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第5回「ふわとろ~ん♪」

「お兄ちゃん! 学校でスケベしまくって村八分にされたってホント?」
「誰から聞いたんだ、誰から」
「あのお姉ちゃんから」
「やあ、ナイトメア。今日から私も君の家で住むことにしたよ」
「すごいよね! 女神様なんだって!」
「ムールナよ……。お前、俺の人生を変えただけじゃなくて、妹の人生まで変えたいのか」

 ふわとろ~ん♪

「ちなみにだが、私はすごく料理が上手い」
「何なりとお申し付けください、ムールナ様」
「お兄ちゃんの変わり身早い!」
「男は胃袋とは言うが、即落ちしすぎだろう……」
「いや、美織の料理のバリエーションって限られてるから。おいしいんだけどね」
「ひどいなあ。これでもいろいろ考えながら作ってるんだよ?」
「反抗期にもかかわらず、健気に兄に尽くしてくれてるのは感謝してるさ。だが、食欲と性欲は正直なんだ。そういうわけで、このふわとろオムライスをいただく」

 ガッガッガッガッ!

「うめえ! 今まさにジェリコのラッパが鳴った気がする」
「世界が滅ぶだろうが」
「私もムールナさんに教えてもらわなくちゃなぁ」
「お前の場合、発育が良くなる方法を教えてもらった方がいいな」
「お兄ちゃんスケベだから、それは遠慮しておこうかな」
「地味にショックだわ……妹からそんな目で見られていたなんて。これも全部ナイトメアとかに改名させたやつのせいだ」
「いや、どう考えても君の日頃の行いのせいだろう」

 ピンポンピンポン♪

「ん、誰だこんな朝っぱらから」
「私が出てくるね」
「頼むわ」
「君と彼女は同じ両親から生まれたのか? あまりにも出来に差がありすぎるようだが」
「そのあたりはいろいろ理由ありでね。話せば長いことになる」
「寝物語にはもってこいってところか」
「聞いてて気持ちの良くなる話じゃないな。夢見も悪くなるぜ」
「それは嬉しくない。寝る時は何よりも自由でなければ駄目だ。緩やかな死の体験……それこそが眠りなのだからな」

 バタン。

「うらやましいよ。俺はどうもゆっくり眠れたことがない。記憶にある中でも、安眠や快眠って経験をした覚えがない。一度ぐっすりと眠ってみたいもんだが、案外死ぬ時だったりしてな」
「そういう時にこそ擬音の力を使え! 『スヤァ……』や『むにゅふわ……』といった力を発動することで、天上の心地で眠ることができる」
「なるほどな、その発想はなかった。今夜ぜひ使ってみよう」
「それに、君は一度死んだだろう。『死に心地』は良かったか?」
「どうかな。何もかもふわっと消えた感じだったし。あれが安眠ってやつなら、期待してたほどじゃなさそうだ。……にしても、美織のやつ、遅いな」
「しつこい勧誘でも来てるのかも」
「見に行く」

 ドォォォォン!

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