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第06話 ランレイさんの報告

 
 いつもとは別のルートで戻って来た。
 あの精霊の三人とは会いたくなかったからね。

 それからの一週間は毎日同じ事をしていた。
 朝食を食べたらクラマ達を見送って、馬に乗りマイアのマンドラゴラ畑で少し時間を潰し、北の畑の薬草を管理している妖精からできている薬草を分けてもらい収納。南の畑に行きジャガイモと小麦を管理している妖精から出来た物を分けてもらい収納。

 だって毎日できるんだよ? 本来なら三ヶ月から六ヶ月で収穫なのに、全体では無いものの毎日馬車五台分を妖精が育てて集めてくれるんだ。
 これからそれを運ぶのは【星の家】の子供達になる予定だ。院長先生とも相談したけど、御者の練習にもなるし、下ろすだけだからね。一度試しにやってみたけど、皆、楽しそうにやってたよ。

 倉庫に戻って小麦を出す。倉庫は採って来た物を入れる倉庫とは別に、作業用の倉庫と保存用の倉庫も建てた。
 作業用倉庫に農業ギルドで買って来た農作業機を据えて、【星の家】の子達が稲穂から小麦の製粉まで行なっていた。
 農業ギルドには製粉前の小麦を売るので、袋に入れる作業まで。自分達で食べる分は製粉した物を保存用倉庫で保管する。そこからミニーさんが小麦粉を持って行きパンを作る。
 もう完全に自立できたんじゃないだろうか。

 あとは肉や魚だけど、この世界では動物の肉より魔物の肉の方が美味いらしいので、キッカ達に期待だね。この一週間、レベリング&ダンジョン攻略に頑張っている。
 毎日帰って来てるんだけど、ここのダンジョンは各階層にフロアボスがいて、そいつを倒すと地上への転送魔法陣が出るそうだ。フロアボスは一度倒すとボスがいた部屋がセーフティエリアになって、元ボス部屋には魔物が出なくなるとクラマが言ってた。
 また途中の階層から始められるから、一度家にも戻って来れると嬉しそうにヤスが言ってた。ダンジョンに挑んでいるのに毎朝毎晩食堂で飯を食って、風呂にも入ってベッドで寝れるという事は有り得ない事らしい。

 何階層あるのかは分からないけど、今は四十階層を制覇したとこらしい。
 ただ、ダンジョンに出て来る魔物は、倒すと魔石だけを残しダンジョンに吸収されるそうだ。
 ダンジョンでの魔物肉は期待できないのかと思ったらそうでもないらしい。魔物を倒すとドロップ品が出て、結構な割合で魔物肉が出るそうだ。

 いいなぁ、俺もそういう冒険者がやりたかったんだよ。
 今、俺がやってることって孤児院経営みたいなもんだからね。
 まぁ、でも、そのお陰で、色々とこの世界の常識が身に付いたよ。院長先生やシスターのミニーさんにも色々教わって、物価やこの世界の食べ物やこの国の事なんかが大分わかってきた。

 それで、今日は第一回目の出荷をするんだ。
 荷馬車も五台増やして、荷馬車も一頭立てのものに改良した。
 小麦もジャガイモも一袋十キロにした。三十キロだと子供達が持てないからだ。
 もちろん袋は衛星に作ってもらったよ。頑丈な物をって言ったから、たぶん魔物の皮で作ったんだろうね。少々放り投げても破れる事は無かった。

 それぞれの荷馬車に五十袋ずつ積み、十台の荷馬車で出発した。
 先頭は馬に乗る俺。馬車の先頭は院長先生。後に続く馬車には年長の子供達が操縦している。
 通る道は嫌だけど三精霊が守る俺が作った道。もちろんトレントもいて、道を隠している。
 馬車が通るとザザーっと避けて行く。最後の馬車が通り過ぎるとまたザザーっと道を隠していく。
 なんかトレントが増えてる気がするのは俺の気のせいという事にしておこう。三倍で利かない気はするが、うん、気のせい気のせい。


 町に着くと、全員市民カードで入門する。俺だけが冒険者カード。
 目指すは農業ギルド。本当は俺だけ別れて冒険者ギルドに行きたかったんだけど、院長先生も農業ギルドは初めてだと言うし、孤児院には関わるなっていうのがまだ有効だったら嫌だったので、俺も付いて行く事にした。

 院長先生も含めた、今日来た十人全員が農業ギルドの登録をした。
 事前に孤児院の者ですと言ったけど登録できたって事は、もう孤児院の者だからって事で売ってくれないとか売らせてくれないって事は無さそうだ。

 持って来た物を見てもらった。
 ジャガイモと小麦を2500キロずつ。合計五トン。十台の馬車に積んで来た。
 最高の出来だと褒めてもらったジャガイモと小麦は、どちらも十キロの袋を銀貨二枚で買い取ってくれた。それが250袋ずつ、しめて銀貨1000枚。金貨に換金して金貨10枚で売れた。

 あと、ジャガイモと小麦を入れて来た袋にも値段が付いた。
 500枚で金貨10枚。中身と袋が同じって……なんとも微妙な気持ちにさせてくれたよ。
 次回からは、ここで買った袋を使う事にしよう。1000枚買っても銀貨五十枚だったよ。

 ジャガイモも小麦もまだまだ倉庫にあるが、毎日これだけの量を持って来ると価格破壊が起こってしまいそうなので、一か月に二回持って来る事にした。
 【星の家】の月収が農作物だけで金貨二十枚。まだ薬草もある。【星の家】の人達が暮らすには十分な金額だと思う。

 だって食の心配は無いんだし、寝る所もある。風呂もあるし、トイレも水洗にしたので綺麗だ。
 馬の餌だって、少しぐらいならジャガイモを混ぜたっていい。麦の穂だって食べる。後は畑の周りの草でも食べるだろう。麦の藁もあるしね。
 必要な物は服や生活用品ぐらい。それも今は全部揃ってる。無くなったら補充していくだけ。もう俺がいなくても十分やって行けるだろう。

 いや、別に出て行くつもりは無いんだよ。家だって【星の家】の横に建ててるし、風呂だって大浴場で気持ちいいし、マイアがマンドラゴラとアルラウネの事に付きっ切りになってるから、どこかに移住するという選択肢は今の所ないんだけどね。
 ただ、自立さえできてれば、色んな選択肢が見えてくるわけで、毎日の食事にも困っていた時のようにならなくするのは最低条件。これから巣立って行くであろう子供達に色んな選択肢を与えられるようにもしたいよね。
 それが、俺の手から離れても出切るようになれば尚いいよね。

 畑もマイアが呼んだ妖精のお陰で反則級に良い物が短時間で多く育ってるから、収穫や格納が大変なぐらいだよ。これも異世界だからこそだと割り切れば、#疾__やま__#しい気持ちも無い。
 使えるものは何でも使えばいいんだよ。それで子供達の未来が明るければいいんじゃない?
 世界を救うって気持ちは全く無いけど、目の前で食べる物にも困ってる子供になら使ってもいいよね。見捨てる方が人間としてダメだと思うよ。


 搬入も含めた納品の方は任せて、俺は冒険者ギルドに向かった。ランレイさんに約束のケーキを届けるためだ。
 もちろんアイファの分も用意してるよ。
 だってさぁ、また焼きもち焼かれちゃったらさぁ、アイファが可哀相じゃん。グフフフ

 今までは皿に乗せただけだったけど、ケーキ用の厚紙の箱を衛星に作ってもらって、一つ一つ入れている。この世界で紙は貴重らしいけど、俺には関係ない。頼めば衛星が作ってくれるんだから。


「アイファ、これどうぞ」
 早速、アイファの窓口でケーキを渡した。
「わっ、これ紙の箱じゃない。どうしたのこれ」
「箱はいいから中身だよ。イチゴケーキが入ってるから」
「う、うん。ありがとう」
「で、今日もランレイさんを呼び出してほしいんだけど?」
「…私はランレイさんの呼び出し係じゃありません!」

 なんか怒った? でも、それならどうしたらいいんだよ。窓口は絶対ここだと言うし、俺はランレイさんを呼び出してほしいし。でも、ランレイさんの呼び出し係じゃないって怒るし。
 でも、これも焼きもちだと思えば我慢もできるってもんだよ。

「じゃあ、隣に行って頼もうかな」
「なんで隣に行くのよ。ランレイさんを呼び出す前に何かあるでしょ」
 何かってなんだよ! ちゃんと言ってくれないと分かんないよ。

「えーと、今日も耳が素敵だね?」
「バッ! なんでそうなるのよ。しかもなんで疑問形なの⁉ 依頼の話をしてたでしょ。ちゃんと見つけてあげたんだからね、感謝しなさいよ」

 アイファが一枚の依頼書を出してくれた。
 珍しく封書の依頼書だった。表には護衛依頼と書かれてて中は開けないと見れないようだ。

 確かに護衛は俺向きかも。だって魔物に襲われる事が無いんだから。
 盗賊も、もう二回撃退したんだから何とかなりそうだし、うん、いいんじゃない?

「ありがとうアイファ! これは確かにいい依頼だよ」
「あんたはまだDランクだけど、私は早くもっと上に上がってほしいんだからね。この依頼は人気の依頼だったんだけど、私が押さえといてあげたんだからね」
「うん、本当にありがとう。また今度おごるよ」
「ま、当然ね。私の次の休みは明後日よ」

 それって明後日に誘えって事かな?
「今のとこ俺も予定は無いし、じゃあ、明後日に食事に行く?」
「あんたがどうしてもって言うんなら、付き合ってあげてもいいわよ」
 このやり取り面倒くさいんだけど。

「……ハイ、ドウシテモデス」
「なんか嫌そうにした?」
「いえいえいえいえ、とんでもない! 是非お願いできませんか」
「そこまで言うなら仕方が無いわね。明後日よ」
「ハイワカリマシタ」

 明後日にアイファと食事ね。前回みたいに忘れないようにしないとな。
「それで、ランレイさんを呼び出して頂けますか?」
「仕方が無いわね、ちょっと待ってなさい」

 アイファは席を立ち、後ろの職員に何やら伝えている。アイファに話し掛けられた職員がすぐに席を立った。
 呼びに行ってくれたんだな。これぐらいならすぐにやってくれてもいいのに。今の話をしている間にランレイさんが来てくれたんじゃない?

 ま、これもモテル男の宿命か。ムフフフ


 ランレイさんはすぐに来てくれた。で、例によって別部屋へ。
 そこで、ケーキを三箱出して前回の約束を果たした。後は、依頼した領主の件の報告を聞くだけ。
 早速ケーキに貪り付いてるランレイさんを待って、報告を聞いた。
 ホントよく食べるよ。ランレイさんって見た目普通なのに、よく入るね。甘いものは別腹ってレベルじゃ無いと思いますよ。

 ランレイさんは、ケーキを一ホール食べ終えるとようやく話し始めてくれた。
 後から出せば良かったかな。でも、無理なんだろうな。結局、出せって強要されて出す事になったんだろうな。

「結論から言うとね、やっぱりイージの事だったわ」
 そうだろうね、俺もそう思ってたよ。

「領主様は直接お礼が言いたいと言ってたの」
 そうだろうね。やっぱり断れなかったのか。

「でも、キチンと断って来たわよ」
 おお! ランレイさん、いい仕事しますねー

「ただ、条件を付けられたのよね。それは断れなかったわ」
「条件?」
「ええ、護衛依頼を出されたの」
 護衛依頼!? どっかで聞いたような……嫌な予感がするような……

「領主様が指定した馬車の護衛をする仕事なんだけど、アイファから聞いてない? イージが来たら伝えるように言っておいたんだけど」
 やっぱりか! ええ、ええ、聞いてますとも。「人気の依頼」だとか「取っておいた」だとか言われましたけど、嘘だったのか。すぐにバレる嘘をつくんじゃねーよ!

「あら? アイファに何か言われた? この依頼ってイージに合ってると思うから、イージに言ったら評価が上がるんじゃない? って言ったんだけどねー」

 え……俺からの評価を上げたいんすか? だったらそういう嘘もつくよねー。評価っすか? そりゃ、もう上がりまくってますよー! そうっすか、そういう事だったっすかー。デヘヘヘ

「これって領主様からの依頼だけど、受けてくれるわよね?」
「は、はぁ」
 そうなんだよな、領主様からだったんだ。何か裏がありそうだよなぁ。

「アイファから依頼書を受け取ったんでしょ? それならアイファには受けるって言ったのよね? アイファに断れるの?」
「無理っす! 受けさせて頂きます」
 そんな恐ろしい未来は想像したくもありません。命の危険を感じます。

「じゃあ、また明後日に来てくれる? これから依頼を受けると先方に伝えてからになるから、詳細が来るのは明後日ぐらいになると思うから」
「詳細ですか?」
「ええ、これは指名依頼でもあるから、こっちがOKを出した後、詳細が来る事になってるの」
 指名依頼!? そんな事アイファは何も言ってなかったぞ!

「あっ、アイファには指名依頼の事は伝えてないわよ。まずはあなたが受けてくれない事には始まらないでしょ? 指名依頼だとアイファも遠慮して言えないかと思ったのよ。だって、アイファはいつもあなたが来るのを待ってたのよ」
 待ってたっすか! 俺が来るのを待ってたっすか! ランレイさんも気を使ってくれたんすねー
 いいっすよ、全然いいっすよ! 護衛依頼? 指名依頼? やらせて頂きましょう!

「じゃあ、依頼を受けるという事で先方に連絡するから明後日に来てもらえる?」
「当然です! 俺がやらないで誰がやるというんです。明後日と言わず、明日も来ましょう!」
 何も用事はないんだけどね、アイファが待ってると言うなら顔を見せるだけでも来てあげたいじゃないか。

「いい情報だった?」
「はい!」
「じゃあ、またケーキを持ってきてくれる?」
「はい! 喜んで!」
「そういえば、アイファってネックレスが欲しいって言ってたかな」

「じゃ、俺は行く所がありますので失礼します!」
 ランレイさんに挨拶をすると、冒険者ギルドを出て、アクセサリー屋を探すため町に出て行った。

 一人残った部屋でランレイさんが一言。
「やっぱりイージを#揶揄__から__#かうって楽し~。もうこれは辞められないわね。次はどんな事をしようかしら」

しおり