優雅な空中飛行
俺は今。
優雅な空中旅行を楽しんでいる。
仲間はいない。
どうしてこうなったか。
それは、三十分前にさかのぼる――
第3章 Change the World
優雅な空中旅行
それは、ほんの30分前のことだ。
その<30分>が、彼の運命を大きく変えてしまったのも、ほんの30分前のことである。
「お、仲間にしたみたいデス」
「よかったです」
ダンジョンを出るとすぐにミアリとミントに手を振られた。どうやら俺が連れ去られた場所まで来てしまったみたいだ。
「仲間か?」
「うん……分かってんだろうな」
「はは、約束は守るって」
俺がかなりドスの効いた声でエグゼリカに言うが、エグゼリカは何ともないような適当な感じに返事をした。
「よかったデス、そういえばこのお金が──」
「その金がどうしたのかな?」
ヤバい。
俺もエグゼリカ、ミントも、そしてミアリも肩を震わせた。
恐る恐る後ろを振り向いてみると──
「そのお金とその女の子、誰かな?」
手ぶらの状態の勇者と。
その後ろにはおびただしい、と言うべき数の武装した女性であった。
「そのお金と女の子、どうしたんだ、って聞いてんだよ」
「こ、これらは……」
どう言い訳をしよう。
エグゼリカはうまい感じに小学生のような感じ費なりきって俺のズボンの裾を掴んでいる。
「……やつがれの金と……仲間……です」
「あっそ」
乗り切った。
と、思いたかった。
しかし、状況は悪化しているばかりであった。
「下僕の分際で魔王と何やってんだよお前は」
ダメだったか。
こうなったら逃げ道を探すしかないか。
しかし、ミアリはその四面楚歌の状況を1番把握し、そして一つだけ、俺の考えていることを遮るように言った。
「囲まれているデス」
「……くそったれが」
そういう他、ない。
こうなったら、囲まれている中で1番壁の薄そうなところを狙って行くしかない。
壁は、壊すのみ。
人は、殺すのみ。
「殺せ」
囲んでいた女どもが一斉に俺達目掛けて走ってく―
「ファイア」
ミアリのライターの着火音とともに。
女どもをこれ以上こちらへ寄らせないような炎のバリアーが貼られたのだった。
「ふむ。俺が行くしかないのか」
燃え盛る炎の中、勇者が剣を抜く。それに合わせて俺も剣を抜く。
身体中から冷や汗と危険信号が発せられる。
<やめとけ>と。
様子を見て──
来る!
「っ!」
なんとか片手で止める。
こういう時、一応鍛えておいた腕をほめてやりたい。
「ほほう、強くなったのう」
うるせえよ。お前は俺の母親かっつーの。
「お前はいちいちいちいちいちいちいちいち、恩着せがましいんだっつーの!」
「そりゃ、転移のチャンスをお前に与えてやったんだもんな」
「別にこんな特別な優遇してもらわんでも、しっかりやっていけたっつーの!」
そういいながら互角ともいえる剣の混じり合いをする二人。
すると。
「<展開>、モード<イージス>」
「……んだよこれ……」
勇者は、守られていた。
ダイヤモンドとも呼べるクリアなバリアーに、勇者は守られていた。
「私の」
エグぜリカが思わず声を上げる。
「エグぜリカ! 何かこバリアーの弱点とかないんか!?」
「ない! そうじゃなきゃバリアーじゃないじゃん!」
「いや、まぁそうなんだけど!」
そうなんだけどね。
何か弱点さえあれば。
何か、あれば。
「お前の仲間は一応助けてやるよ。だがな」
勇者は俺の頭にそのかえるのような手を当てた。
やばい。
逃げなきゃ。
そう思っても、体が全く動かない。
これが、恐怖、なのか。
「お前は<流罪>だよ」
「――結羅!!」
そんなミアリの叫びも虚しく。
結羅は遠く、遠くへと飛ばされていく。
また次、彼らミアリ達の声を聞くことになる時は。
少なくとも一年、なくなるのだ。
「……っつ」
物凄いところまでとばされたような気がする。
血のついたシャツとパーカーのまま、辺りを見渡してみる。
強烈な立ちくらみと共に見えたのは。
何処だか分からない。
自分の世界が狭いだけかもしれないが。
ここは、どこなんだ。
周りを見ても、俺が飛ばされた雑木林には人の気配すら見当たらない。
仲間はここにいないみたいだ。
雑木林を出ると、そこには活気あふれる街がそこにはあった。
果物を売る商人、主婦の面々。
見ているこっちがうきうきしてしまいそうな図が、そこにはあった。
それにしても、俺はどうすればいい。
テレビもねェ、ラジオもねェ。
おらこんな村嫌だ。
東京さ出るだ。
とまぁ、そんなことを言っても仕方がないので、どうにかして今日の泊る場所を探さねば。
幸い、バッグまでは離ればなれにならなかったので、今日と明日の宿をどうにかできるくらいのお金は持っている。
しかし、何かそのお金を維持しつつ、あちらへと帰れないものか。
そんな俺の願望をキレイに叶えてくれる女の子がいたのだった。
「た、たすけて! 誘拐犯!」
ふと後ろを見ると。
金髪に青い目、そしてその美しい金髪を後ろ髪の先端でしか結んでいない美しい髪の毛であった。
そんな女の子が。
超ごっついおっさん達に狙われているんだもの。
「……やるっきゃないっしょ」