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ぶっ壊れの片鱗

『さあ、ここがモデルルームの入り口だよ』

「入り口って言ったって何も無いじゃないか?」

『秘密基地の入り口って奴は見つけづらいものだろ? だけどいざって時に見つけられなくて入れなかったら意味が無い。 だから目印を付けてある、ほら頭上に赤い点が光っているのが見えるかい?』

 ボッチに言われて上を見ると確かに赤い点の様な物が光っていた。

『今度は私の手を握ってくれ』

「何でお前の手を握らなくちゃならないんだ!?」

『ほらこのスキルを作る際に加えただろ、【君が認めた女の子も一緒に入れる様にする】って。 一緒に入れる様にする条件は【手を握りながら入る】だ、これなら違和感無く女の子と手を握れるだろ?』

 渋々ボッチの手を握るとボッチの顔が赤くなる。

「おい、何顔を赤くしているんだ。 俺は男だぞ」

『でも、今はもう女の子だよね? 初めて女の子と手を繋ぐ事が出来るなんて生まれてきて本当に良かった~!』

(そういえばコイツ、4億年もの間彼女神(ハニー)が出来なかったと言っていたな。 実際の所、コイツはかなりヤヴァイ神なんじゃないのか?)

 自分の事は棚に上げているセラである。



『手を繋ぎながら近付くと…ほら、こんな感じで入り口が開くのさ』

 ウィーン。 家の庭に突如自動ドアの様の物が現れると左右に開いた、そしてその自動ドアの先には通路の様なものが見える。

『中にさえ入ってしまえば、手を繋いだままでいる必要は無い。 そしてドアの先にはこちらの世界からの攻撃は一切届かなくなるので、攻撃されながら追われていても安心だ』

 それは有難い、セラがボッチと一緒にドアを潜るとまず始めに大き目のエントランスが出迎えてくれた。

『元の世界に戻る際に色々と装備の確認をしたりする事も有るかもしれない、だからエントランスは大きめにしておいた。 良ければ次の場所を案内しよう』

 エントランスをずっと眺めている趣味は無いので次の場所へ向かう事にする、正面の通路を5mほど進むとT字路となっていた。

『ここを右に曲がると居住区画、左に曲がると訓練場となっている。 まずは居住区画から見てみよう』

 T字路を右に曲がってまた5mほど進むと薄いピンク色で染められた自動ドアが有った。 その先には30畳ほどの長方形のリビングとなっていた。

『居住の中央はリビングとなっていてその内8畳位がキッチンスペースだ、そして左右3部屋ずつ私室を用意してあり奥の扉の先には大浴場と洗い場を備えている。 サウナも完備してあるぞ』

(いや、これどう見ても居住区というよりも普通に家だろ?)

『それとトイレは各部屋と大浴場にも1つずつ設置済みだ、君の世界に有ったウォシュレットも真似てみたんだがどうだろう? 折角なので音姫もオマケで追加した』

 この世界のトイレは未だに共同で、貯めて肥料として使ったりしている。 そんな世界に水洗トイレやウォシュレットと遭遇した女の子達は一体どんな反応を示すのだろうか? セラは不安を覚える。

『居住区の説明はこれ位にしておいて、今度は訓練場の説明だ。 最初見たら絶対に驚くぞ』

 やけに自信満々のボッチ、その自信は訓練場の中に入ってみて納得した。

「……なんだコレ?」

 目の前には広大な草原が広がっていた、どうやらこの訓練場は更に別の空間に繋いであるらしい。

『この訓練場の凄い所はな、戦場の設定だけでなくモンスターの種類や数も変えられる事にある』

 ボッチがリモコンを取り出して操作すると、岩山や海岸はては溶岩地帯まで様々な場所に変化を遂げモンスターもゴブリンやオークにクラーケンまで出る始末だった。

『これで16歳で村を出たとしても色んな場所の戦闘に即応出来る筈だ、活かしてくれると嬉しい』

「まさか、ここまでの物になっているとは思わなかった。 何日も籠城だって出来そうだな」

『ああ、1つ言い忘れていた。 私室には冷蔵庫と電子レンジも設置してあって、冷蔵庫から出した食べ物も自動的に補充されるので餓死の心配しなくて良いからね』

 セラは正直な感想をどうしても言いたくなった。

「ボッチ、一言だけ良いか?」

『良いとも、何だい?』

「やり過ぎ」



 その後リモコンの操作の仕方等を教えてもらい、セラは試しに訓練場のモンスターと戦ってみる事となった。

「でも俺武器を持っていないぞ」

『やっぱり大事な事を忘れてる、あの時君に2つの卵を渡したじゃないか』

「あっ!そういえばそうだ」

『それを取り出して練習すれば良い、この世界ではレベルとかは特に無い。 力を使って戦えば力が魔力を使えば魔力が少しずつ上がっていく、体力や素早さは動いていれば自然と増していくよ』

 心の中で念じると卵が1つ現れた、まずはメインとなる武器を生み出す事から始める。

『あれ、卵1つだけで良いの?』

「うん、防具と武器の一体型を作ろうと思うんだ」

『へぇ~先々の事まで考えているんだね』

 ボッチはこの時にセラを止めなかった事を後悔した。

(材質はミスリルとオリハルコンの合金で白く輝く様にして、ホームベース型だけど角を丸くしておく。後は…)

 細かい設定を入れて卵に手を触れると殻にヒビが入った。

『おめでとう、君だけの武器の完成だ!』

 殻を割っていくと中から現れたのは1枚の小楯だった。

『それが君の言っていた一体型の武器? どう見ても普通の小楯じゃないか』

「そう見えるだろ? だけど違うんだなぁ!」

 そう言いながらセラが小楯をコツンと叩く。 するとシャカッ!と軽い音と共に楯の中央が左右に開き、中から6本の筒が円筒形に並んだ物が出てきた。

『それは?』

 一抹の不安を感じてボッチが聞いてみると、セラはアッサリとその正体を明かす。

「これはガトリングガンだ、名付けるならガトリングバックラーか機関銃小楯だな』

 セラがリモコンを操作すると1匹のゴブリンが現れる、それに狙いを定めるとセラは試し撃ちを始めた。

 ドルルルルルル……!

 ゴブリンは一瞬でミンチとなり、空回りする銃身の音がやけに大きく聞こえる。

「弾は自分の魔力その物を撃ち出す、1分間に100発発射出来て威力は魔力の値で固定。 SPが切れるまで連射が可能だ」

 つまり魔力の数値が上がれば上がるほど威力が上がり、更には連射出来る弾数まで増えていく事となる。

「今はまだ120発までしか撃てないから、ここで練習して16歳になるまでに上限到達を目指すよ」

 ガシッ!   セラの肩をボッチが掴む。

『それ絶対にやったらアカンやつでしょ!? 少しは空気読もうよ、ねえ!』

「何かマズイ事をしたか俺?」

 剣と魔法のファンタジーの世界にガトリングガンはぶっ壊れ武器過ぎた、しかもセラにはもう1つの卵が残っている。



『次はきちんと空気読んでくれるよね?』

「すまん、既にヒビが入った状態で後は取り出すだけだ」

 四肢を地面について項垂れるボッチ、せめて2つ目はぶっ壊れでない事を祈るしか無い。

「2つ目の卵を割るのは恐らく試練の時で、まだ先だから安心して良いよ」

(試練の時ってのが不安でしかないです!)

 ここでセラはある事に気付くと、ボッチにお願いしてみる事にした。

「なあボッチ、アイテムボックスと秘密基地は洗礼の時に他の人から確認出来ない様にしてくれないか?」

『どうしてだい?』

「ほら、アイテムボックスは武器や食料を運び放題になるし秘密基地だって使い方次第では悪用させるかもしれない。 だから確認出来ない様にしておきたいんだ」

『言われた通りにしておくから、さっきの武器は出来るだけ使わないでくれよ』

「そのつもりだよ、普段は【怪物創造】だけで何とかなる筈だから」

 スキルの大雑把な説明は1度だけしたが、何故そこまでの自信を持っているのかボッチには分からない。 秘密基地の使い方などを無事に教わったセラは、明日寝不足にならない様再びベッドに戻る事にした。

「【怪物創造】は使い方1つで強力な武器にもなるし、これからの生活にとっても役立つ事までしてくれる素晴らしいスキルだよ。 ボッチの予想を外してしまったら悪いから先に謝っておくけどね」

 何が素晴らしいのかボッチが目の当たりにしたのは、洗礼直後に起きた騒動が原因だった。

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