バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

第25話 警戒すべき?

 まさか、昨日の今日でヴィンクスさんと会えるなんて思わなかった。
 だけど、さっきからなんだかそわそわされている?

「……き、今日のところは、これで」
「え、あの」
「すまない、また来るっ」

 僕が呼び止めようとしても、彼は立ち上がるとすぐに走り去って行った。
 あまりの速さに思わずぽっかーんってなっちゃったけど、隣にいたカミールさんは大きくため息を吐いていた。

「あれだけ逃げ足は速いのに……一度気絶させて吐かせた方が良かったかしら?」
「カミールさんそれはやめてください!」
「そう?」

 穏やかな基本の女性でも、さすがはロイズさんの奥様だからか肝っ玉が据わっています。
 だけど、どんな相手でも抵抗関係なく気絶は心臓に悪いので、頼み込みました。何度かお辞儀をすれば、彼女は持ってたフライパンをどこかに仕舞ってくださった。

「スバルちゃんに免じて、今回は深追いしないでおくわ。さて、お夕飯の買い物もあるしパンも買わなくちゃ」
「ママー、まだぁ?」
「お、おしっこ……」
「ジュディはいい子してて。ごめんなさい、スバルちゃんのお宅のトイレ借りていいかしら?」
「わ、私が連れて行きます!」

 カミールさんは僕の性別を知ってても、店先なので不用意に一人称を使えない。
 そして、子供のおトイレは時間差勝負なので、急いでユフィ君を抱えて連絡通路を走る。

「せ、セーフ……」
「……お、お兄ちゃん、ありがとう」
「いーいよ」

 子供だけど、ユフィ君やジュディちゃんは僕の秘密を少し知っている。
 いつまでこの街や世界に滞在するかはわからないが、ロイズさんが保護者なうちは彼の庇護下らしい。なので、ご家族にも僕の性別をちゃんと話してくれた。
 レイシーさん達は事後報告だったけど、カミールさんや子供達にはきちんと話しても、引いたりされることはなかったです。
 むしろ、エリーちゃんと違うお姉さんとお兄さん両方が出来たって喜んでくれました。

「はい。終わったらお手手洗おうか?」
「うん」

 手洗いも済ませてから抱っこで戻ると、カミールさんはもう会計を済まされていた。

「ありがとう、スバルちゃん。さあ、二人とも。今度はお夕飯の買い物よ?」
「はーい!」
「は、はい」
「また来るわね。それにしても、お祭りが近いから装いが可愛らしくなったのね」
「エリーちゃんと頑張りました」

 昨日までに作ったポップやモールの飾りは、今朝の仕込み後に準備して開店までに間に合わせました。
 パンの棚の方には、パンや動物オーナメントや針金花のポップ。
 トレーの下には僕が手縫いしたカラフルなマット達。
 天井にはモールや切り絵の飾りなんかを吊るしています。

「エリーちゃんは昔から手先が器用だけど、スバルちゃんもなかなかね?」
「カミールさんもそー思うだろう? スバルちゃんはなんでも出来るんだねぇ」
「お嫁の引き取り先が引く手数多だわ」
「「「ねー」」」

 他の奥様方に混じってるけど、カミールさんは絶対楽しんでる!

「スバルも苦手なの、ひとつだけあったよね?」
「い、言わないで!」

 出来るだけ言いふらしたくないからだ。
 奥様達には当然聴こえてたけど、なんとか誤魔化してご帰宅していただきました。
 カミールさんもジュディちゃん達を連れて次のお買い物へ。見送ったら、ちょうど店内には誰もいなくなったので。

「エリーちゃん、ヴィンクスさんについて聞いてもいい?」
「もち。そう来ると思った」

 ただ仕事をしないわけにもいかないから、トングとトレーの補充と乾拭きをしながら話すことに。

「ヴィンクス=エヴァンス。見た目はああだけど……アシュレインどころか、サファナ王国じゃ五本の指に入るってくらいに腕利きの錬金師だよ」
「エリーちゃん怖い?」
「正直……男以上に不気味で苦手っ!」

 恐怖症対象者以上の物件だったようだ。

「……けど、まあ。悪い人じゃないのはわかってる。ロイズさんの親友だし、あの時も助けてもらったから」
「そっか」

 カミールさんが心配するくらいだから、見た目はともかくいい人なんだろう。
 話はまだまだ続いた。

「錬金師にも種類があるようだけど、ヴィンクスさんの場合はポーションがメインらしい。作ろうと思えば攻撃力の付与くらい簡単だけど……悪どい連中とかには死んでも売らないとかって、ここ数年は売る人を選んでるらしいね。それと極度の研究中毒者で、今日みたいに日の下に出て来るなんておったまげたよ」
「んー、マッドサイエンティスト?」
「なにそれ?」
「研究熱心な人らしいけど、熱中し過ぎて方向性が飛び跳ねてるとか?」
「それだっ」

 いい単語を言ってくれた、って感じにエリーちゃんは拭いてたトングで僕を指した。

「けど、ロイズさんが昨日の今日で話したにしては」
「来るのが早いよね? お店?ってどこなの?」
「冒険者ギルドの裏路地街。何度か運搬の依頼で行ったけど……めっちゃ雑な店だった」
「想像しやすいね……」

 マッドサイエンティストによくあることだ。



 カララン、コロロン




「「いらっしゃいませ」」
「こんにちは、スバル嬢にエリー嬢」
「こんにちは、イレインさん」

 今日も素敵に眩しい笑顔でのご登場です。
 ただ、エリーちゃんはさくっと裏に回りたいのか、すでにトングとトレーをスタンバイしてました。

「……ご注文はいつもので?」
「ええ、お願いしますね。そう言えば、ご婦人方が新作を試食されて美味しかったと言っておられましたが」

 エリーちゃんがささっとクロワッサンを持って裏へ行くと、イレインさんがラスクのことを聞いてきた。
 なので、僕はトング置き場の隣にある試食コーナーへお連れした。

「パンの再利用と言いますか、食パンやバタールで作ったお菓子です」
「これは、たくさんありますね」
「お好きなのを召し上がってください」

 用意した味は、ガーリックバター、二種類のチョコ、キャラメル、バジルチーズ。
 試食しやすいタイプにして、紙袋に500gで銅貨10枚。
 金額を日本円に換算すると、だいたい500円前後です。
 開店までに貨幣事情を頭に叩き込むのは、本当に大変でした。
 さておき、イレインさんは全部一つずつ召し上がっていましたが、最後にガーリックバターのを食べたら軽く目を開いた。

「これは……目の疲れが少しずつ抜けていきますね」
「えっと……ガーリックバターの補正は」



************************



【スバル特製ラスク】


《ガーリックバター(バタール・食パン)》
・二、三個食べれば軽い目の疲れが吹っ飛ぶ!
 →食べ過ぎには注意、逆に目が冴えちゃう……
・塩っぱいラスクの代表。バターの甘ーい匂いとニンニクの香りが食欲をそそること間違いない!
*仕上げにパセリを振ることで、補正効果が5%upするかも!
・保存日数は五日



************************




「なるほど。食べる量を調整すれば、書類整理の者には重宝されますね」

 一袋じゃ衛兵さん達に回らないからって、三つも購入してくださいました。あと、同じく今日から販売した揚げ餡サンドもいくつか。
 それから、裏で震えながら待機してくれてたエリーちゃんと一緒にクリームサンドの方を仕上げ、お会計を全部済ませたらイレインさんはいつも以上に大荷物に。

「だ、大丈夫ですか?」
「これくらいは容易いことです。あ、ご婦人方で思い出したのですが……錬金師のヴィンクス氏がこちらへいらしたそうですね?」
「そんなことまで?」

 すれ違ったにしては、奥様達あの人の事も噂してたんだ?

「ええ。それにあの方が表に出られるのは珍しいですしね。巡回中に少し噂になってものですから……何かされませんでしたか?」
「い、いいえ」

 笑顔なのに、何か黒いオーラみたいなのをまとわれたので、正直に言って首を横に振る。
 途端、圧力みたいなのは消えて、イレインさんはいつも通りの笑顔になった。

「そうですか。女性の営むお店には来ることの少ない方ですからね」

 とだけ言い残して、帰っていかれました。

「……やっぱ、あの人怪しい」

 会計机でじっとしてたエリーちゃんが、扉が閉まるとそう言い出した。

「変?」
「衛兵隊の隊長なのはたしかでも、スバルの事情に突っ込みたがる。おまけに、ほぼ毎回親衛隊の会報を持って来るし」

 たしかに、今日は違ったけど会報をだいたいくれるのはイレインさんからだ。

「ロイズさんに言う?」
「まだ不確定要素が多過ぎる。あの人はまだ放ってていいけど、ヴィンクスさんについては蝶を飛ばすよ」
「だね」

 優先事項はちゃんとあるから。




************************



【お手軽ラスクの作り方(甘い物編)】


本日は、チョコやキャラメルではない甘い物をご紹介します。前回よりは手間がかからないと思います。

用意していただくのは、バゲット、イチゴジャム、バターとシンプルに。


①バゲットを5ミリ幅にスライス
*今回は先に焼く必要はありません

②イチゴジャムとバターを耐熱容器に入れ、50秒ほどチンしてから合わせる

③バゲットに②を塗り、オーブンシートの上に

④バゲットが焦げないように、トースターで3分ほど焼く(温度調整が出来るタイプなら160度)

⑤またレンジで2分ほどチンして水分を飛ばせば完成


④と⑤の工程は、バゲットが乾いてるかどうか、大きさによってかかる時間が違うなど細かい調整はありますのでご了承ください
→食パンの厚みで焼く時間が違うのと同じですねノ

また、レンジも使い慣れてる方はお分かりでしょうが、チンする時間次第でパンにこげもがつきすぎるのでご注意ください

*作者はずっと実家住まいですが、レンジがないので仕事場で慣らすしかなかったです

しおり