バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

第42回「穴ぐらから地上へ」

 光の渦を抜け、世界が再構築される。取り立てて特徴のない、灰色の壁に囲まれた小部屋に出た。

「ここはどこだろうな。ピアソン地区って言えば、他国からの移民が多い街だが」
「地下室のように見える」
「地上に出てみるまでわからんね。行ってみよう」

 僕はプラムを従え、木製のドアを開けた。階段があった。別に罠の心配もなさそうなので、圧迫感のある階段を上っていく。上りきった先にはまたドアがあったので、これを開ける。
 はぁ、とついため息を出してしまった。そこには別の転送装置があったためだ。

「また別の転送装置がある」

 プラムも状況を確認したようだ。

「魔力が内在されている、短距離を飛ばすやつだ。魔法使いの家にはたまにあるもんだが」
「どうする。遷移先は三つあるぞ」

 そうなのだ。今度は石が三つ置いてあった。幾何学模様は黄色い光を淡く放ち、すぐにでも使える状態になっている。僕が魔力を込めずとも、すぐに飛ばせるようにできているわけだ。

「悩んでたって答えが浮かんでくるわけがない。道路標識もないんだから、踏んでみるしかないな。君の希望はあるかい、プラムくん」
「私は判断を委ねる。もし、どうしようもない場所に飛んだら、その時は無責任にお前を罵倒する」
「いい性格だ。僕そっくりだ。じゃあ、僕がポイントマンになって、ちょっとだけ向こう側を覗いてくる」

 こういう時は斥候を使うのが一番だ。僕はその役を買って出た。
 まずは左の石。飛んでみると、民家の中らしい。窓からは光が差し込んでいて、そこにあったドアの向こうから笑い声が聞こえてくる。誰かいるようだ。食器に食具が触れる音がする。もしや食堂だろうか。
 いったん戻って、今度は真ん中の石。洞窟の中に出た。目の前には鉄格子がはめ込まれている。子どもがうっかり迷い込まないようにしているのかもしれない。別に壊して出てもいいかもしれないが、あまりここを使う意味はなさそうだ。
 また戻り、右の石。真っ暗だった。光魔法を使うと、いくつもの棚の中に骸骨が入っているのが見えた。どうやら地下墓地のようだ。ルスブリッジと同じように、どこかの教会の地下なのかもしれない。僕はこういう雰囲気が嫌いなので、そそくさと退散した。

「よし、左へ行こう」
「わかった」

 帰ってきた僕の決断に、プラムはすぐに従ってくれた。理由や遷移した先を訪ねない優しさが身にしみる。もっとも、僕としても真実を隠す気はなかったから、素直に応じる所存ではあったのだが。

しおり