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第五十七話―EX―

 ここは天国か、地獄か。
 今のワシにとってすれば、どうでもいいことさね。

 あらゆる魔法でつなぎとめていた肉体が滅び、魂を昇華させたワシ――稀代の魔法使いだの破壊神だの、数々の異名を持つフィルニーアは、雲の上にいるよ。

 とはいえ、幽霊になったワケじゃあないさね。

 今のワシは世界の流れそのもの。誰にも縛られず、誰にも見つからず。本当に自由きままさね。

 おっと、帰ってきたみたいだね。
 ワシの周囲にやってきたのは、微細な光。あるいは、風。こやつらはワシの意思に従って、グラナダの情報を集めてもらっていたさね。

 グラナダ。

 転生者なのにR(レア)というレアリティになってしまった可哀想な子。
 ワシの知る中で、転生者がこのレアリティとしてやってくるのは聞いたことがない。だから初めてなんじゃないかと思う。まぁ、ひっそりとやってきて、ひっそりと死んでるのかもしれないがね。

 なんてったって、グラナダも魔物の棲息する森の中に放り込まれたんだ。しかも赤ん坊の状態で。あっさりと殺されて当然さね。
 あまりに不憫だからワシが助けたんだけど、それがアイツにとって幸か不幸かは知らないね。

 ともあれ、ワシはグラナダを育てることにした。

 R(レア)というのは、本当に色んな意味で残念さね。
 この《レアリティ》と《レベル》が支配する世界において、だ。
 この世界には、

 N(ノーマル)
 UN(アンノーマル)
 NR(ノーマルレア)
 R(レア)
 SR(エスレア)
 SSR(エスエスレア)
 UR(ウルトラレア)
 LR(レジェンドレア)

 の種類があり、カテゴリ的にはそこそこの部類だ。
 特性といえば、少ない経験値ですぐにレベルが上がる癖に、ステータスの上昇幅がSR(エスレア)とあまり変わらないことと、すぐに色々な魔法や武術といったスキルを覚えられるところさね。
 反面、スキルを含めたレベルキャップは厳しく、結局中途半端なステータスになってしまう。

 その上、グラナダの適性は光だった。

 地水火風の四大基礎属性に加え、聖、闇、雷の三属性。そして、光。
 この光ってのは、補助特化と言われているけれど、その実、光を灯すくらいしか意味がない系統、という意味で名付けられた不遇の属性さね。

 しかも、この適性を持つと、魔法における重要なファクターをしめる地水火風が苦手になる。

 ワシはそれでもグラナダを育てた。
 いくら泣き叫ぼうがトイレに引きこもろうが家出しようが何しようが。
 ワシが思いつく限りの方法で、ワシしかしらない魔法も、魔法をかけ合わせて威力を跳ね上げ、アレンジも可能な《ミキシング》も叩き込んだ。

 思い出すねぇ。ずっと小さい頃から走らせて、バテては回復魔法かけて、復活したらまた走らせて。
 その後は座学に魔法、座学に魔法。

 思えば、人生で一番充実していたかもしれないさね。

 そんなグラナダは田舎村で隠遁生活したいとかほざいてきたので、農作業もやらせることにした。
 転生者ってのは変に詳しい知識を持ってたりするもんで、グラナダもその例にだけは漏れなかった。変に土いじりに詳しく、野菜を美味しく実らせるようにしたさね。

 そのおかげで村の連中とも仲良くなれたし。

 結果、グラナダはそこまで捻くれることなく成長し、ある日、メイを助けて来た。
 この子はいかにも酷い扱いをされている農奴だったけど、付き人にはぴったりだと思って保護してやった。案の定、懐いてくれたさね。

 そして、二人はスフィリトリアの内乱に巻き込まれる。

 しかも、ワシが所要で王都にいっている間に。
 これは焦ったさね。
 内乱から逃がされたスフィリトリアの姫、セリナと護衛のシーナを魔物の群れから保護したはいいけど、魔力を使い切り、追手としてやってきたSR(エスレア)のヴァーガルってやつに倒されたんだから。

 けど、腐ってもワシの息子であり、弟子であるグラナダ。

 捕虜として投獄されたけど、妙な知識を使って脱出し、やっぱり追手としてきていたヴァーガルを見事に倒してくれたさね。そしてワシがようやくたどり着いて、保護できた。

 それからワシはストレス発散とグラナダとメイをこんな目に遭わせてくれた恨みを籠めて反乱を鎮圧し(ちょっとスフィリトリアの都を更地にした気がするけど)、戦後処理を終えて家に戻ったさね。
 グラナダはこの時に《ビーストマスター》という魔物をテイムできる固有アビリティと、世界最強の戦力と名高いハインリッヒから(こいつもワシの弟子さね)《シラカミノミタマ》を授かり、強くなったさね。

 けど、良いことがあれば悪いことは起こるもので。

 この世界を滅ぼさんとする世界の敵、魔族が田舎村を攻めて来たさね。
 魔族は世界の自然の摂理とまで言われる《神獣》を穢し、暴走させた。これはさすがのワシも参った。

 なんとかハインリッヒに連絡を取り、駆け付けてもらう間の時間稼ぎをしようと思ったけど、あっさりと負けてしまったさね、情けない。しかもその影響でグラナダも両腕を損失させてしまった。ますます情けないさね。

 結局、ワシは自分の命を投げ打ってグラナダの両腕を再生させ、なんとかグラナダとメイが逃げる時間稼ぎをしたけど――、なんとグラナダは覚醒し、とんでもない能力になって逆に魔族と暴走した《神獣》を抑え込んでしまった。
 まさにチートと言わざるを得ないね。

 それから一年と少し、グラナダとメイはさらに己を高め、王立魔導剣師学園(グリモワール)へ入学するために王都へ向かったさね。
 この学園は冒険者を養成する学校であり、つまり冒険者になりたいならここへ入学しなければならない。どうもグラナダは、冒険者になってそこそこ活躍し、その功績で田舎村を復興させようとしているようさね。

 その志は良いけど、運命ってのは残酷さね。

 数奇なめぐりあわせで王と出会って王都を救うことになったり、学園に受験しようとしたら特有のルールで受験できなくて(これはワシも盲点だったさね。まさかR(レア)の転生者は学園規則の範疇外であり、受験資格がなかったとは……)、特別措置として、人によって方法が異なる、限界突破をしてこいと言われたり。

 しかし、グラナダは見事にクリアして受験資格を手にし、入学してみせた。

 いくらでもやり方はあったろうに、正々堂々と周囲を納得してみせたさね。ちょっと強引だったけど。
 ともあれ、あまり目立たず、そこそこの成績で卒業する。

 はたして、グラナダの思い通りにいくのかねぇ?

 おっと、そろそろ移動しなければ。これからも見守ってくれるとありがたいさね。

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