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「私、いっぱいがんばる……
 コホコホコホ……」

「ああ。
 わかったわかったから」

 もう話さないで。
 これ以上つらい愛の姿を見たくない。

 そう言いたかった。
 だけど言えなかった。
 苦しいはずなのに愛の表情が、あまりにも……
 あまりにもしあわせそうだったから……

「お弁当を作って……
 みんなでピクニックに行くの」

「そうだね。
 みんなで行こうね」

「私にお姉ちゃんとお兄ちゃん。
 そして、私たちの子ども、みんな笑顔なの。
 私が、作ったおにぎりを食べるの……」

「愛は、おにぎりを作る名人だもんね。
 しあわせものだね、僕は……」

「うん。
 それでね、それで……」

 愛が、とても苦しそう。
 話すたびに「ハァハァ」と息を切らしている。
 頼むから、もう話さないで。
 お願いだから、話さないで。
 話すから苦しいんだよね?
 話すのつらいんだろ?
 元気になったら、いっぱい聞くから。
 いっぱい話せるんだから。
 今は……

「それでね。
 それで……」

「うん」

「お兄ちゃん」

 愛は、苦しいはずなのに苦しい顔など一切見せず。
 ひたすら笑顔を貫いた。
 愛は、大きく息を吸い込んだ。

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