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ボッチ、冒険者になる

 ───大通りには思わずこちらがほっこりする程に明るい雰囲気が満ち溢れていた。

 道中には道化師に、バンドみたいなものだろうか。音楽隊が陽気な旋律を周囲に向けて響かせている。

 奏でる音楽に笑顔で手拍子を合わせている多くの子供連れの家族がまた一段に周囲を明るくさせる。

 行き交う人達はそんな集団を邪魔だとは到底思えず、逆に微笑ましく思いながら通りすぎていく。

 駿達もまたその一人で、楽しい昼食を摂った後に散策を開始し、偶然道中でそんな光景を見かけながら、微笑ましく思って通りすぎていった。

「ふふっ......良い曲だね?」

 伽凛は笑顔で駿にそう投げ掛ける。

「そうだね」

 頬を緩ませながら返事した後、また二人して後ろに遠ざかっていく音色の方向に振り返る。

 演奏は終わったのか、子供と大人が混じった黄色い歓声が耳に届いた。

 それに夕香と三波も思わず笑みを溢す。

ブレーメンの音楽隊みたいだったな......演奏もそうだけど、やっぱり周りの雰囲気がいい。いつか伽凛さんと二人きりで行ってみたいっ......

「......そういえば、地球の路上ライブとこっちの路上ライブってなんか違うような気がする......」

 六人して歩きながら、駿が率直に思った言葉を口にする。

「なんか違う......か。確かにな。俺も感じた」

 優真は少し黙考した後、答える。

「周りの受け入れが良いことなんじゃないか? ほら、俺達の世界じゃ路上ライブやってても素通りしてた人が多かったじゃん」

「あぁ......だからオープンに感じたのか」

 路上ライブを観ている人が多ければ集団心理で観やすくなり、自ずと人が集まってくる。

 駿も思ってたことなのか、やはりその場の雰囲気が違った。

やっぱり異世界はいいなぁ......街並みは綺麗だし、なによりRPGと同じような雰囲気が好きだわ。今も冒険者が俺の横を通っていったし......やべえ! なんか魔法をはじめて使えた時と同じくらいに嬉しい! センキューここの神! 召喚された時止めないでくれてマジでありがとう!

「───あれじゃない? 」
 
 そうガッツポーズをしてると、昼食を食べているときに皆で決めた次の目的地を見つけたのか、夕香が前の方向を指して首を傾げた。

「......たぶんあれだな」

「うわぁ......イメージ通りだ」

「え......? ほんとにあそこに行くの?」

「まぁ......今後のために......」

 夕香の問いかけに、優真と駿の二人は何故か嬉しそうに反応し、三波と伽凛は苦そうに反応した。

「えっと、あそこって何て言うんだっけ?」

 そう駿に疑問を言ったのは希だった。

 駿はそれに対して不敵に笑いながらこう答える。 

「────あれは師匠、いやアリシアさんから教えてもらった通りに言うと、あそこは王都直属の『ギルド』。冒険者達の拠点だ」

 その後、駿達は砦のような大きな建造物の扉の前で立ち止まる。

 そして優真は先ほどからの不敵な笑みを崩さずにこう呟いた。

「別称『荒くれ者の巣窟』......俺の知識上だとそう認識してる」



= = = = = =
 


 ギルドの中は、駿と優真がイメージした通りの光景が広がっていた。

 その為か駿達男性陣は余り驚かなかったが伽凛達女性陣は思わずという程に瞠目している。

 荒くれ者、いや冒険者達が大きな机を挟んでジョッキを片手に怒号にも似た歓声を、離れた位置にある机で腕相撲をしている冒険者達に送っており、野太いその声達で気弱な人であればすくんでしまうだろう。

 床には普通に肉や野菜等、料理の残骸が所々に落ちており、賭け事でもしてたのか銀貨まで転がっている。

 会話の声量もお構い無しに大きく、目立ちたいのかと勘違いしてしまうほどだ。
 
 それに比べ、女性冒険者達は普通に受付で依頼を受注したり、報酬をもらったり、依頼掲示板の前で熱心に寄せられた依頼を見ている。
 
 勿論、男性冒険者にも真面目な人は多くもないが少なくもない人数が居るため、女性冒険者達と同じように掲示板の方を考えている素振りで見つめていた。

 そんなギルドの統一感が一切合切見えない光景に、「流石だな」と駿は頷きながら扉の前で立ち止まっていた足を受付の方に進めた。

 他の皆も駿に付いていく。

 当然だが、好奇な視線達に晒される。

 歩く一歩一歩の仕草をまるで見極めるかのように凝視されている。

「「「「......!」」」」

 伽凛達は思わず足がすくんでしまっているが、駿に至っては堂々というよりウキウキした雰囲気だ。

あぁ......! ここがギルド......! ここが......異世界!

 多数の視線を背に、やがて受付の前で足を止めた駿は異世界で言ってみたかったことランキング二位の言葉を口に出した。

「すみません......冒険者登録したいのですがっ!」

うおぉおおおおおおおお......言えた、言えたぞ! 冒険はここから始まるんだよ! この言葉は陸上競技でいいスタートを切るためには欠かせないクラウチングスタートと同じようなものなのだよ!

 それに対し、茶髪碧眼のショートボブの可愛らしい印象も受付嬢は営業スマイルで応えた。

「はい。登録ですね? お連れの五人の方も同じでしょうか?」

 そう駿の肩越しに伽凛達を一瞥する。

「そうです」

「では......」

 受付嬢は棚から六枚の紙を机に並べさせ、次には水晶を取り出した。

「こちらの用紙は履歴書と同じようなものです。必ずご記入いただきたい項目は名前と年齢、性別、入団規約の承諾の四つです。それら以外はご自身の意思ですので、出来れば書いてほしいのですが無理して記入していただけなくても結構です」

「分かりました。皆書こう」

 駿はそう呼び掛けた後、羽根ペンを受けとり紙の方を注視した。

 項目は次の通りだ。

────
名前:

年齢:

性別:

出身:

職業:
 
副業:

入団規約

・命を保証しません。自己責任でお願いします。

・金品の管理はこちらでしますが落とし物などはギルド内で確認しても預かることは致しません。

・規律と常識を守った行動をしてください。

・以下の項目をギルドマスターの名の下(もと)に制定します。

承諾 拒否

────



「なんか......規約が......子供の言い付けみたいな......」

待って......冒険者ってそんなに幼稚なの? マジでイメージ通りじゃん

 聞こえないようにそう小声で呟いた後、書ける項目を埋めていく。

えっと......名前は近藤 駿と......年齢は17で......性別は男、出身は......信じてもらえないからパスだな。職業は......ダークナイトって書きたいところだが混乱するよね? これもパスだな。副業もやってないからパスで。入団規約は絶対に守れる自信ある。うん、即承諾だな

───

名前:シュン コンドウ

年齢:十七歳

性別:男性

出身:

職業:
 
副業:

入団規約

・命を保証しません。自己責任でお願いします。

・金品の管理はこちらでしますが落とし物などはギルド内で確認しても預かることは致しません。

・規律と常識を守った行動をしてください。

・以下の項目をギルドマスターの名の下(もと)に制定します。

承諾>拒否

────

よし、これでいいだろう

「あの」

「はい。終わりましたね?」

 記入し終わった紙を受付嬢に見せ、「確認致しました。シュンさんですね。......では───」と、次にステータスを水晶で調べることになった。

「終わりましたー」

 と、夕香を筆頭に皆も記入し終わったのか次々に受付嬢に確認しに来た。

「あ、はい。シュンさん、すみませんが先にやっていて下さいますか?」

「了解です」

 駿は言われた通りに水晶に手を置いてステータス確認に移った。

 やがて生成されたステータスが記された紙を何故か世話しなく手に取り、ペンを片手に何かを急いで書いている。

「ふぅ......」

これで大丈夫なはずだ......

 ───数分後

「───すみませんシュンさん。......えっと、ステータス用紙は......」

「あ、はいこちらです」

「ご丁寧にありがとうございます。少々お待ちください」

 因みに、受付嬢は五人いるので冒険者登録の確認に追われているこの受付嬢の仕事を他の四人の受付嬢が受け継いでいる。

 そのため、効率を落とすこともなくギルドは平常運転だ。

 受付嬢は駿のステータス用紙に目を落とし、目を見開いた。

えっ......このレベルで能力値平均が300後半だなんてっ......

 ───ステータスはこうだった。

------------------------------

コンドウ・シュン

男性

人族

■■■■■■
↑魔法剣士

Lv1→Lv4

HP  320→420

攻撃力 438→538

魔攻力 290→390

MP  315→415

敏捷  589→689

耐久  227→327




スキル

剣術 4Lv/10

火属性魔法 3Lv/10

闇属性魔法 2Lv/10

隠蔽 2Lv/10

自動回復(大)付加


固有スキル

 状態異常倍加(下位)

・状態異常の効果が二倍される
・自分の体に何らかの異常が起きた場合、それが付加される

------------------------------

すごい......この人相当鍛練してから戦闘経験をしたんだ......剣術4で珍しい闇属性魔法も使えて......固有スキルは『状態異常倍加』のハズレだけど......それでも能力値だけでみたらDランク。私、将来活躍する冒険者に会ったみたい......この人は間違いなく今年の有望株ね

「お強いのですね。シュンさん」

「え? あっ......ありがとうございます」

「もしかして凄い量の鍛練をされたのですか?」

「は、はい。一ヶ月毎日、一日中走ったり、剣を振ったり、魔法を撃ったりしてましたね」

「それならこんなレベルでこの能力値は納得ですね」

「えぇ......死にそうでしたよ......」

なるほど......死にかけるほど頑張ったんだなぁ......

「尊敬します。あのここだけの話で言いますと冒険者って基本的に怠惰な人が多い印象を受けるので......」

 受付嬢にそう小言で言われ、駿は再度、机で談笑している酒に酔った大柄な男達を一瞥し

「確かに」

 と一言。

「ですから、シュンさんとシュンさんのお仲間さんのような努力家な人がギルドに入っていただけるのは嬉しいのですよ」

「努力家......そんな言葉ははじめて言われましたよ。俺はこれでもその仲間の中では一番気楽な方なんですけどね」

「ふふっ......そうでしたか」

「ええ......」

 受付嬢の笑顔に釣られ、駿はそう苦笑した後、ステータス確認中の優真、伽凛達の方見つめながら呟く。

「皆凄いんですよ。あの二人......優真と伽凛さんに至っては皆を引っ張って来ましたし、安藤さん、橘さん、岩沢さんの三人は強い力に屈せず、自分の考えを持ち続けたんです」

俺がいない間、絶対優真と伽凛さんは厳しい訓練中でも皆を引っ張ってたと思うし、安藤さん達は高山達の何度にもわたる脅しを受け入れはしたが、完全には受け入れていなかったし......くそ。高山とかいう糞野郎め......覚えてろよ

 受付嬢は駿の言葉の真意は分からないが、意図は理解できた。

「......なるほど」

「なのでなんの特色がない俺はこれから皆のことを見習おうと思うんです」

 優真の牽引力......伽凛さんの素直さ......安藤さん達の心の強さ。全て俺に必要なものだと思う。

 そんな駿に受付嬢は微笑んだ。

「そうですか......私も見習おうと思います。シュンさんのように人の良いところを吸収しようとする努力な所を......」

「......え?」

「シュンさんにだって特色はあるんですよ。こうやって一人を見習わせるぐらいの特色が......」

 そう自身を指差した受付嬢に瞠目する。

「さて......では皆様の方にそろそろ行かないといけないので」

 そう話を切り上げ、受付嬢は皆の方のステータスを確認しにいってしまった。

「......特色、ね」

 残された駿はそう一言その場に残して、お手洗いに行くのだった。


= = = = = =



「───はい、皆様の冒険者登録は完了しました。早速これを渡したいと思います」

 手洗いから戻ってきた駿を含め、全員に手渡されたのは銅でできた薄いカードだった。

「それはギルドカードです。使用用途は身分証明時に使います。また、所有者がもし危険な状態に陥ったらこちらに知らせてくれる魔法をかけてありますので安全的な面でも肌身離さず持っておいてください。そしてここギルドには階級などがありまして、ランクについて説明させてください。基本的には、クエストの達成量、Lvでランク分けされます。FからDが銅。CからBが銀。AからSランク以上は金のギルドカードになります。ギルドカード紛失時は自腹でまた作成費用を払ってもらいます。決して安くないことを頭に入れておいて下さい。依頼についての詳しい説明はまた後程致します......質問はありますか?」

「......ある?」

「ない」

優真はな?......他の皆はどうなんだ?

 駿は伽凛達に確認するように視線を向けた。

「うーん......無いかな?」

「私も無いよ」

「私も。ね? 希」

「うん。無いよー」

「だそうです」

「そうですか。ではなにか聞きたいことがあればまたお越しください」

「はい......説明ありがとうございました。えっと......?」

「あ、申し遅れました。私はリーナと申します。これからのご活躍を期待しております。シュンさん」

「ご期待に添えるかどうか分かりませんが、精一杯頑張ります」

 駿はそう言った後、一礼をしてから皆を連れてギルドから出ていき、それをリーナは営業スマイルか素の笑顔かどうか分からない、大輪の花のような笑顔で見送るのだった。

= = = = = =


「今日は依頼を受けないんだ?」

 ギルドから出た後、一度来た噴水広場に再度足を運び、皆してベンチに座っている。

 晴れて冒険者の仲間入りを果たしたが今日は何故か依頼を受注しなかった駿に問いかけたのは三波だった。

「今二時くらいだから受けたとしても帰ってくるのが五時以降になると思うし、今日は城下街散策なんでね。まだまだ回り足りないでしょ?」

「だな。依頼は気が向いたらでいいし」

「じゃあ次はどこに行くの?」

 伽凛は小首を傾げ、駿が答えた。





「次は闘技場に行こうかなって思ってるんだよね」


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