いそうになったよ。
 しかも、初めは遠目に見てたんだよね? だったら同じような馬に乗ってる俺がいる事も分かってたはずだけど、見てなかったの? こいつらバカ?

 大男は「うまく隠れやがってぇ」と言いながら俺の方に歩み寄ってくる。
 いや、まったく隠れてませんから。ずっとここにいましたから。何か怒りを上乗せしてません?

「もう勘弁ならねぇ、覚悟しやがれ!」
 その怒りの意味がまったく分かりません。なんで俺が覚悟しないといけないの?

 ゴンゴンゴン!

 あ、衛星の攻撃だ。

 ズズーン!

 大男は前に向いて受身も取らずに泡を吹いて倒れてしまった。

「なっ!」
「リ、リーダー!」
 剣士風の男も盗賊風の男も、大男が倒れた事に驚き、身構え、そして武器を抜いた。

 ゴンゴンゴン!
 ゴンゴンゴン!

 クラマ達の前と後ろにいる二人の男も衛星から攻撃され、大男と同じように前向きに倒れた。こっちも泡を吹いている。

 衛星に攻撃されると皆、前に倒れるよね。普通、後ろに倒れそうなもんだけど、殺すなって言ってあるから頭の方は加減をしてくれてるんだろうね。その分腹の方は強めにしてるのかもな。そう考えると前に倒れるのも納得だな。

 で、こいつらどうしよう。
 どうしようもないので、道を挟んで逆側まで運んで、道の端に邪魔にならないように寝かせておいた。
 俺もレベルが上がった事でステータスも上がっているから大男でも運べるようになったんだ。
 こんな事でしか使う時が無いけどね。無駄な力だよ。

 俺自身は未だに剣の腕も未熟だし、魔法は何一つ使えないんだよ。ぜーんぶ衛星頼みだからね。
 偶に兵士が見回りに来てるから、その時にでも相談しよう。

 クラマ達はどうしたかって? 既にこいつらには興味なしだから、運ぶのも手伝ってくれなかったよ。

しおり