第二十三話
「こ、これは天使の降臨なのか。真っ白な世界だぞ。」
アイマスクで暗かった視界に、浴室のライトが一気に照射されたため、大悟は明順応できず、何も見えなかったのである。
「何も見てないわね?」
「見てないというより、眩しく見えないんだ。」
「馬嫁にも衣装だわ。心の眼は邪念に満ちてるけど、結果オーライね。そのまま、神の胸に祈りを捧げなさい、光速で!」
「神様、お助けください!」
「そう。それでいいわ。ソッコーで目を閉じなさいよ。そして、最後に髪の毛を一本抜きなさい。」
「はあ?何かの羞恥プレイか?」
「バカなこと言うんじゃないわよ。いいから言う通りにしなさいよ。」
「でも髪の毛を抜くって、結構痛いぞ。」
「構わないわ。でもそっと、優しく、痛みを感じないようにするのよ。」
「わかった。」
大悟は腫れ物に触るように楡浬の前髪をそっと掴み、限りなく力を抜いて引いた。
「痛っ。」
神経は繋がっているので、痛みがゼロにはならない。でも楡浬は大悟を責めなかった。
大悟は視界を極端に狭めていたため、金色の髪がよく見えた。
「キューティクルに溢れているなあ。実に美しい。」
「バ、バカ。まじまじと見るんじゃないわよ。ハズいじゃない。ほら、ありがたくそれをポカーンと空いた、涎垂れ流しの空洞に収めなさいよ。」
大悟は楡浬に言われるままに、髪の毛を食べた。入浴の儀式は無事に終結した。
桃羅は空いた風呂場で入浴となり、楡浬と大悟はTシャツに着替えてリビングにいた。
「これで神馬契約の儀式が終わったわ。これからは神痛力ポイント稼ぎ・神経垂迹に励むわ。馬嫁としてアタシに仕えるのよ、いいわね?」
「神痛力ポイント稼ぎ?どこかで聞いたような?」
「あら、知ってるの?それじゃ、都合がいいわ。明日から馬車馬嫁として、擦り切れるまで、頑張りなさいよ。」
「馬車馬でもいやなのに、馬車馬嫁って、すごく響きが悪いぞ。」
「馬嫁のクセに、生意気言うんじゃないわよ。馬嫁の耳に粘物よ。」
「そんなキモいネンブツ、いやだあ!」
「何抵抗するのよ。止めなさいよ。」
「うわあああ。」
暴れる大悟を止めようとする楡浬はよろめいて、リビングの棚にぶつかり、置いてあった招き猫型貯金箱が落ちて、中から百円玉がこぼれて、楡浬の口に入った。
「痛いわねえ。このバカ馬嫁!」
楡浬が言葉を発した瞬間、楡浬のからだが光った。
「眩しい!」
【イタイ!】
大悟は思わず顔を覆った。
「アタシの神痛力を使っちゃったわ。」