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厄災の始まり7

 乗り物酔いのことを伝え忘れたことに気がついたのは、電車に乗る直前。しかも乗った電車は、夏姫から見れば「混み合って」おり、二駅のみの乗車で痴漢にあうとは思わなかった。
「昨日から思っていたが、君は情け容赦がないね」
「痴漢と変態に情けをかけろと?」

 蹴ってホームに叩き出しただけましだと思ってほしい。本来ならもっとぼこぼこにしてやりたかったのだ。警察や交番に突き出すところだが、乗り物酔いのため駅員に案内してもらった医務室に痴漢も引き取りに来てもらった。そしてその医務室で夏姫は休んでいる。
「乗り物は全部だめ。人の多いところもだめ」
「よくこんな都心部に出てくる気になったね」
 聖が感心しているのがわかった。
「十子さんが訳ありになっちゃったのと、荒療治?」

 人嫌いがあるため、少しでも多くの人間と関わらせたかったというのがあるだろう。
「それだけで家を出せるという君の母親の神経がすごいと思うが」
「十子さんだしね」
 悪いことをしたなと思うのは、痴漢を引き取りにきた警察と医務室の駅員の相手を全て聖にしてもらったことだ。できることなら話したくないため、思わず黙りこくってしまったのだ。
「今までどうやって過ごしてきた?そこまで酷くて。対人恐怖症に近いものがあるよ」
「何とかなるもんだよ」
「昨日は一日術中にあったんだがね」
 そんなもの興味ない。
「起きて大丈夫かい?」
「ここで寝ていてもこれ以上回復しないから」
「足だけ見せなさい」

 スニーカーしか履いたことのない夏姫の足は、履きなれない靴で靴擦れを起こしていたのだ。
「……平気」
「絆創膏だけはるよ」
「自分ではる」
 触られたくない。聖は黙ってこちらに絆創膏を寄越した。
「?」

 履いた靴に違和感を覚えた。
 気がついたら聖は駅員に礼を述べていた。

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