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終わりと始まり5

 オーガストがそうして困りつつも気を取り直していると、生き返った者達は何があったのかと周囲を見回している。
 見回した範囲には、同じようにどういう事かと周囲を見回している者達の姿。
 他には、涙を流して喜んでいる皇帝やアンジュ達の姿。ペリドットは他の者達同様に困惑している様子。
 生き返った枢機卿は恐怖に身を震わせながら、近くで枢機卿に背を向けてオーガストへと跪いているシトリーから少しでも距離を取ろうと、尻を床につけたまま後退っていた。しかし、その速度はあまりにも遅い。
 他には生き返った者達には馴染みのない二人の少年。
 身につけているのは二人共ジーニアス魔法学園の制服なので、ジーニアス魔法学園の生徒なのだろう。
 一人は背が高く、身の丈百八十センチメートル後半。もしかしたら百九十センチメートルに届いているかもしれない。その背の高い少年は、周囲の者とはまた違った困惑を顔に浮かべている。
 もう一人は、身長百七十センチメートル中ほど。仮面でも張り付けている様な無機質な表情で、周囲へと見ているようで見ていない無感情な瞳を向けていた。
 周囲で困惑していた者達も、その少年、オーガストを目にして静まり返る。中には俯き必死で目を合わせないようにしている者や、出来るだけ存在を消そうと息を止める者も居る。
 それだけオーガストの纏う空気は異常なのだが、一見すればただの魔力を持たない少年にしか見えない。もっとも、魔法使いではない一般市民でも必ず多少なりとも魔力は保有しているので、そこから魔力を持たない者は居ないと言われている。つまりはそれも十分異常なのだが、問題はそこではない。
 明確に説明する事は不可能ではあるが、オーガストを見た瞬間に視線に重りでも付いたのかと錯覚するほどに視線が重くなった。それでいて呼吸が自然と早くなり、全身が震え出す。まるで逃げるための準備を身体がしている様なのに、しかし身体に力が入らない。
 それは正しく異様であった。それこそ死ぬほどの恐怖をシトリーに植え付けられた周囲の者達が、シトリーの存在を忘れるほどに。

「さて」

 オーガストは全員が生き返ったのを確認した後、小さくそう呟く。
 それに周囲がびくりと跳ねるように動いたが、オーガストは気にせずジュライの方に視線を向ける。

「そろそろ答えは出たかな?」
「・・・・・・」

 未だに迷っているジュライに、オーガストは呆れたようにしながら少し考える。

「とりあえず世界を改変しておこう。君の歩みはそのままに、僕の場所を君という存在に置き換える。気に食わなければ勝手にやり直してくれ。ある程度の悪名はこちらで引き受けておくさ」

 迷っているジュライに、オーガストは面倒そうにそう告げて、答えを聞く前にさっさと世界を改変してしまう。といっても、それは知覚できないほどに一瞬で終わったのだが。

「さ、これでオーガストはジュライに置き換わった。この世界に産まれたのはジュライで、死んだのはオーガスト。解りやすい話だろう?」

 何でもない事の様にそう告げると、オーガストはジュライから視線を切り、シトリーの方に目を向けた。

「それにしても、最良ではないにせよ、よくもそこまで育ったものだ」
「この程度でお恥ずかしい限りで」
「薄々条件には気づいているようだけれど・・・ふむ。少し遅いな」
「申し開きのしようもなく・・・」
「別に気にする必要はない。そもそも本来一人では不可能だったのだから、責めるにしても片側だけでは無意味だろう」
「・・・・・・」

 シトリーは感謝を込めて黙って頭を下げる。

「それに、こちらからは何も言っていないからね。まあ十分な成果だろうさ」

 オーガストはそれだけ言うと、二人に背を向けた。

「それじゃあ僕は去るよ。そこらの記憶は消しておくが、まあ君達の記憶はそのままでもいいだろう。後はご自由に」
「あっ・・・」

 背を向けたままひらひらと手を振ると、オーガストは一瞬で姿を消す。それにシトリーが声を上げるも間に合わない。
 オーガストが消えた瞬間、謁見の間に漂っていた緊張が緩むと同時に、周囲の者達は生き返って直ぐのような反応を見せる。

「・・・・・・」

 そんな中、ジュライは戸惑いながらも身体の感覚を確かめるように手足を動かす。
 暫くそうした後、ジュライは確認するように近くに居るシトリーに問い掛ける。

「ボクはジュライでいいんだよね?」
「そう仰っていたのだから、その認識でいいと思うよー?」
「そうか。このままペリド姫達に話し掛けても今まで通りという事だよね?」
「多分ねー」
「そっか・・・」

 ジュライは緊張した面持ちで頷くと、先程からジュライの方を窺っているペリドット達の方へと近づいていく。
 シトリーから離れてジュライがペリドット達に近づくと、立ち上がったペリドットがジュライの方へ歩み寄る。

「ジュライさん。助けて頂きありがとうございます!」

 近くで立ち止まったペリドットは、ジュライへと頭を下げる。それに慌てつつも、ジュライはペリドットが自分の事をオーガストではなくジュライと呼んだ事に驚く。それと同時に、オーガストの言葉が真実であった事を知った。
 それからジュライはペリドットと話をしていく。直ぐにアンジュとスクレも加わったが、ジュライがマリルの事を問うと、三人は困ったような表情を浮かべた。
 それにどういう事かとジュライが首を傾げると、ペリドットが話題を変える。

「それにしても凄いですわね! 私を含めてこれだけの数を蘇生させたとか?」
「え?」
「一瞬の事で何をされたのかは分かりませんでしたが、流石はジュライさんですね」

 ペリドットの言葉に驚いていると、アンジュがそう言って尊敬の色を瞳に浮かべる。
 ますます困惑するジュライだが、そこでオーガストの去り際の言葉を思い出した。

(これが記憶を消したというやつか)

 記憶を消しても、蘇生をしたという事実はそのままなのだから、そこを補完する記憶の改変も行われたという事なのだろう。
 納得したジュライではあるが、その補完に自分が使われた事には納得がいかなかった。とはいえ、あの場でオーガストの代わりを務められそうな存在は、ジュライかシトリーのみ。
 しかし、シトリーはむしろ殺戮者という位置付けだったので、あの場での適役はジュライのみであっただろう。
 それも理解しているからこそ無理矢理にでも納得したのだが、オーガストの代役は荷が重すぎる。実際はジュライには一人も蘇生できないというのに。
 スクレもジュライを褒めるが、ジュライは複雑な表情でそれらを受け止める。
 そんな話をしていると、状況を把握した周囲の者達がジュライに畏怖の目を向け始めた。近くから妙な熱の籠った視線を向けてくる者も居たが、それは努めて無視した。
 枢機卿はジュライに複雑な目を向けるも、シトリーが目を向けると、怯えるように目を伏せる。
 それから少しジュライがペリドット達と言葉を交わしていると、顔を拭いた皇帝が話しかけてきた。
 話の内容としては、まずはペリドットの蘇生と治療の感謝。次に周囲の者達への蘇生の感謝。最後に復活魔法については不問に付すという事であった。
 とりあえずジュライはそれに礼を伝えた後、色々と面倒になってきたのでそろそろ戻りたくなる。しかし相手は皇帝である。いくら謁見ではなく面会だとはいえ、面倒になったから、ではさようならとはいかない。
 周囲の色々な視線を居心地悪そうに受けたジュライは、そろそろどうにかしてこの場を脱したいと切に考えてきたところで。

「まぁ、そんな人間のどうでもいい話は要らないんだよ。それよりも、ゴミの始末の方が先じゃないかな?」

 シトリーが皇帝ににこやかに問い掛けると、皇帝はぎこちなくそれに頷く。

「そ、そうだな。まずは罪人の処罰が先だな」

 皇帝はそのまま視線を兵士に取り押さえられている男の方へと向ける。
 ペリドットを刺した男は、悔しそうで憎々しげな目でペリドットを睨むも、その視線を遮るようにスクレが前に出た。

「その者は死罪。だがその前に、関係者について自白させろ。裏もしっかり取るように。だが、たとえ何が出てきてもその者の死罪に変更はない。まぁ、協力的であれば楽に死なせてやるが」

 皇帝の命に、兵士達は男を連行していく。それで一先ず終わりと一息ついた皇帝に、シトリーの不思議そうな声が届いた。

「それで? そこの男は?」

 シトリーは枢機卿を指差しながら、皇帝に微笑みかける。
 それに皇帝はどう答えたものかといった表情を浮かべるも。

「そこの娘を殺した一連の事件の主犯なんだけれども?」
「そ、それは真か!?」
「なら調べてみなよ。ついでにあそこの男もグルだから」

 シトリーは玉座の置かれた壇の下で様子を窺っていた壮年の男を指差して、そう告げる。
 それに皇帝が目を向けると、近くに居た兵士達が男を捕えた。

「さぁさぁ、君達がどういう判決を下すのか楽しみだねぇ」

 シトリーはくすくすと笑うような口調でそう告げると、試すような目を向ける。それに皇帝は少し顔を青ざめさせた。

「それは勿論、厳正に処罰を下すとも」

 顔を青ざめながらも皇帝はしっかりとそう告げるも、シトリーは変わらぬ微笑みを浮かべ続けるだけ。
 そんな両者に顔を向けたジュライは、丁度いいかと思い、シトリーに声を掛けた。

「さて、それじゃあもう用も済んだし、戻ろうか」
「はい」
「もう戻られるのですか?」
「ええ、用も済みましたから」
「また、お会いできますか?」
「・・・さぁ、それはどうでしょうか。もう人間界から出るつもりですから」

 そう言ってジュライは枢機卿に一瞬目を向けてから寂しげに笑う。

「そんな!!」
「それでは・・・ああ、一応お伝えしておきますが、最近は人間界の外は何かと騒がしいのでお気をつけて。それではこれで」

 ジュライはそれだけ言い残して転移でその場を後にする。転移先は西の森の先に広がる荒野。
 うっかり転移先の確認どころか転移先をシトリーに話すのも忘れていたジュライだが、転移してみれば当然の様についてきていた。
 それに驚くも、プラタで慣れていたのもあり、それを表に出す事なく周囲を見回す。

「・・・しかし、人間界を出るのであれば、世界の改変は断ればよかったかもな」

 オーガストが行った、オーガストの立ち位置をジュライと置き換える世界の改変を思い出し、ジュライはそう呟いた。
 再度周囲を見渡したジュライは一つ息を吐くと、さてと小さく口にする。

「人間界を出たのはいいけれど、これからどうしたものか・・・」

 人間界に未練はないのだが、かといって何かしら目的があって外に出た訳でもないので、何かしらの目的を考えるところから始める必要があった。

「ジーニアス魔法学園の方は・・・まあ大丈夫だろう。居なきゃ居ないで勝手に退学手続きするだろうし」

 各門に派遣しているジーニアス魔法学園の生徒が、ある日突然帰ってこなくなる。そんな事はよくある話だ。珍しくもない。
 そんな事がよくあるので、ジーニアス魔法学園は任務によって定められた日数連絡や報告が無い場合、該当生徒を死亡扱いにして処理する。今回もそれと同様の処理がなされるだろう。もっとも、駐屯地に到着してから消えているので、ペリドット達が報告しなければ失踪扱いになる可能性も在るが、その場合も結局は退学扱いになるだけだ。なのでジュライは問題ないと判断して、直ぐにその心配を頭から追い出す。

「家の方も今更な気もするな。元から大して連絡もしていなかったし、ジーニアス魔法学園から連絡がいくかもしれない。最初から何も成していなかった訳だし、何も変わらないだろう」

 他に何かあったかとジュライは思案するが、これといったモノは思い浮かばない。
 その事に少し虚しさを覚えたが、こういう事になったのだからそれで都合が良かったのだと思い直し、これからの方針について考えていく。
 それに、ジュライは最初から人付き合いというのが苦手で避けてきていたのだから、この結果も当然といえば当然である。なので、気にする様な事でもなかった。

「とりあえず、世界を見て回りたいな。死の支配者が色々画策している世界だけれど、それでも今は人間界から離れた世界を見てみたい」
「それじゃあ、このまま森に背を向けて真っ直ぐ進むの~?」
「それもいいかもしれないね。先日ここに来た時は、浅い部分を軽く見て回っただけだったし」

 シトリーの言葉にヒヅキが頷くと、近くにプラタが現れる。現れたプラタは、ジュライへと恭しく頭を下げた。

「新たな旅立ちを御祝い申し上げます」
「ありがとう。でも、そんな仰々しい事でもないさ」

 ジュライは軽く肩を竦めると、頭を下げたプラタへとパタパタと手を振って笑いかける。

「新たな身体も頂いたようで」
「うん。・・・ああ、そうか。この身体の事も調べないといけないのか。今まで通りではないだろうし」

 オーガストがヒヅキに与えた身体は、簡単に言えばオーガストの身体の下位互換。だからといって能力が劣っているかといえば、そうとは限らない。能力によっては、以前と同等に近い性能を有している。ただ問題は、それをジュライが使いこなせるかどうかだろう。

「でもまぁ、こっちの方がいいかな。結局あっちでは上手く能力を使いこなせなかったから・・・こっちでもちゃんと使いこなせるかどうか分からないけれど」

 ジュライの現在の身体は、オーガストがジュライがもしも生きていて順調に成長した場合を想定して調整した身体。ではなく、それを元に性能を上げた特別製。それでも身体能力を含めて元々の能力を考慮したうえで調整されているので、使いこなせないほどではない。ジュライの努力次第ではしっかりと物に出来るはずの代物だった。

「とにかく、直近の目的は荒野の探索とこの身体の能力調査だね!」

 こぶしを握って気合いを入れると、ジュライは森を背に荒野を歩き出す。その後にプラタとシトリーが続く。

「せっかくだし、まずは遠くへ進んでみようかな。もう時間的な制限はない訳だし、好きに出来るって素晴らしい!」

 にこにこと嬉しそうな笑みを浮かべて上機嫌に進むジュライ。そうしながら自身の身体の確認をしていく。確認をするといっても、今まで出来た事が出来るかどうかを確かめるだけだが。
 まずは魔力視。基本なだけに使えないと困るも、基本なだけに誰にでも使える魔法。なので、こちらは問題なく使う事が出来た。しかし視界は同じだが、視野が異なる。今までの視界の範囲に比べると、八割ほどしか視野が確保出来ていない。
 それでも十分広範囲なのだが、今までより狭まった分、ジュライは少し不安を覚えた。
 その次は世界の眼を試してみるが、こちらは上手く発動出来なかった。それに嫌な予感を覚えて貫通魔法を行使してみると、少し先で魔法を行使するので精いっぱい。今まで通りの距離で魔法を発現させようと思うと出来なくはないが、その分かなり威力を落とさなければ不可能。

「むぅ」

 それに困ったように呻くと、ジュライはそういえばと思い出す。

「身体が変わったという事は、情報体として保管していた物はどうなっていたんだろう?」

 とりあえず、無いと思いながらも体内に情報体を保管している場所を探す。

「・・・・・・やっぱりないな」

 それにジュライが困った声を出すと、目の前に赤ちゃんほどの大きさの背嚢が現れる。

「ん?」

 突然現れたそれへと怪訝な視線を向けながら、ジュライは周辺も警戒しながら暫くそれを眺める。

「何も起きない、か? それにこれは魔法道具のようだけれど・・・」

 背嚢が現れた以外に何も起きないようなので、ジュライは警戒した慎重な足取りながらも、調べる為にその背嚢へと近づいていく。
 恐る恐るといった足取りで背嚢に近づくと、ジュライは背嚢を魔力視で観察しながら傍にしゃがみ込む。

「何か棒でも在ったらよかったんだが」

 意味はないだろうと思いながらも、ジュライは背嚢を突いて安全を確かめるための棒があればと残念に思う。周囲を見渡してみても、草と土しかない。他に石が在るも、石を投げて安全を確かめるのは、何故だか気が引けた。
 しゃがんだジュライは暫く逡巡した後、意を決して背嚢に手を伸ばす。
 手を伸ばして背嚢に触れると、そのまま背嚢を持って確認する。暫くそうした後、背嚢を開けて中身を確認してみる。

「これは・・・中の空間を歪めているのか」

 背嚢の中の空間を捻じ曲げて、容量を増やしている魔法道具。それはジュライでも作製可能だが、今ジュライが手にしている背嚢は、ジュライが作製可能な魔法道具の遥か上をいく魔法道具であった、

「この魔法道具は、一体どれだけの収納量があるんだ!?」

 魔力視で調べてみても、かなり複雑な魔法が背嚢に組み込まれているのが確認出来る。それはあまりにも高度で、今のジュライではおよそ再現など不可能な代物。そんな物を作製出来る者には一人心当たりが在るも、単に他にジュライが知らないだけという可能性も在る。
 ジュライは恐る恐る真っ暗な背嚢の中に手を突っ込むと、背嚢の中から物を取り出してはそれを横に置く。そうして取り出した品々を見たジュライは、驚愕の声を上げた。

「えっと、筆記用具に本に帽子に魔法道具に服に乾パンに・・・って、これボクが情報体として保管していた物じゃ?」

 見覚えのある物ばかりが出てくる事にジュライは驚くと同時に、その背嚢が誰から送られてきたのかを確信する。

「やっぱり兄さんか。保管していたボクの荷物をこれに詰めて送ってきたと。これからはこの背嚢を情報体代わりに使えばいいのかな?」

 情報体として保管していた時に比べるとかなり不便ではあるが、それでも上限不明の大容量の魔法道具はかなり貴重だ。情報体として保管する事が出来なくなった以上、最高の贈り物だろう。
 ジュライはオーガストに感謝しながらそれを受け取ると、出した荷物を仕舞い直す。あれから更に幾つか取り出してみたが、中に入っているのはジュライの物で間違いなかった。
 手探りで背嚢の中を調べた感じ、情報体として保管していた物は全て入っているのだろう。そうして中身を調べた後に仕舞っていたところ、突然頭に背嚢の中に何が入っているのかが浮かんできた。

「な、なんだ突然!?」

 一瞬クラっとして頭を押さえると、ジュライは目をしばたたかせて事態の把握に努める。
 そうしてやっと、脳内に背嚢の中身の一覧が浮かんだのを理解して、少し怪訝な表情を浮かべた。

「これは一体どういった技術だ? ・・・全く分からないな」

 背嚢に組み込まれている魔法も高度な魔法で、それを再現させるにはジュライではかなりの時間を要するだろう。まずは解析から行わなければならないのだから。
 そして、それを組み込むなど狂気の沙汰にも思えてくる。少なくとも、ジュライが背負った背嚢のような小さな媒体に確認出来た魔法を組み込むだけでも、ジュライでは到底不可能。もしもそれが可能なのであれば、腕輪とは言わないまでも、籠手ぐらいになら復活の魔法を組み込む事が出来るだろう。

「それに、背嚢の素材は至って普通の糸なんだよな・・・」

 それこそ人間界で安価で購入可能な普通の糸が使用されているので、見た目だけ同じ背嚢を創る事は非常に簡単だ。だが逆に、そんな普通の素材にどうやって超常の魔法を組み込んでいるのか。それがジュライには謎であった。

「容量が絶対的に足りないはずなんだけれど・・・」

 不思議そうにそう呟くと、ジュライはぶつぶつとあーでもないこーでもないと呟きながら荒野を進んでいく。
 そうして暫く歩みを進めたところで、ジュライはふと気がつく。そういえば、背嚢が出現した瞬間がやけに丁度良かったと。

「偶然、という可能性は限りなく低いだろうから・・・監視されている? いや、兄さんであればそれも可能だろうが、そんな無駄な事をする人ではないな。であれば、ボクが情報体について調べたら出てくるように仕掛けられていたのかな? その方法も皆目見当がつかないけれど、兄さんであればそれもまた可能だろう。つくづく格が違い過ぎるな」

 実に何でもありだなとジュライは肩を竦めると、その事を頭から追い出す。今はそれよりも、背嚢の解析の方が遥かに重要な事だ。
 しかし背嚢の解析といっても、組み込まれている魔法の解析ですらかなり困窮しそうなほど複雑で視た事がない魔法。ましてやその魔法を組み込んでいる方法など、僅かにも見当がつかない。

「幾重にも折り重なっている様にも視えるが、元の魔法がこういうモノという可能性もあるか・・・いや、たとえ折り重なっていたとしても、それをどうやって展開させているんだ?」

 ひとつ考えれば幾つも疑問が増えていく。そんな事態にジュライは困ったような表情を浮かべるも、その目は楽しそうに輝いている。
 そうして集中して考えながら移動している為に、ジュライはせっかく来た荒野をほとんど見ていない。それでもまだ現在地は浅い部分なので、一度見た場所も多い。なのでそのままでも問題ないかと、ジュライの後をついてきているプラタは考えるのだった。

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