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一行に入りし、提督の仲間

「あの2人を……返してはくれませんか」

俺は勇者にそう頼んだ。
そのためなら何でもするつもりだったし。
たとえ人を何人殺してでも。
俺のものは俺自身で取り返す。

「いいよん」









何だったのだろう。
俺の緊張と不安、そして覚悟と屋敷の前での胃痛と緊張のあまりの嘔吐物は何だったのだろう。
無駄だったのか。

「……そういうことなら、私は仕事あるし帰りますよ」

「……うん」

ミントも呆然としていた。が、仕事を思い出したのかそう言った。

「よっ」

ミカエが俺の肩をポンと叩いて挨拶をする。

「なかなかいい生活でしたね」

クリムもそう言っている。
そんな2人のお肌は前よりもピチピチになっていて、より女性らしくなっているような……

あっ。

「貴様……」

「ん、何か言った?」

「いえ。何でもないです」

今の独り言が勇者に聞こえていたとは。



それはともかく。
平和的な解決法でクリムとミカエを取り返せたのだからまぁいいだろう。

ミントは仕事がある、と言って、あの街に帰るので俺は送る、と言ったのだがそこまで迷惑はかけられないです、と断られた。

「じゃあ、たまには帰ってきて下さいね」

「うん、たまにじゃなくて週一で帰ってくるよ」

「バカも休み休み言ってくださいね」

ミントは俺のデコをデコピンする。

「いった」

「じゃ、皆さん、この結羅さんのことよろしくお願いしますね」

ミントはクリムとミカエ、そしてリーベに一礼をしてから馬車に乗り込んだ。
そんな馬車は、いつも見ている馬車より速度が速く見えた。




「さぁ、私達も帰りましょ」

ミカエは俺の頭を一つ撫でた。

「確かに、別れは悲しいことだけど、私たちには私達の仕事があるからね」

「そうだけど……」

「恋愛に我慢は付き物。切っても切り離せないくらいにね」

ミカエは俺よりも一つ歳が上だ。そしてクリムはミカエよりもまた一つ大きい20だ。

「また会えますよ。あなたとミントさんの糸はもう鋼並みに硬いはずですよ」

リーベがそう言った。

「うん……そうだよな……前を向いて行こう……振り返っても嫌なものしかないもの」

「その意気ですよ」

クリムもそう言う。

「じゃあ、行きましょ」

「行くって、どこに?」

俺がそう返すと、ミカエは地図を広げた。

「ここ。ブリューナク王国よ」








「待って!!」

俺達が旅の支度をしている時、どこかからそんな声が聞こえた。

「なんか聞こえなかった?」

「ボクは待ってって聞こえましたが」

リーベはそう言う。

「ていうか、誰」

ミカエがリーベを指差し尋ねるので、俺はリーベを改めて紹介した。

「リーベ。つい昨日仲間になった。よろしくってことで」

「ボクはリーベです。よろしくです」

「よろしくだよー」

「よろしくお願いしますね」

クリムとミカエがそう挨拶をする。

「無視すんなよ」






「お、アベルじゃーん」

「聞こえてたのに無視すんなよ」

憤慨したようにアベルは腰に手をあてる。

「空耳アワードしてるんかと思って」

「あーそれな」

ミカエがもはやギャル化している。悲しきこと限りなし。

「んで、お前に聞きたいことがあってな」

「ん?」

アベルは俺を指を指した。

「お前この世界の人間じゃないだろ? 俺もなんだよ」







「俺は鹿島推しだわ」

「お、結羅は鹿島推しかぁ。俺は時雨かなー」

俺とアベルは同じ提督のフレンズだった様で。かなり話が合う。

「お前、前の名前は?」

「長門智志ながとともゆきだよ。アベルって名前は適当ー」

「何、ペンネームみたいなの使ってんの? 厨二ー」

「うるせぇ」

「なに言ってんのかわかんないから私にも分かる話をしろー」

ミカエに一喝される。

「んじゃいくか」

アベルがいつの間にか準備を終わらせている。

「行くって、どういうとこだよ」
俺が尋ねると、ミカエには少し怒っているように聞こえたのか、

「んあ、ごめんごめん」

と謝る気もない感じに謝ってから説明した。

「ここはね──」








「あのさぁ……」

言いたいことは色々あったのだが、まず一番。

「行くとこが寒いって言ってくれないかな?」

「許してクラレンス」

モッコモコのコートを着て手袋をしたミカエが両手を合わせて謝る。謝る気は無さそうだが。

「極寒の地に来る前までそれを言わないとは……鬼畜ですね」

これにはクリムも批判した。

「まぁ、面白くていいですが」

「クリムさん……ぶっ殺す」

「あらあら、接近戦は苦手ですよ」

そんなクリムもモッコモコのコートを着ているのだが。

「よければボクの貸しましょうか? 背丈も同じくらいですし」

「ダメ!」

リーベの良心はやはりミカエによって遮られた。

「あの子が苦しむ姿はね、私の養分だから」

そういえばクリムもミカエもモッコモコのウールみたいなコートを着ているのだが。

「それ……いくらした?」

「これですか? これは12万トリンですよ」

クリムがそう答えた。多分ミカエのも同じやつだ。

「まさか……勇者がミカエとクリムを何の躊躇もなく手放した理由って……」

ミカエはゲス、そしてクリムは浪費家。

あっ……。ふーん。







「んで、そのブリュッセル王国はどんな王国なの?」

「ブリューナク王国ね」

アベルに正される。

「極寒の地なのに何かよく分かんないけど潤ってる王国だよ」

アベルがそう教えてくれる。

「んで、俺達は何をすれば?」

ミカエに聞くと、ミカエは別になんでもないような顔で答えた。

「強行偵察」

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