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厄災の始まり6

「あぁ、そうだ。家に連絡しなくていいのかい?」
 唐突に聖が話をかえた。
 夏姫は言われて、連絡ができていないのを思い出した。さて、どうしたものか。
「家出してきたんだ。心配してるんじゃないのかい?私もいきなり警察に押しかけられるのは困る。連絡しなさい」
 どうしよっかなぁ、別に十子と話すのは全くもって構わないのだが。それに十子が家を出るように言ったんだから、正確には家出じゃない。そんな事をこの変態に言いたくない。

「私に聞かれたくないと言うのなら、部屋で携帯を使うもよし、そこの電話を使うから、上に行っていろと言うのなら、それでも構わないよ」
 気を使ってだろう。聖が言う。
「……つか、何で連絡してないと思ったの?」

 ふと疑問に思い聖に尋ねる。何となく、というのが答えだった。
「まぁ、かまをかけたんだけどね。連絡しているのなら、最初の問いの時に連絡したと答えるだろう。誰しもね」
 なるほど。夏姫は曖昧にしたから、連絡していないというのが判ったというわけだ。
「確かに。あたしまだ未成年だし。保護者にくらい連絡しないといけないんだろうね」
「……未成年だったのか」
 聖が驚く番だった。
「そう。この身長と顔立ちで間違えられるけど。三月に高校卒業したばっかだし。来年二月には十九になるけどさ」
 聖がまた目を丸くして驚いていたが、やっと言いたい事を思い出したのだろう。口を開いた。
「なおさら連絡しなさい」
「連絡するの良いんだけど……」
 夏姫が言葉を切る。聖はそのあとを促してきた。
「あそこに連絡は面倒なんだよね。色々やっかいなことになるから」
「……家出の原因か」
「一部ね。田舎にいるの嫌だったし。あとは十子さんがっていうのもあるし、それに……」
 そこで言葉を濁す。もの凄く言いにくい。だが、聖の視線は全て言えといわんばかりだった。
「携帯、止まってんだよね。料金払えなくなってさ」
 止まる前は連絡とっていたよと、取り繕うように夏姫はまくし立てた。

「……おい」
 聖があきれ果てて突っ込みを入れてきた。
「そこの電話を使いなさい」
「んー。やめとく。十子さん、知らない番号の電話取らないから。それに今日家にいるかわかんないし。看護師だからさ、いない可能性があるんだよね」
「では、その十子さんとやらは携帯持ってないのかい?」
「持ってるよ。不携帯電話だけど」
 滅多に持ち歩かない人なのだ。
「しかも知らない番号は留守電入ってても、出ない、かけ直さない人だから。ここからかけるのはちょっと」
「……今すぐ払ってきて連絡取りなさい」
 でかいため息をつきながら聖が言う。だが、夏姫から見ればそこまであわてる必要はないんじゃないかなと思ってしまう。

「支払うお金はあるのかい?」
「ないよ」
 あったらとっくに払ってるし、その金で田舎に帰る選択肢も出てくるのだが。
「いくら必要だ?」
 この金額は前借になるのだろう。だいたいの金額を聖に言う。
「今回は私も年齢を聞かなかったというのがあるから、前借分には含まない。特別措置だ」
「そう?あたしも聞かれなかったから答えなかっただけだけど」
「その代わりといっては何だが、君の言う『十子さん』と君の間柄は?」


「……母親」
 少しだけためらった後答えた。そして小さく一応ねと付け加えた。
「母親ならなおさら今日中に支払って連絡を取りなさい」
 聖は繰り返し夏姫を促した。だが、夏姫はどうしてもためらいが出てしまう。
「私も一緒に行こう。このあたりの地理に対して君がどのあたりまで詳しいかわからないからね。それに払わなかったなんて馬鹿げた落ちがつくと悪いしね」
「さすがに払う。一人のほうがいい。駄目というなら魔青と一緒にいく」
 その言葉に魔青がはしゃぎだしたが、聖は駄目だという。
「魔青はやめておいた方がいい」
「理由くらい聞かせて」
 夏姫の問いに聖は笑う。
「一応君の使い魔になったからね。君の能力だと魔青のことが見えるヒトと見えないヒトが出てきてしまう。色々と厄介だ。それに連れ歩けば『私は魔術が使えます』と公言しているに等しい。私とは行きたくないのかも知れないが、サファイにも同様のことが言えてしまう。つまり一緒に行けるのは私だけだ」

 どうせだからと聖は魔青にも留守を命じていた。それに対して魔青は当たり前のように突っかかっていた。
「魔青じゃダメなの?せっかくマスタが魔青と行くって言ってくれたのに!! おっきいマスタの意地悪―!!」
 聖のことは「おっきいマスタ」と呼ぶつもりらしい。完全に駄々をこねる子供にしか見えない。
「魔青、いい加減にしなさい」
「やだやだやだ――!! マスタと行く――!!」
「魔青」
 聖はもう一度魔青を呼んで、一つの瓶を前にかざす。そして、どうしても一緒に行きたいのならこの中に入れと言う。さすがに夏姫は驚いて聖に抗議しようとするが、サファイに止められ言えなかった。魔青はその瓶と聖を交互に見てしぶしぶ頷く。
「入ればいいんだよね? そしたら魔青はマスタと一緒にお出かけできるんだよね?」
 そう言い、躊躇なく瓶に入る。聖はその瓶の蓋を閉じて、夏姫に渡してきた。
「……ここまでしなくても」
「いや、もともと魔青はそこに入っていた。寝床のようなものだ。使い魔を連れて歩く時はこの瓶の中に入れて持ち歩く方がいい」
 そういうものなのか。
「それから、基本的に使い魔は主の気配を追えるから、魔青の場合は君の気配も私の気配も追える。何かあったら魔青を瓶から出して言伝を頼みなさい」
「……ふうん」

 夏姫は瓶を受け取ったものの、入れる場所が無い。困っていると、聖はもう一度瓶を自分に渡すように言う。そしてなにやら呪を唱えると、瓶が小さくなりチェーンがついていた。
「これなら首から下げてても大丈夫だ」
 ネックレスのように首からぶら下げ、出歩くこととなった。

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